株式会社伊藤園の特許第7641090号は、内容液の味わいの経時変化や光への曝露による退色が抑制されたアントシアニン含有飲料に関する。進歩性欠如、及び実施可能要件・サポート要件違反の理由で異議申立てされたが、いずれの理由も採用されず、そのまま権利維持された。

株式会社 伊藤園の特許第7641090号“容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の製造方法および退色抑制方法”を取り上げる。
特許第7641090号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下である(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7641090/15/ja)。
【請求項1】
アントシアニン含有果汁含有飲料であって、
エンジュ由来の抽出物と、
アントシアニン含有混濁果汁と、
を含む、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項2】~【請求項15】 省略
本特許公報の明細書には、“アントシアニン”について、“ポリフェノールの一種である一群の化合物群であって、ブドウ(特に、赤ブドウ)、カシス、ベリー類などの果実や野菜に豊富に含まれており、抗酸化作用等の生理活性を有するほか、光を吸収し呈色する性質を有するため色素としても用いられる”と記載されている。
また、“アントシアニン含有混濁果汁”について、“アントシアニンを含有する果汁の清澄化処理していないものをいい、果実に由来する混濁成分や不溶成分などの固形物を含んだ果汁である。・・・・・アントシアニン含有混濁果汁は、ブドウ(特に、赤ブドウ)、ザクロ、カシス、エルダーベリー、アロニア及びブルーベリー等の果実から得られる果汁が挙げられ、これらの果汁を2種以上配合してもよい”と記載されている。
そして、“アントシアニン含有果汁含有飲料は、視覚的に果汁感を得るために液色が重要であるが、退色しやすいという問題がある。中でも、容器詰低果汁含有飲料は液色が薄いことから、光が透過しやすいため劣化による退色が進みやすいといった問題があった”と記載されている。
この問題を解決するために、本発明者は、“マメ科植物由来の抽出物と、アントシアニン含有混濁果汁と、を含む容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料が、アントシアニン含有果汁の自然な味わいを十分に有しながら、内容液の光への曝露や経時による劣化に起因する退色が抑制されたものとなることを見出し、本発明を完成させるに至った”と記載されている。
“マメ科植物由来の抽出物”としては、“エンジュの抽出物およびダイズの抽出物は、他のマメ科植物の抽出物と比べ、抽出物自体の味やにおいが少なく、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の香味に与える影響が少ないことから、エンジュ、ダイズが好ましい。また、エンジュの抽出物は果実のフレッシュ感に寄与するため、エンジュが特に好ましい”と記載されている。
なお、“エンジュ“は、”マメ亜科エンジュ属の落葉高木。中国原産。日本には古くに渡来し、花蕾や莢は生薬にして役立てられた“である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A5)。
本発明を用いれば、“アントシアニン含有果汁の甘みと酸味のバランスや果実のフレッシュ感といった自然な味わいを十分に有しながら、内容液の経時や光への曝露による退色を抑制した容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料およびその製造方法を提供することができる。また、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の退色抑制方法も併せて提供することができる。本発明は特に低果汁の飲料に好適である”と記載されている。
本特許の公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下である(特開2021-159056、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-159056/11/ja)。
【請求項1】
アントシアニン含有果汁含有飲料であって、
マメ科植物由来の抽出物と、
アントシアニン含有混濁果汁と、
を含む、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項2】~【請求項16】 省略
請求項1に係る発明は、“マメ科植物由来の抽出物”を“エンジュ由来の抽出物”に限定して特許査定を受けている。
特許公報の発行日(2025年3月6日)の約6か月後(9月4日)に一個人名で異議申立てされた(異議2025-700868、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2020-067813/10/ja)。
審理の結論は、以下のようだった。
“特許第7641090号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。”
特許異議申立書に記載された異議申立て理由は、以下の3点であった。
(1)“申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであ“る。
甲第1号証:再公表特許2010/110328号公報
【発明の名称】水易溶性イソクエルシトリン組成物
【出願人】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(2)申立理由2(実施可能要件)及び(3)申立理由3(サポート要件)
“本件特許の請求項1ないし15に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない”。
具体的には、以下の4点であった。
① “アントシアニン混濁果汁について”
ア.本件特許発明1には、「アントシアニン含有混濁果汁」との記載があるが、実施例で用いた赤ブドウ混濁果汁について、混濁の程度については記載がなく、“混濁の程度がどの程度の果汁を用いれば本件特許発明の課題が解決できるのか分からないし、いかなる濁度の混濁果汁を用いても本件特許発明の課題が解決されるとは理解できない”。
イ.“本件特許の実施例には、アントシアニン含有混濁果汁の含有量が0.11~2.70質量%である処方が示されているに過ぎず(試験区2及び11)、本件特許発明1の全範囲において、本件特許の課題が解決されるとは理解できない。”
②“エンジュ由来の抽出物について”
ア.“抽出溶媒によって抽出される成分が異なること、抽出工程(例えば、温度、時間、pH等)の違いや精製工程の有無によっても抽出される成分が異なることは当該技術分野における技術常識であり、いかなるエンジュ由来の抽出物であっても、本件特許の課題が解決されるとは理解できない。”
イ.“本件特許の実施例には、エンジュ由来の抽出物の含有量が0.01~0.05質量%である処方が示されているに過ぎず(試験区8及び9)、本件特許発明1の全範囲において、本件特許の課題が解決されるとは理解できない”など。
③エンジュ由来の抽出物とアントシアニン含有混濁果汁の両成分の含有量や比率について
本件特許発明1は、“両成分の含有量や比率については何ら特定されておらず、あらゆる含有量及び比率の飲料が包含される”が、実施例においては、特定の含有量・比率で両成分を含む飲料が開示されているのみであり、“両成分の含有量及び比率がいかなる場合であっても、本件特許発明の課題が解決されるとは理解できない”。
④“試験区11について”
本件特許の実施例の試験区11において、“光照射後の果実のフレッシュ感が1(比較対照のサンプルと比べ、果実のフレッシュ感が感じられない。問題あり。)であったことが示されている”。したがって、“試験区11は、本件特許発明の課題が解決されておらず、本件特許発明1~15は、本件特許発明の課題が解決されない態様を包含している。”
以下、本特許請求項1に係る発明(本件特許発明1)に絞って、審理結果を紹介する。
(1)申立理由1(甲1に基づく進歩性)についての審理
・審判官は、甲1に記載された事項等から、甲1には、以下の”甲1物発明”が記載されていると認めた。
“<甲1物発明>
「表5に記載する赤キャベツ色素、ブドウ果汁色素、紫トウモロコシ色素、エルダーベリー色素又は紫イモ色素等のアントシアニン系色素を用いて、下記処方の色素含有酸性飲料を調整し、これにマメ科植物であるエンジュのつぼみから得たルチンを酵素処理して得られたIQC(イソクエルシトリン)を最終濃度が0.01%となるように添加した色素含有酸性飲料。
<色素含有酸性飲料の処方>
1.砂糖 5.5 (%)
2.果糖ブドウ糖液糖 5.5
3.クエン酸(無水) 0.08
4.クエン酸3ナトリウム pH調整(pH3.1)
5.色素 表5
水にて合計100%とした。」“
・そして、審判官は、本件特許発明1と甲1物発明を対比し、以下の一致点及び相違点を認めた。
“<一致点>「アントシアニン含有飲料であって、エンジュ由来の抽出物、を含む、アントシアニン含有飲料。」
<相違点1>「アントシアニン含有飲料」に関して、本件特許発明1においては「アントシアニン含有果汁飲料であって」「アントシアニン含有混濁果汁」「を含む容器詰めアントシアニン含有果汁含有飲料」と特定されているのに対し、
甲1物発明においては「表5に記載する赤キャベツ色素、ブドウ果汁色素、紫トウモロコシ色素、エルダーベリー色素又は紫イモ色素等のアントシアニン系色素を用いて、下記処方の色素含有酸性飲料を調整し」た「色素含有酸性飲料」と特定されている点。
・審判官は、相違点1について以下のように判断した。
甲1物発明における各種色素は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品であり、「混濁果汁」に含有されているものではないし、甲1にも、色素を含有するものとして、「混濁果汁」は記載されていない。
さらに、甲1の他の箇所及びいずれの証拠にも、“「混濁果汁」を甲1物発明に添加することも記載も示唆もされていない。”
甲1の記載からは、“濁りは不都合であり、食品としての外観を悪くするものであるから、甲1物発明においては、「混濁果汁」を用いることに対して阻害要因があるともいえる。”
・以上から、審判官は、“甲1物発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない”と結論した。
(2)申立理由2(実施可能要件)についての審理
審判官は、以下のように判断した。
・“発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし15の各発明特定事項及び実施例について具体的に記載されて”おり、“当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし13を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
・よって、本件特許発明1ないし15に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。“
(3)申立理由3(サポート要件)についての審理
審判官は、以下のように判断した。
・発明の詳細な説明には、“文言上、本件特許発明1ないし15に対応する記載がある。”
また、“エンジュが特に好ましい”ことの記載や、本発明を用いることによって「甘味と酸味のバランス」、「果実のフレッシュ感」、「加温後の液色」及び「光照射後の液色」の4つの項目において良好な結果が得られることを確認した実施例が記載されている。
・そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は“発明の課題を解決できると認識できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし15に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。”
(4)特許異議申立人の実施可能要件及びサポート要件についての主張の検討
審判官は、特許異議申立人の実施可能要件及びサポート要件について主張について、以下のように判断し、いずれの主張も採用しなかった。
・「アントシアニン含有混濁果汁」についての主張に関しては、発明の詳細な説明の記載から、当業者は「アントシアニン含有混濁果汁」がどのようなものか理解できるし、具体例が記載されていることから、当業者は「アントシアニン含有混濁果汁」としてどのようなものを使用すればいいのか理解できる。
さらに、「アントシアニン含有混濁果汁」で当業者が実施することができないものがあることの具体的な証拠が示されている訳ではないし、「アントシアニン含有混濁果汁」で発明の課題を解決できないものがあることの具体的な証拠が示されている訳でもない。したがって、「本件特許発明1~15は、実施可能要件及びサポート要件を充足しない。」とはいえない。
また、発明の詳細な説明から、“「アントシアニン含有混濁果汁」が含まれていれば、程度の差はあれ実施例と同様の効果を奏すると当業者は理解する。
したがって、「本件特許発明1~15は、サポート要件を充足しない。」とはいえない。“
・「エンジュ由来の抽出物」についての主張に関しては、発明の詳細な説明から、”「エンジュ由来の抽出物」の具体的な成分が不明であるとしても、当業者は「エンジュ由来の抽出物」としてどのようなものを使用すればいいのか理解できるし、当業者は「エンジュ由来の抽出物」を使用すれば発明の課題を解決できると認識できる。
さらに、「エンジュ由来の抽出物」で当業者が実施することができないものがあることの具体的な証拠が示されている訳ではないし、「エンジュ由来の抽出物」で発明の課題を解決できないものがあることの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、「本件特許発明1~15は、実施可能要件及びサポート要件を充足しない。」とはいえない。“
また、発明の詳細な説明から、“「エンジュ由来の抽出物」が含まれていれば、程度の差はあれ実施例と同様の効果を奏すると当業者は理解する。
したがって、「本件特許発明1~15は、サポート要件を充足しない。」とはいえない。“
・エンジュ由来の抽出物とアントシアニン含有混濁果汁の“両成分の”含有量や比率についての主張に関しては、“「実施例においては飲料が開示されているのみ」であるとしても、「エンジュ由来の抽出物」と「アントシアニン含有混濁果汁」が含まれていれば、程度の差はあれ実施例と同様の効果を奏すると当業者は理解する。
また、「エンジュ由来の抽出物」と「アントシアニン含有混濁果汁」が含まれていても、発明の課題を解決できないものがあることの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、「本件特許発明1~15は、サポート要件を充足しない。」とはいえない。“
・実施例の試験区11の試験結果についての主張に関しては、「光照射後の果実のフレッシュ感」が「1」で低いものの、「果実のフレッシュ感」は「3」と比較対象の試験区4ないし6と比べて高いことから、「アントシアニン含有果汁の自然な味わいを十分に有しながら」という発明の課題を解決しているといえる。”
「光照射後の果実のフレッシュ感」は、発明の課題にはなく、“追加的に評価されたものであって”、“発明の課題とは直接は関係がなく、「光照射後の果実のフレッシュ感」がどうであるかはサポート要件の判断を左右するものではない。”
