特許を巡る争い<2>サントリー・ビールテイスト飲料特許

サントリー株式会社の特許第6087625号は、消泡剤を添加して、ノンアルコールビールの味のボディ感等を改善する製造方法特許。異議申立に対して、サントリーは、含有成分の濃度範囲の限定および消泡剤の種類と添加濃度の限定を行った結果、進歩性有りと判断され、権利維持された。

サントリー株式会社の特許第6087625号「ビールテイスト飲料の製造方法」を取り上げる。

特許第6087625号の特許請求の範囲は、以下の通りである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6087625/56AFB20007B94B7BBA05F857A456E706)。

【請求項1】ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造方法であって、

消泡剤を添加する工程を含み、

ここで、ビールテイスト飲料の可溶性固形分濃度が0.1~5.0度であり、

アルコール度数が0.01%未満である、前記製造方法。

(【請求項2】以下は、省略)。

本発明は、「自然で好ましい苦味を有し、味のボディ感が増強された」ビールテイスト飲料(低カロリー又はノンアルコールのビール)の製造方法に関するものである。

ビールテイスト飲料では、「ホップ由来の苦味成分や余剰酵母等が含まれており、雑味やエグミの原因となって」おり、これらの物質の量を制御することが重要となっている。

制御する方法のひとつとして、「発酵中に生じた泡を発酵タンク壁面に付着させて、ホップ由来の苦味成分や余剰酵母等を泡もろともビールから除去することによって味わいのスッキリしたビールを製造する」という、泡沫分離という技術がある。

しかし、ビールテイスト飲料では、泡沫分離をすることによって、「味わいが薄くなりがち」になり、「味わいのボディ感」が不足する。

本発明では、ビールテイスト飲料の製造工程において、起泡する工程において消泡剤を添加して、「ホップ由来の苦味成分や余剰酵母等」の除去を抑制して、飲料中に残存させることによって、味のボディ感の増強と自然で好ましい苦味を付与することができると書かれている。

公開公報(特開2014-128240)の特許請求の範囲は、以下の通りである(

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H26128240/999C4326F72EAF19B5955162847E016A)。

【請求項1】ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造方法であって、

消泡剤を添加する工程を含む、前記製造方法。

(【請求項2】以下、省略)。

ビールテイスト飲料の可溶性固形分濃度及びがアルコール度数を数値限定することによって、特許査定された。

特許公報発行後、ほぼ半年後に一個人名で、異議申立された(異議2017-700821、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH29700821/D8AE9D2B70EC60A525111178D262BBA3)。

審理の結論は、以下の通りである。

特許第6087625号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-10〕について訂正することを認める。

特許第6087625号の請求項1、4、6~8に係る特許を維持する。

特許第6087625号の請求項2、3、5、9、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。」

訂正された特許請求の範囲は、以下の通りである。

【請求項1】 ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造方法であって、

消泡剤を添加する工程を含み、

ここで、前記ビールテイスト飲料は、可溶性固形分濃度が0.1~3.0度であり、

アルコール度数が0.01%未満であり、

糖類の量が飲料100gあたり0.5g未満であり、

消泡剤が親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤であり、

消泡剤の添加濃度が50~500ppmである、

前記製造方法。

(請求項4、6~8は省略、請求項2、3および5は削除された。)

ビールテイスト飲料の可溶性固形分濃度の数値範囲、糖類の量の数値限定、および消泡剤の種類と添加濃度の限定をする訂正を行った。

審理では、引用発明として甲第1号証(国際公開第2009/133391号)と対比され、「ビールテイスト飲料の製造方法であって、消泡剤を添加する工程を含む前記製造方法。」である点で一致すると認められた。

一方、甲1第1号証では、可溶性固形分濃度、アルコール度数及び糖類の量の記載がなく、不明である点で相違すると認められた。

相違点について、審判官は、甲第1号証には、ビールがノンアルコールでもよいことが記載されている。

しかし、甲1発明に開示された飲料において、可溶性固形分濃度を0.1~3.0度、糖類の量を飲料100gあたり0.5g未満に調整することを記載した他文献はなく、出願時の技術常識を考慮しても、当業者が容易に発明することができたものとはいえないとした。

その結果、本特許は進歩性を有していると判断され、権利維持された。