特許を巡る争い<61>テーブルマーク社・冷凍味付け炒め米飯特許

テーブルマーク株式会社の特許第6735181号は、特定の粘度の調味液を用いて、米飯を炒め調理する工程を有する、チキンライスなどの冷凍炒め米飯の製造方法に関する。進歩性欠如及び記載不備(サポート要件違反、実施可能性要件違反、明確性要件違反)の理由で異議申立されたが、訂正することによって権利維持された

テーブルマーク株式会社の特許第6735181号“冷凍加熱調理済米飯および冷凍炒め米飯の製造方法”を取り上げる。

特許第6735181号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りであるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6735181/CBE070FAECCC3F3CE7B3689E5D8E68B97E7B066884E334E8ABE137012F342F9C/15/ja)。

【請求項1】

B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cPである調味液を用いた、冷凍炒め米飯の製造方法。

【請求項2】~【請求項6】 省略

本特許明細書には、本発明の解決すべき課題について、

“発明者らは、トマトケチャップなど塩または醤油以外の調味料により主として味付けされる炒め米飯(チキンライス等)の場合、調味液の脱液および焦げ付きの発生が顕著であることを見出した。以上を鑑み、本発明は香ばしい風味を有する冷凍加熱調理済米飯、特に香ばしい炒め風味を有する冷凍炒め米飯の製造方法を提供することを課題とする” と記載されている。

本特許発明の奏する効果については、”本発明で得られた冷凍炒め米飯は、電子レンジ等により加熱して喫食される。前述のとおり、本発明の冷凍された炒め米飯は、喫食時に香ばしい炒め食感を有する“と記載されており、本発明の冷凍炒め米飯として、冷凍チキンライス、冷凍ピラフ、冷凍ドライカレーなどが例示されており、実施例には、炒めチキンライスの製造方法が記載されている。

公開特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2017-35082、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2017-035082/CBE070FAECCC3F3CE7B3689E5D8E68B97E7B066884E334E8ABE137012F342F9C/11/ja)。

【請求項1】

B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cPである調味液を用いた、冷凍炒め米飯の製造方法。

【請求項2】~【請求項6】 省略

本特許は、拒絶理由通知なしに特許査定となったため、特許請求の範囲は、特許公報と公開公報とは同一である。

特許公報発行日(2020年8月5日)の半年後 (2021年2月4日) 、一個人名で異議申立てがなされた。

審理の結論は、以下のようであった( 異議2021-700123、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-158729/CBE070FAECCC3F3CE7B3689E5D8E68B97E7B066884E334E8ABE137012F342F9C/10/ja)。

特許第6735181号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~5]、6について訂正することを認める。

特許第6735181号の請求項1~5に係る特許を維持する。

特許第6735181号の請求項6に係る特許についての異議の申立てを却下する。“

異議申立人は、甲第1号証~甲第22号証及び参考文献1を提出して、本特許は取り消されるべきであると主張した。

以下、本特許請求項1に係る発明(本件発明1)を中心に、異議申立人の主張する異議申立理由を紹介する。

1.申立理由1(進歩性欠如)

“本件発明1、3~6は、本件優先日前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明“(甲1発明)”及び甲1~甲8に記載された技術的事項に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであ”る。

甲第1号証cookpadの公式ホームページ、「コーンリゾット風」、[online]、2010年7月4日、[令和3年1月24日検索]、インターネットURL:https://cookpad.com/recipe/1176203(以下「甲1」という。)

甲第2号証~甲第8号証 省略

2.申立理由2(サポート要件違反)及び申立理由3(実施可能要件違反)

“以下の(1)~(9)の点で、サポート要件及び実施可能要件の要件を満たさない“。

(1)”本件発明1~6には、測定時の粘度が所定の範囲(「B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cP」)にあることのみ規定され、米飯と混合する際の調味液の粘度について規定がなく、粘度測定時の調味液が80℃で所定粘度を有していたとしても、米飯と混合する際に調味液に温度変化がある場合には、脱液が起こったり、調味液の風味が変質や損失する等して、課題を解決できないと解される“。

(2)~(6)省略

(7)”本件発明1~6の「冷凍炒め米飯」について、特定粘度を有する調味料を米飯に混合するだけで香ばしい風味が得られることは、本件明細書の実施例に一切示されていないことから、炒め工程を経た米飯であることが定義されていない”。

(8)“本件発明1~6の特定粘度の調味液を「用いた」について、どのように当該調味液を用いて冷凍炒め米飯又は冷凍加熱調理済米飯を得るのか一切記載がなく、種々の態様がクレームの文言上”、“本件発明1~6に該当し得ると解されるところ、

当該種々の態様はいずれも本件発明の課題を解決できると解されないから”、”本件発明1~6は本件発明の課題を解決できないものを包含して”いる。

(9)省略

3.申立理由4(明確性要件違反)

以下の(1)~(3)の点で、サポート要件及び実施可能要件の要件を満たさない。

(1)“請求項1、6の「調味液を用いた」との記載、及び”、“請求項1を引用する”“請求項3~5の記載は、加熱調理前の使用に限定するのか、加熱調理中の使用も包含されるのか、それ以外なのか、不明確である。”

(2)“請求項1の「冷凍炒め米飯」との記載”が、“米飯食品の種類を指すのか、それとも、米飯の炒め工程を経たことを指すのか、解しがたく不明確である。”

(3)省略

特許異議申立日の約三か月後、以下のような取消理由が通知された。

1.取消理由1(明確性要件違反)

本件発明1に記載の「冷凍炒め米飯」”とは、“結局のところ、炒め調理工程を経て製造される「冷凍炒め米飯」を意味するのか、それとも、炒め調理工程を経て製造される「冷凍炒め米飯」のみならず、炒め調理工程を経ずに製造される「冷凍炒め米飯」をも含むものを意味するのか、どちらを意味するのか明らかでなく、不明確である”。(上記“異議申立人の“申立理由4のうち(2)に対応するもの”

2.取消理由2(サポート要件違反)

“発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識を踏まえても”、“本件発明1に記載の「冷凍炒め米飯」”として、“炒め調理工程を経ずに製造される「冷凍炒め米飯」の場合、どのように実施すれば、調味液の脱液及び焦げ付きの発生が抑制された、香ばしい風味を有する「冷凍炒め米飯」の製造方法を提供するのか不明であるから”、

当該場合を含む本件発明1が、“調味液の脱液及び焦げ付きの発生が抑制された、香ばしい風味を有する「冷凍炒め米飯」の製造方法を提供するという課題を解決できると当業者が認識することができるとはいえない”。(上記“異議申立人の申立理由2のうち(7)~(8)に対応するもの”

上記拒絶理由通知に対して、特許権者は意見書及び訂正請求書を提出した。

訂正請求は認められ、以下のように特許請求の範囲は訂正された。

訂正【請求項1】

B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cPである調味液を用いて米飯を炒め調理することを備える、冷凍炒め米飯の製造方法。

【請求項2】~【請求項6】 省略

【請求項1】については、特許公報記載請求項1の「調味液を用いた」の文言が、「調味液を用いて米飯を炒め調理することを備える」と訂正された。

訂正【請求項1】に係る発明に関して、前記取消理由についての審判官の判断は、以下のようであった。

1.取消理由1(明確性要件違反)についての判断

“本件発明1の「冷凍炒め米飯」について、本件発明1の「冷凍炒め米飯の製造方法」は、訂正によって「・・調味液を用いて米飯を炒め調理することを備える」方法となったのであるから、本件発明1の「冷凍炒め米飯」は、炒め調理工程を経て製造される「冷凍炒め米飯」を意味すると理解でき、不明確な点はない。

したがって、本件発明1の「冷凍炒め米飯」との記載は、明確である“と結論した。

2.取消理由2(サポート要件違反)についての判断

“(ア)本件発明1の解決しようとする課題について 本件発明1“の解決しようとする課題は、調味液の脱液及び焦げ付きの発生が抑制された、香ばしい風味を有する冷凍炒め米飯の製造方法を提供することであると認める。“

“(イ)調味液の脱液及び焦げ付きの発生が抑制された、香ばしい風味を有する冷凍米飯の製造方法に関し、発明の詳細な説明に“記載された”実施の態様及び実施例より、

B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cPの調味液を用いて米飯を炒め調理すれば、米飯と混合した際に脱液しにくく、炒め調理の際に焦げ付きが発生しにくく、香ばしい風味を有する冷凍米飯を製造できることが理解できるとともに、

このことは、調味液は米飯と混合した際に、炊飯した米飯に付着または吸収されやすいので脱液しにくく、その結果、加熱調理機内で調味液が遊離して存在しにくいとの作用機構の推定も示されていることから、

炒め調理をはじめとする加熱調理の場合には、焦げ付きを防止することができ、調味液の脱液及び焦げ付きの発生が抑制された、香ばしい風味を有する冷凍米飯の製造方法を提供でき、当業者が本件発明1“の”前記課題を解決し得ると認識できるといえる。

したがって、本件発明1は“発明の詳細な説明に記載したものであるといえ“ると結論した。

審判官は、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立の申立理由1(進歩性欠如)についての判断も示した。

審判官は、本件発明1と甲1発明と対比して、以下の一致点と相違点を認めた。

一致点: “「調味液を用いて米飯を炒め調理することを備える、炒め米飯の製造方法」

である点“

相違点1:“調味液が、本件発明1では、B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cPであるのに対し、甲1発明では、そのような粘度であるか明らかでない点”

相違点2:省略

相違点1について審判官は以下のように判断した。

(a)甲1発明の「コーンリゾット風」のソースのレシピには、“粘度について、甲1には、記載も示唆もされておらず、不明である。

また、甲1発明のソースのレシピの”粘度が、本件発明1で特定される、「B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cPである」であることは甲1には記載はなく“、また、”そのような粘度であることが技術常識であるとも認められない。

そうすると、甲1発明のソースの“粘度が、「B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cPである」ことが記載されているに等しいとはいえない。

したがって、相違点1は、実質的な相違点といえる。

(b)甲1発明は、「コーンリゾット風」の“レシピであり、そのレシピの提供を目的とするものといえ、本件発明1の課題と異なるものである。

そのような甲1発明において、ソースの“粘度を、本件発明1で特定される、「B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cPである」ようにしようという動機付けがあるとは認められない。

また、甲2~甲8に記載された事項を検討しても、“甲1発明のような実施例において”、ソース”の粘度を、「B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cPである」ようにすることを動機付けることとなる記載や示唆がないし、本件優先日当時の技術常識からも動機付けられるものでもない。

“したがって、甲1発明において”、ソースのレシピ“の粘度を、「B型粘度計によって80℃、20rpmで測定した粘度が50~180cPである」ようにすることは、当業者といえども、甲1~甲8に記載された技術的事項から容易に想到し得たとはいえない。

そして、 本件発明1の効果は、“調味液の脱液及び焦げ付きの発生が抑制された、香ばしい風味を有する冷凍炒め米飯の製造方法を提供できることであり、そのような効果は、甲1~甲8の記載された技術的事項から当業者が予測できる範囲を超えた顕著なものといえる。

これらの理由から、審判官は本特許発明は進歩性を有すると結論した。