特許を巡る争い<83>キッコーマン・照焼食品用レトルト調味液特許

キッコーマン株式会社の特許第6923467号は、ターメリックとチキンエキスを含有させることによって、醬油が配合された容器詰調味料のレトルト臭を抑制する方法に関する。新規性欠如及び進歩性欠如の理由で異議申立てがなされ、取消理由が通知されたが、請求項1を削除するなどの訂正をすることによって、権利維持された。

キッコーマン株式会社の特許第6923467号“レトルト容器詰調味用組成物及びその使用”を取り上げる。

特許公報に記載された特許第6923467号の特許請求の範囲は、以下の通りである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6923467/B70F06BE1C991236E3C4D9393AFCDE042AC473C4B9B0C400298805E648C952F8/15/ja)。

【請求項1】

醤油と、ターメリックと、チキンエキスとを含有し、かつ、

該醤油の含有量は該ターメリックの含有量よりも多い量である、

レトルト容器詰調味用組成物であって、

前記ターメリックは、ショウガ科ウコン属の多年草(Curcuma  longa)の根茎を乾燥した粉末である、前記組成物。

【請求項2】

前記組成物は、照焼食品を調理するための組成物である、請求項1に記載の組成物。

【請求項3】~【請求項7】 省略

本特許明細書には、“このレトルト殺菌法は、容器をレトルト槽内に並べ、レトルト槽の温度を蒸気や熱水などにより120℃程度まで上昇させて、所定の殺菌効果が得られるように一定時間の殺菌処理を施す方法”であり、“容器内の食品や調味料の保存性を良好なものとすることができる。”

”しかし、レトルト殺菌処理に供した食品や調味料は、独特なレトルト臭が発生するという問題があ”り、“「レトルト臭」とは、レトルトパウチに封入した食品や調味料を加圧加熱殺菌処理に供した際に生じる加熱臭や酸化臭などの不快臭をいう”と記載されている。

そして、“醤油を含有しつつも、レトルト臭が低減されたレトルト調味料については、これまでにほとんど知られていない”と記載されている。

本特許発明について、本発明者らは、“醤油を含有しつつも、ターメリック及びチキンエキスを組み合わせて含有させることにより、レトルト殺菌後においてもレトルト臭が抑制されたレトルト容器詰調味用組成物が得られることを本発明者らは見出し”、このような知見をもとに、”醤油と、ターメリックと、チキンエキスとを含有する、レトルト容器詰調味用組成物;該組成物を利用した加工食品;該加工食品の製造方法;及び該加工食品の風味を改善する方法を創作することに成功した”と記載されている。

そして、“本発明の一態様の組成物は、例えば、肉や魚を主食材とする照焼食品を調理する際に用いることにより、得られる照焼食品に対して、レトルト臭を抑制し、すっきりとした醤油の風味を付与することができる。

驚くべきことに、本発明の一態様の組成物を用いて、肉を主食材とする照焼食品を調理することにより、肉に由来する臭みを抑制することができる。

したがって、本発明の一態様の組成物は、照焼食品用の調味用組成物であることが好ましい”と記載されている。

本特許の出願日は2018年2月27日であるが、出願日以前にキッコーマン株式会社のウェブサイトに公開され、スーパー等の全国の食品販売店に卸された商品に用いられた技術であったため、本特許は特許法第30条第2項(新規性喪失の例外規定)の適用を受けて出願された

特許公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下である。特開2019-146523

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-146523/B70F06BE1C991236E3C4D9393AFCDE042AC473C4B9B0C400298805E648C952F8/11/ja

【請求項1】

醤油と、ターメリックと、チキンエキスとを含有し、かつ、

該醤油の含有量は該ターメリックの含有量よりも多い量である、

レトルト容器詰調味用組成物。

【請求項2】~【請求項7】 省略

【請求項1】については、“ターメリック“を、”ショウガ科ウコン属の多年草(Curcuma  longa)の根茎を乾燥した粉末“に限定することによって、特許査定を受けている。

特許公報の発行日(2021年8月18日)の約半年後(2022年2月16日)一個人名で異議申立てがなされた異議2022-700130

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2018-033642/B70F06BE1C991236E3C4D9393AFCDE042AC473C4B9B0C400298805E648C952F8/10/ja)。

審理の結論は、以下であった。

“特許第6923467号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。

特許第6923467号の請求項2ないし7に係る特許を維持する。

特許第6923467号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。“

異議申立人が申立てた異議申立理由は、以下の2つであった。

申立理由1(甲第1号証を根拠とする新規性)

本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であ“る。

申立理由2(甲第1号証を主たる根拠とする進歩性)

本件特許の請求項2ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであ“る。

甲第1号証:「楽団長のレトルトカレー図鑑 土佐はちきん地鶏『カレーうどんの素』(高知県/2011)」、2016年7月22日、https://ameblo.jp/gakudancrescent/entry-12183018380.html

異議申立後の2022年6月23日付けで、取消理由通知書が送付された。

取消理由は、以下の2つであった。

(1)取消理由1(新規性欠如)

本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であ”る。

(2)取消理由2(進歩性欠如)

本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであ”る。

なお、取消理由に引用された甲第1号証は、異議申立人が証拠として提出した甲第1号証であった。

審判官は、甲第1号証には、“商品名「土佐はちきん地鶏 カレーうどんの素」と称するカレーソースの画像が開示され、併せて、その原材料“や” レトルトパウチ食品“の記載があり(甲1発明)、本特許請求項1に係る発明(本件特許発明1)と甲1発明とを対比すると、以下の一致点・相違点があると認めた。

一致点:“「醤油と、チキンエキスとを含有するレトルト容器詰調味用組成物」”である点。

相違点1:“レトルト容器詰調味用組成物に関し、本件特許発明1は「ターメリック」を含有するものであって、「ターメリックは、ショウガ科ウコン属の多年草(Curcuma longa)の根茎を乾燥した粉末である」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。“

相違点2:“レトルト容器詰調味用組成物に関し、本件特許発明は「該醤油の含有量は該ターメリックの含有量よりも多い量である」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。“

審判官は、上記相違点1について、以下のように判断した。

・“カレー粉(カレーパウダー)には主たる原料として「ターメリック」が含まれており”、“スパイスとして用いられる「ターメリック」は、ショウガ科ウコン属の根茎を乾燥後粉砕されたパウダー状のものである”のは技術常識である。

・“これらの技術常識をふまえると、甲1発明の「カレー粉」には「ターメリック」が含まれており、当該「ターメリック」はショウガ科ウコン属の根茎を乾燥後粉砕されたパウダー状のものであるといえるから、相違点1は実質的な相違点ではない。”

また、相違点2について、以下のように判断した。

“食品の原材料表記は、配合量の多い原料順に列記されるものであるとの技術常識からすれば、甲1発明のレトルトパウチ食品である土佐はちきん地鶏カレーうどんの素に含まれる「しょうゆ(醤油)」の量は、「カレー粉(ターメリックを含むもの)」の量よりも多いと認識できる。してみると、相違点2も、実質的な相違点ではない。”

以上の理由によって、審判官は、“本件特許発明1は、甲1発明である。また、仮にそうではないとしても、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。と結論した。(本件特許発明3及び4についての審理結果は、省略)。

特許権者は、上記した取消理由通知に対して、2022年8月19日に意見書及び訂正請求書を提出した。訂正は認められ、請求項1は削除され、特許請求の範囲は、以下のように訂正された。

【請求項1】(削除)

【請求項2】

醤油と、ターメリックと、チキンエキスとを含有し、かつ、

該醤油の含有量は該ターメリックの含有量よりも多い量である、レトルト容器詰調味用組成物であって、

前記ターメリックは、ショウガ科ウコン属の多年草(Curcuma longa)の根茎を乾燥した粉末である、照焼食品を調理するための前記組成物。

【請求項3】~【請求項7】省略

訂正された特許請求の範囲について、審判官は、2022年6月23日付け取消理由通知書で通知した取消理由について、以下のように判断した。

2022年8月19日に提出された訂正請求書による訂正により、“取消理由に係る請求項のうち請求項1は削除され、また、請求項3及び4はいずれも、取消理由のない請求項2を直接又は間接的に引用するものに減縮された。よって、取消理由1、2はいずれも解消された。”

また、2022年6月23日付け取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由(請求項2、請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3ないし7に係る部分)について、以下のように判断した。

本特許発明の請求項2に係る発明(本件特許発明2)と甲1発明とを対比すると、甲1発明とを対比すると、以下の一致点・相違点が認められる。

一致点:“「醤油と、チキンエキスとを含有するレトルト容器詰調味用組成物」”である点。

相違点1、相違点2:省略

相違点3:“レトルト容器詰調味用組成物に関し、本件特許発明2は「照焼食品を調理するための前記組成物」と特定されるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。”

相違点3について、“甲1発明は甲第1号証に記載されているとおり、「土佐はちきん地鶏 カレーうどんの素」と称する商品としてのカレーソースである。

つまりカレーうどんとするためのカレーソースであることからみても、甲1発明を、相違点3に係る本件特許発明2に特定するような「照焼食品を調理する」用途に用いる動機がない。また、全ての証拠の記載をみても、カレーソースを照焼食品に適用することが通常行われていると伺わせる記載もない。

本件特許発明2は、その特定事項を満たすことにより、「醤油を含有しつつも、レトルト臭が低減されたレトルト容器詰調味用組成物を提供する」との格別の効果を奏するものである。

・“特許異議申立人は、甲第2号証をあげつつカレーうどんスープをタンドリーチキン(照焼食品)の調理に用いることは知られているから、甲第1号証に記載された「カレーうどんの素」を用いて、甲第2号証にあるように、タンドリーチキン、即ち照焼食品の調理に適用する動機付けがある旨主張”する。

甲第2号証:「タンドリーチキン」、2017年8月26日 https://cookpad.com/recipe/4233336

・しかし、“甲第2号証で用いることが想定されているのは、「カレーうどんスープ(カレー粉)」であって、甲1発明のようなカレーソースではない。

・“そして、甲1発明は、甲第1号証の記載から、“専ら、カレーソースを温め、そのまま、温めたうどんにかけることが想定されるものであることからみても、甲1発明のカレーソースを、照焼食品の調理に適用する動機付けがあるとはいえない。

よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。