特許を巡る争い<64>伊藤園・青汁飲料特許

特許第6790163号は、銅イオン及び亜鉛イオンを特定量含有させて、青汁などの容器詰緑色飲料の緑色の経時的劣化を抑制する方法に関する。異議申立され、二度拒絶理由通知が出された後、伊藤園は訂正(全請求項削除)し、その結果、異議申立は却下された。

株式会社伊藤園の特許第6790163号“高温下で長期間緑色を保持可能な容器詰青汁飲料”を取り上げる。

特許第6790163号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6790163/C576D562363EB094671735277875C865C6A56A336D322EB146954D7DACD595FC/15/ja)。

【請求項1】

容器詰青汁飲料であって、

銅イオンを0.5ppm以上、5ppm未満含有し、

亜鉛イオンを0.5ppm以上、5ppm未満含有し、

銅イオンの含有量と、亜鉛イオンの含有量との比率(銅イオン/亜鉛イオン)が

0.25~9.0の範囲内である、容器詰青汁飲料。

【請求項2】~【請求項9】省略

本特許明細書には、“青汁などの緑色飲料には、その鮮やな緑色が経時的に劣化するという問題が潜在的に存在している。高温下などの過酷な条件下では変色が更に進んでしまうため、青汁をレディ・トゥ・ドリンクなどの容器詰飲料の形態で流通させる場合、その間に起こりうる過酷な条件に緑色を保持できないという懸念がある”と記載されている。

また、本特許発明は、“所定の濃度の銅イオンと亜鉛イオンを配合した容器詰青汁飲料を調製したところ、緑色の保持が高温下で長期間実現可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った”と記載されており、“緑色野菜の例としては、大麦若葉、ケールがより好ましく、大麦若葉がさらにより好ましい”と記載されている。

公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りであるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2020-156430/C576D562363EB094671735277875C865C6A56A336D322EB146954D7DACD595FC/11/ja)。

【請求項1】

容器詰青汁飲料であって、

銅イオンを0.5ppm以上、5ppm未満含有し、

亜鉛イオンを0.5ppm以上、5ppm未満含有し、

銅イオンの含有量と、亜鉛イオンの含有量との比率(銅イオン/亜鉛イオン)が

0.25~9.0の範囲内である、容器詰青汁飲料。

【請求項2】~【請求項9】省略

出願時の請求項1は、そのまま特許査定を受けている。

なお、本特許は、出願後約2か月経過時に早期審査請求され、2020年10月26日に特許査定を受けた。

このため、特許公報が発行(発行日2020年11月25日)された後に、公開公報が公開された(特開2020-156430、公開日2020年10月1日)。

特許公報発行日(2020年11月25日)の約4か月後(2021年3月30日)、一個人名で異議申立がなされた。

審理の結論は、以下のようであった(異議2021-700317 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-061766/C576D562363EB094671735277875C865C6A56A336D322EB146954D7DACD595FC/10/ja)。

令和4年2月22日提出の訂正請求において、特許第6790163号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8、9について訂正することを認める。

本件特許異議の申立てを却下する。

以下、請求項1に係る発明に絞って、審査結果を紹介する。

異議申立の約4か月後、取消理由通知書が発送された(起案日2021年7月30日付け)。

取消理由は、実施可能要件違反及び明確性違反であった。

審判官の通知した取消理由は、具体的には以下のようであった。

A(実施可能要件)

1.本件明細書の実施例の「試験1」~「試験4」において、銅含有量と亜鉛含

有量は、【0048】に「各青汁飲料中の銅含有量及び亜鉛含有量は、…」とあ

ることから、各試験における青汁の原料成分由来の銅並びに亜鉛をも含めて測定

しているものと解される。

2.”本件実施例で使用される原料は、大麦若葉、ケール、銅酵母、亜鉛酵母の四

種である。”

しかし、参考例、比較例、実施例の各々における銅並びに亜鉛の分析値に鑑

みると、銅酵母並びに亜鉛酵母由来の銅並びに亜鉛のみを測定しているものと解

される。

3.このため、本件発明1に係る「容器詰青汁飲料」における銅イオンと亜鉛イ

オンの濃度、並びに、「銅イオンの含有量と、亜鉛イオンの含有量との比率(銅

イオン/亜鉛イオン)」の値は、何をどのように測定したものであるのか理解で

きない。

したがって、”本件発明の詳細な説明は、本件発明1を実施することができる程度に

明確かつ十分に記載したものとはいえない。

B (明確性)

”上記のとおり、「容器詰青汁飲料」における銅イオンと亜鉛イオンの濃度、並びに

両イオンの比率の値は、“何をどのように測定したものであるのか理解できない”から、

“本件発明に係る「容器詰青汁飲料」における銅イオンと亜鉛イオンの濃度、並びに、

「銅イオンの含有量と、亜鉛イオンの含有量との比率(銅イオン/亜鉛イオン)」の値を

明確に定めることができない。“よって、本件発明1は明確でない。

拒絶理由通知に対して、特許権者は意見書を提出した(2021年10月1日)。

意見書の内容は、以下のようであった。

 審判官殿からは、「参考例、比較例、実施例の各々において、銅酵母あるい

は亜鉛酵母の配合割合が0の時の銅あるいは亜鉛の分析値は0である」とのご指

摘を賜っておりますが、

銅と亜鉛の分析値が記載されている本願明細書の段落0056における表1の有効数字は

小数点第1位であるため、大麦若葉に由来する銅と亜鉛の含有量は本件発明1に係る

「容器詰青汁飲料」における銅イオンと亜鉛イオンの濃度、並びに、

「銅イオンの含有量と、亜鉛イオンの含有量との比率(銅イオン/亜鉛イオン)」の値に実質的な影響を及ぼしません。

オ ケールも大麦若葉と同様に、亜鉛含有量は約0.3mg/100g、銅含有

量は約0.05mg/100gと極微量にすぎません(乙第1号証)。

参考例、比較例、実施例のいずれもケールを0.1質量%含有するため、ケール由来の亜

鉛含有量は0.0003ppm、銅含有量は0.00005ppmとなり、大麦若葉由来の

含有量と同様に、ケール由来の亜鉛や銅の含有量も、本件発明1に係る「容器詰青汁飲料」

における銅イオンと亜鉛イオンの濃度、並びに、「銅イオンの含有量と、亜鉛イオンの含有量

との比率(銅イオン/亜鉛イオン)」の値に実質的な影響を及ぼすことはありません。」“

上記意見書に対して、審判官は再び取消理由通知(2021年12月23日付け)を発送した)。

審判官は、以下のように判断した。

ア 本件実施例で使用される原料は、大麦若葉、ケール、銅酵母、亜鉛酵母の四

種である。

イ 実施例に記載された試験1~4における大麦若葉及びケールそれぞれの最大の配合量に着目し、公知文献に記載された大麦若葉及びケールの銅及び亜鉛の含有量をもとに、各試験での銅及び亜鉛の含有量を計算すると以下の数値となる。

“試験3実施例4Cの条件下で大麦若葉由来の銅は最大0.35ppm、亜鉛は最大0.56ppm、ケール由来の銅は0.001ppm、亜鉛は0.06ppmとなる。”

“また、大麦若葉とケールの配合量が試験3実施例4Cの半量である試験1、試験2、試験3実施例4B、試験4では、大麦若葉由来の銅は最大0.175ppm、亜鉛は最大0.28ppm、ケール由来の銅は0.0005ppm、亜鉛は0.03ppmとなる。”

そうすると、少なくとも試験1、試験2、試験3実施例4B及び4C、試験4においては、特に大麦若葉由来の銅イオン及び亜鉛イオンの存在量は、青汁中の銅イオン及び亜鉛イオンの分析値(ppm)の小数点第1位の値に影響を及ぼすことが明らかである。

よって、令和3年7月30日付け取消理由で示したとおり、本件発明1に係る「容器詰青汁飲料」における銅イオンと亜鉛イオンの濃度、並びに、「銅イオンの含有量と、亜鉛イオンの含有量との比率(銅イオン/亜鉛イオン)」の値は、何をどのように測定したものであるのか依然として理解できない。

また、上記のとおりであるから、本件発明に係る「容器詰青汁飲料」における銅イオンと亜鉛イオンの濃度、並びに、「銅イオンの含有量と、亜鉛イオンの含有量との比率(銅イオン/亜鉛イオン)」の値を明確に定めることができない。

よって、本件発明1は,明確でない。

再度の拒絶理由通知に対して、特許権者は訂正請求した(2022年2月2日)。

訂正請求は、本特許請求項1~9を削除するものであった。

訂正請求に対する審判官の判断は、以下のようであった。

訂正事項1~9は、本件特許の請求項1~9(全請求項)を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

“よって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

そして、本件異議申立てについて、

“本件特許の請求項1~9(全請求項)は訂正により削除されたため、本件特許の請求項1~9に対して申立人がした特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなった。

したがって、本件特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである“と結論した。