特許を巡る争い<63>サントリー・熱中症関連飲料特許

サントリーホールディングス株式会社の特許第6807477号は、熱中症対策などのためにナトリウムを多く含有する飲料において、3価鉄を含有させて、ナトリウムの塩味が改善された飲料に関する。異議申立され、拒絶理由通知(新規性欠如)されたが、飲料として食物繊維を一定値以上含有する飲料を除く、除くクレームの形にすることによって権利維持された。

サントリーホールディングス株式会社の特許第6807477号“鉄含有飲料”を取り上げる。

特許第6807477号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6807477/3622A4573D5D7B692E0455D1CD802D4D79249053F3372818041F2B0CB89CF39A/15/ja)。

【請求項1】

ナトリウム及び鉄を含む飲料(ただし、鉄が含糖錯体鉄である場合を除く)であって、

(a)ナトリウムの含有量が40~120mg/100mlであり、

(b)鉄の含有量が0.4~2mg/100mlであり、

(c)タンパク質濃度が2%未満であり、

(d)鉄が3価鉄である、

上記飲料。

【請求項2】~【請求項5】 省略

本特許発明は、本特許明細書には、“ナトリウムに由来する塩味が改善された鉄含有飲料に関する”発明であると記載されている。

本特許発明の技術的背景については、“ナトリウムを含有する熱中症対策用の飲料が人気を集めている。しかし、ナトリウムを含有する飲料は、ナトリウムに起因する塩味が生じることから、飲料の嗜好に影響を与えることが従来からの課題であった。”

“特に飲料中のナトリウム濃度が35mg/100ml以上となった場合に、ナトリウム由来の塩味が顕著に感じられることを見出した”と記載されている。

そして、“ナトリウム含有飲料において感じられるナトリウム由来の塩味の解消に、所定量の鉄が有用であることを見出した。かかる知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った”と記載されている。

本発明で用いられる鉄については“ナトリウム由来の塩味の改善効果が優れている点から、3価鉄が特に好ましい。3価鉄の鉄化合物としては、特に限定されないが、例えば、塩化第二鉄、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄などが挙げられる。

本発明では、3価鉄の鉄化合物として、特にピロリン酸第二鉄が好ましい。“と記載されている。

公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2021-101692、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2021-101692/3622A4573D5D7B692E0455D1CD802D4D79249053F3372818041F2B0CB89CF39A/11/ja

【請求項1】

ナトリウム及び鉄を含む飲料であって、

(a)ナトリウムの含有量が35~120mg/100mlであり、

(b)鉄の含有量が0.2~2mg/100mlである、

上記飲料。

【請求項2】~【請求項5】省略

上記請求項1について、特許公報に記載された請求項1と比較すると、

鉄として、含糖錯体鉄である場合が除かれ、3価鉄に限定されたこと、

ナトリウム及び鉄の含有量の範囲が減縮されたこと、及び

タンパク質濃度の含有量が数値限定されたことによって、特許査定されている。

本特許は、令和2年4月13日に出願されているが、令和2年4月7日及び令和2年4月10日に公開されたウェブページで公開された技術を出願したもので、新規性喪失の例外(特許法第30条第2項)の適用を受けて、出願されている。

また、早期審査によって特許査定を受けた結果、公開公報よりも前に特許公報が発行された(公開日令和3年7月15日、特許公報発行日令和3年1月6日)。

特許公報の発行日(令和3年1月6日)の約半年後(7月2日)、一個人名で異議申立された。

審理の結論は、以下のようであった(異議2021-700614, https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2020-071696/3622A4573D5D7B692E0455D1CD802D4D79249053F3372818041F2B0CB89CF39A/10/ja)。

特許第6807477号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

特許第6807477号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。

異議申立人は、甲第1号証~甲第6号証を提出して、新規性欠如及び進歩性欠如を主張した。

異議申立人の主張に対して、審判官は同年10月15日付けで、以下のような取消理由を通知した。

1.理由1(新規性:電子的技術情報)

審判官は、異議申立人の提出した甲第1号証(電子的技術情報1)には、

森永乳業の「ミルク&フルーツPLUS+ シトラスミックス」が掲載されており、掲載時期が2018年7月、市場が日本、店名が東急ストア(目黒)であり、価格が149円であることが示されている。

そして、上記(1c)には、商品のパッケージ側面の写真が掲載されており、「原材料名」に「ピロリン酸鉄」が、「栄養成分表示1本(330ml)当たり」に「たんぱく質 1.5g」、「ナトリウム 160mg」、「鉄 4.5mg」、及び「食物繊維 8.2g」が、それぞれ記載されている“と認めた。

電子的技術情報1:“Mixed Citrus Drink(Record ID:5815257)”,[online],2018年7月,MINTEL GNPD,インターネット<URL:http://www.gnpd.com>(甲第1号証)”

また、異議申立人の提出した甲第2号証(電子的技術情報2)には、

森永乳業の「ミルク&フルーツPLUS+ フルーツスミックス」が掲載されており、掲載時期が2018年12月、市場が日本、店名が東急ストア(目黒)であり、価格が149円であることが示されている。

そして、上記(2c)には、商品のパッケージ側面の写真が掲載されており、「原材料名」に「ピロリン酸鉄」が、「栄養成分表示1本(330ml)当たり」に「たんぱく質 1.5g」、「ナトリウム 220mg」、「鉄 4.6mg」、及び「食物繊維 8.2g」が、それぞれ記載されている“と認めた。

電子的技術情報2:“Mixed Fruit Drink(Record ID:6188977)”,[online],2018年12月,MINTEL GNPD,インターネット<URL:http://www.gnpd.com>(甲第2号証)”

そして、審判官は、“本件特許の請求項1~3に係る発明と引用発明1又は引用発明2とに相違するところはない。

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~3に係る発明は、電子的技術情報1又は電子的技術情報2に掲載された発明である“と結論した。

2.理由2(新規性:公然実施)

審判官は、本件特許の請求項1~3に係る発明と、異議申立人の提出した甲第1号証(電子的技術情報1)に開示された公然実施発明1又は甲第2号証(電子的技術情報2)に開示された公然実施発明2とに“相違するところはない。

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~3に係る発明は、電子的技術情報1(公然実施発明1)又は電子的技術情報2(公然実施発明2)から認定できる公然実施をされた発明である“と結論した。

拒絶理由通知に対して、特許権者は、同年12月15日で訂正請求書を提出した。

訂正は認められ、特許請求の範囲は、以下のように訂正された。

訂正【請求項1】

ナトリウム及び鉄を含む飲料(ただし、鉄が含糖錯体鉄である場合を除く)であって、

(a)ナトリウムの含有量が40~120mg/100mlであり、

(b)鉄の含有量が0.4~2mg/100mlであり、

(c)タンパク質濃度が2%未満であり、

(d)鉄が3価鉄である、

上記飲料(ただし、食物繊維を8.2g/330ml以上含む飲料を除く)。

訂正【請求項2】~訂正【請求項5】 省略

請求項1について、訂正前のクレームと比較すると、飲料として、食物繊維を8.2g/330ml以上含む飲料を除く、除くクレームの形に減縮されている。

訂正された特許請求の範囲について、前記した取消理由(理由1 新規性:電子的技術情報及び理由2 新規性:公然実施)が解消されているかどうかについて審理された。

審理の結果は、以下のようであった。

1.理由1(新規性:電子的技術情報)

審判官は、“本件訂正発明1~3と甲1発明又は甲2発明とを対比すると、本件訂正発  明1~3は、「食物繊維を8.2g/330ml以上含む飲料を除く」と特定しているのに対し、甲1発明又は甲2発明は、「食物繊維の含有量が8.2g/330ml」である飲料である点で相違する”ことから、

“本件訂正により、本件訂正発明1~3は、甲1発明又は甲2発明を除くものとなったから、本件訂正発明1~3は、甲1発明又は甲2発明ではない”と結論した。

2.理由2(新規性:公然実施)

審判官は、理由1と同様に、“本件訂正発明1~3と公然実施発明1又は公然実施発明を対比すると、本件訂正発明1~3は、「食物繊維を8.2g/330ml以上含む飲料を除く」と特定しているのに対し、公然実施発明1又は公然実施発明2は、「食物繊維の含有量が8.2g/330ml」である飲料である点で相違する”ことから、

“本件訂正により、本件訂正発明1~3は、公然実施発明1又は公然実施発明2を除くものとなったから、本件訂正発明1~3は、公然実施発明1又は公然実施発明2ではない”と結論した。

そして、審判官は、理由1(新規性:電子的技術情報)及び理由2(新規性:公然実施)は理由がないとして、本件特許請求項1~5に係る特許を維持すると結論した。