特許を巡る争い<67>三栄源エフ・エフ・アイ株式会社・エグ味改善方法特許

三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の特許第6808334号は、特定性質のルチン酵素処理物を用いて、ルチン酵素処理物含有食品等の香味を改善する方法に関する。異議申立てされ、拒絶理由通知が発送されたが、ルチン酵素処理物を一種類の化合物に限定し、かつ、香味をエグ味に限定することによって、権利維持された。

三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の特許第6808334号“香味改善方法”を取り上げる。

特許第6808334号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下である(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6808334/7F33DC7886E634FCD813D75754EC5990978DDADF7B1DD1D5979A3C69F97135D2/15/ja)。

【請求項1】

タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物を用いることを特徴とする、飲食品、医薬品、医薬部外品または化粧料の香味改善方法。

【請求項2】~【請求項9】

本特許明細書には、”ルチン酵素処理物”について、

“ルチンとは、天然に広く存在するフラボン配糖体の1つであ”り、

本発明の“ルチン酵素処理物とは、ルチンを酵素によって処理して得られたものであり、

例えば、デキストリンの存在下で糖転移酵素を作用させ、酵素処理ルチンとしてもよく、

また、加水分解酵素でイソクエルシトリンとしたものや、イソクエルシトリンをさらにデキストリンの存在下で糖転移酵素を作用させ、酵素処理イソクエルシトリンとしたものでもよい”と記載されている。

香味改善方法”について、“この発明は、タンパク質および脂質の含量の少ないルチン酵素処理物を用いることを特徴とする香味改善方法に関し、このルチン酵素処理物を用いることによって、ルチン酵素処理物を含有する食品、経口用医薬品、経口用医薬部外品および化粧料の香味を有意に改善する方法に関する”と記載されており、

具体的には、“この明細書において、香味改善方法とは、ルチン酵素処理物の不快臭やエグ味をなくして、ルチン酵素処理物を高濃度含有する食品等の香味を改善する方法を示している”と記載れている。

公開特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下である (特開2017-158489、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2017-158489/7F33DC7886E634FCD813D75754EC5990978DDADF7B1DD1D5979A3C69F97135D2/11/ja)。

【請求項1】

タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下のルチン酵素処理物を用いることを特徴とする香味改善方法。

【請求項2】~【請求項13】 省略

請求項1については、“香味改善方法“が、”飲食品、医薬品、医薬部外品または化粧料の香味改善方法“と限定されたことによって、特許査定を受けている。

特許公報発行日(2021年1月6日) の半年後 (2021年7月5日)、一個人名で、記載不備及び進歩性欠如を理由とする異議申立てがなされた

審理の結論は、以下であった(異議2021-700631、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6808334/7F33DC7886E634FCD813D75754EC5990978DDADF7B1DD1D5979A3C69F97135D2/15/ja)。

“特許第6808334号の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。

特許第6808334号の請求項1~2及び4~9に係る特許を維持する。

特許第6808334号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。“

異議申立て後、2021年10月11日付けで取消理由通知が送付された。

取消理由は、特許請求の範囲の請求項1~9に対するサポート要件違反であった。

取消通知の要点は、以下の通りである。

(1)本件特許発明が解決しようとする課題

本件特許発明が解決しようとする課題は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載から、「ルチン酵素処理物を含有する飲食品、医薬品、医薬部外品および化粧料におい

て、不快臭及びエグ味のいずれも少ないルチン酵素処理物を提供する」ことであると認める。“

(2)不快臭について

「不快臭」との記載は、発明の詳細な説明の段落0004、段落0021、及び段落0022に、単なる一行記載としてあるのみであり、本件特許発明1~9のいずれかにより、ルチン酵素処理物を含有する飲食品、医薬品、医薬部外品および化粧料において、不快臭の問題を生じない(一定程度減少させる)ルチン酵素処理物を提供することができたことは、発明の詳細な説明において実施例などにより具体的に記載されていない。

したがって、本件特許発明1~9は、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らして、当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものではない。

したがって、本件特許発明1~9は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(3)チン酵素処理物について

酵素処理イソクエルシトリン以外のルチン酵素処理物を含有する飲料に対して本件特許発明1~9のいずれかを適用したものについては、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載及び単なる羅列記載以外に、発明の詳細な説明において実施例などにより具体的に記載されていない。

そして、“以上のとおり、本件特許発明1~9は、発明の詳細な説明に記載したものでない”と結論された。

取消理由通知に対して、特許権者は、2021年12月13日に、意見書及び訂正請求書を提出した。

訂正請求は認められ、特許請求の範囲は、以下のように訂正された。

【請求項1】タンパク質の含量が2質量%以下、および脂質の含量が1質量%以下の酵素処理イソクエルシトリンを用いることを特徴とする、飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品のエグ味減少方法。

【請求項2】~【請求項9】 省略 (なお、請求項3は削除された)。

特許公報に記載された請求項1と比較すると、

“ルチン酵素処理物”を“酵素処理イソクエルシトリン”に限定、

“香味改善方法”を“エグ味減少方法”に限定されている。

訂正された特許請求の範囲についての審判官の判断は、以下のようであった。

a.2021年10月11日付け拒絶理由通知の(2)不快臭について

“本件訂正により、訂正前の「香味改善方法」は、訂正後の「エグ味減少方法」に改められたところ、不快臭の問題を生じるか否かは、上記『酵素処理イソクエルシトリンを食品等に高濃度用いても、エグ味が生じない、飲食品、経口用医薬品、または経口用医薬部外品のエグ味減少方法の提供』という課題解決の成否に関係がない。

したがって、当該(2)に指摘する不備によっては、本件特許の特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明において開示されている技術的事項の範囲を超えているとはいえない。“

b.2021年10月11日付け拒絶理由通知の(3)ルチン酵素処理物について

“本件訂正により、訂正前の「ルチン酵素処理物」は、訂正後の「酵素処理イソクエルシトリン」に改められた。

したがって、当該(3)に指摘する不備によっては、本件特許の特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明において開示されている技術的事項の範囲を超えているとはいえない。“

これらの理由によって、審判官は、“本件訂正によって、取消理由で指摘した理由1(サポート要件)は理由がないものとなった”と結論した。