特許第7653264号は、大豆由来の不快な風味がマスキングされ、風味が改善された大豆麺に関する。進歩性欠如及び記載不備(サポート要件違反)の理由で異議申立てられたが、主張は認められず、そのまま権利維持された。

ハウス食品株式会社の特許第7653264号“大豆麺及びその製造方法”を取り上げる。
特許公報に記載された特許第7653264号の特許請求の範囲は、以下である(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7653264/15/ja)。
【請求項1】
大豆粉と、タピオカ澱粉と、を含み、
前記大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、
前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上であり、
実質的に小麦を含まず、かつ、トランスグルタミナーゼ又はアルギン酸類のいずれも含まない、
大豆麺。
【請求項2】~【請求項6】省略
特許公報の明細書には、本特許技術開発の背景として、以下の記載がある。
“大豆麺は、低糖質のたんぱく源であり、健康志向の需要者を中心として需要がある。”
“本発明者らは、健康志向の需要者の要求に応えるため、大豆由来たんぱく質の量を増やした大豆麺を提供しようと考えている。しかし、大豆由来のたんぱく質の量を増やすと、大豆臭さやエグミが目立ちやすくなることが判った。
そこで、本発明の課題は、大豆由来たんぱく質の量が多い大豆麺において、大豆臭さやエグミを抑制することのできる技術を提供することにある。“
本特許明細書には、“本実施形態に係る大豆麺は、大豆由来たんぱく質含有材料と、タピオカ澱粉とを含有する。
タピオカ澱粉には、大豆由来たんぱく質含有材料が有する大豆臭さやエグミ(以下、不快な風味等ということがある)をマスキングする作用がある。本実施形態によれば、タピオカ澱粉を使用することによって、大豆由来の不快な風味をマスキングし、風味を改善することができる”と記載されている。
また、大豆麺の製造方法について、“一般的な麺の製造方法としては、押出機を用いる方法が知られている”が、“本発明者らの知見によれば、単に大豆由来たんぱく質材料の割合を多くすると、押出成形が困難となる傾向にある。
その結果、例えばトランスグルタミナーゼ等の物性改善剤を添加しなければ、所望する麺が得られにくくなる。そこで、そのような物性改善剤等を添加しなくても大豆麺を製造できるようにするため、本実施形態では、製造方法が工夫されている”と記載されている。
具体的には、“本実施形態に係る大豆麺の製造方法は、大豆由来たんぱく質含有材料を含む混合物を調製し、混合物を得る工程(ステップS1)と、混合物を圧延して生地を得る工程(ステップS2)と、生地を線状に切り出し、大豆麺を得る工程(ステップS3)とを備えている”と記載されている。
そして、“上記の方法によれば、圧延を用いることによって、トランスグルタミナーゼ等の物性改善剤を添加しなくても、大豆由来たんぱく質含有材料を高い割合で含む大豆麺を得ることができる”と記載されている。
本特許の公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下である(特開2022-110419、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2022-110419/11/ja)。
【請求項1】
大豆由来たんぱく質含有材料と、タピオカ澱粉と、を含み、
前記大豆由来たんぱく質含有材料の量が、大豆由来たんぱく質含有材料と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上である、大豆麺。
【請求項2】~【請求項9】 省略
請求項1については、“大豆由来たんぱく質含有材料”が“大豆粉”に、及び大豆由来たんぱく質含有材料(大豆粉)の含有量が60質量%以下に減縮され、
並びにタピオカ澱粉の含有量及び小麦、トランスグルタミナーゼ又はアルギン酸類を含有しない旨の限定がされて、特許査定を受けている。
特許公報の発行日(2025年3月28日)の約半年後(9月26日)に一個人名で特許異議の申立てがされた(異議2025-700925、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-005819/10/ja)。
審理の結論は、以下のようであった。
“特許第7653264号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。”
特許異議申立書に記載された異議申立理由は、以下の2点であった。
(1)“申立理由1(進歩性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであ“る。
甲1:International Food Research Journal (April 2019) 26 (2) p.421-428
“Textural and cooking qualities of noodles made with soy flour and hydroxypropyl methylcellulose”(大豆粉とヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた麺のテクスチャーおよび調理特性)
甲2及び甲2-2:特開昭58-179451号公報 ” 麺類の製造法”
甲3:特公平2-39226号公報 “和風めん及び中華めんの製造方法”
甲4:特許第5640152号公報 “春雨”
甲5:特開平10-337167号公報 “食品の日持ち向上剤”
(2)“申立理由2(サポート要件)
“本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである”。
具体的理由は、
“(ア)本件明細書の実施例でマスキング効果が確認されているのは、大豆粉1600質量部 とタピオカ澱粉1400質量部とを混合した、大豆粉1質量部に対してタピオカ澱粉0.9質量部使用した場合のみで、タピオカ澱粉0.7質量部程度使用した場合にもマスキング効果があるかは不明である”。
“(イ)大豆麺に係る発明である本件特許発明1において、原料の一部である大豆粉とタピオカ澱粉の含有量が、大豆麺中の含有量で特定されておらず、大豆粉以外の大豆由来たんぱく質含有材料(例えば大豆たんぱく質)を含むことを排除するものではないから、
大豆粉1質量部に対しての含有量が有効量以上であるタピオカ澱粉によっても、大豆由来たんぱく質含有材料の大豆臭さやエグミを抑制することをできない態様が包含される”こと等であった。
以下、本特許請求項1に係る発明(本件特許発明1)に絞って、審理結果を紹介する。
(1)申立理由1(進歩性)についての審理結果
審判官は、甲1には、以下の<甲1発明>が記載されていると認めた。
”<甲1発明>「麺の主原料として大豆粉(麺総重量の90%)を使用し、タピオカ澱粉を10%添加した、タンパク質強化グルテンフリー麺。」”
そして、本件特許発明1と甲1発明とを対比し、以下の一致点及び相違点を認めた。
“<一致点>「大豆粉と、タピオカ澱粉と、を含み、実質的に小麦を含まず、かつ、トランスグルタミナーゼ又はアルギン酸類のいずれも含まない、大豆麺。」
“<相違点1> 本件特許発明1においては、「前記大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上」と特定されているのに対し、
甲1発明においては、大豆粉の量が麺総重量の90%であり、タピオカ澱粉を10%添加したと特定される点。
上記相違点について、審判官は、以下のように判断した。
・“甲1には、「本研究では、全ての大豆麺サンプルにタピオカを大豆粉総量の10%の割合で添加した」と記載されており、タピオカ澱粉の添加割合を10%以外に変更することは記載されていないから、
「前記大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上」を満たす割合にタピオカ澱粉の添加割合を変更することは、当業者が動機付けられないことである。
また、大豆麺において、前記相違点1に係る割合でタピオカ澱粉を添加することが、本件特許の出願時の技術常識であったともいえない。”
・甲1及び他の全ての証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明における「大豆粉」、「タピオカ澱粉」それぞれの含有量を相違点1に係る範囲とする動機は見いだせない。
・本件特許発明1の奏する「大豆由来たんぱく質の量が多い大豆麺において、大豆臭さやエグミを抑制することのできる技術が提供される。」(本件特許明細書の発明の詳細な説明【0006】)という効果は、甲1発明の奏する効果である「麺の形状を良好にする」(p.426左欄28-29行)とは全く異なるものであり、また、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。“
審判官は、特許異議申立人の主張について、以下のように判断した。
・異議申立人は、甲2には、“麺の製造において、原料粉中の穀粉とタピオカ生澱粉の含有量を同量程度にすることにより、麺の食味が良好で、麺類の滑らかさおよび粘弾性について優れた効果があることが記載されて”おり、
甲3には、“粉末豆乳、穀粉、でんぷん類を所定の量の範囲で組み合わせることにより、豆乳のもつ青臭みや苦味をほぼ完全に隠すことができ、しかもめん製品特有のコシ、歯ざわり等を得ることができることが記載され”、配合量も具体的に記載されており“、
“そうすると、麺の味や食感を向上させるために、甲1発明の大豆麺のタピオカ澱粉の含有量を増大させること”は、“甲3の記載から当業者が容易に想到し得たことであ“るなどと主張する。
・“しかしながら、甲1発明は「タンパク質強化グルテンフリー麺を開発する」ことを目的として「麺の主原料として大豆粉(麺総重量の90%)を使用した」ものであり”、
“甲1発明における大豆粉の割合を90%より減らすことは、甲1発明の目的に反することになるから、当業者が甲2、甲2-2、及び甲3に記載された添加割合を適用することには阻害要因があるといえる。
よって、上記主張は採用できない。“
以上の理由から、審判官は、“甲1発明において、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない”と結論した。
(2)申立理由2(サポート要件)についての審理結果
審判官は、本特許明細書の発明の詳細な説明には、“特許請求の範囲の各発明特定事項に対応する具体的な記載があり”、“タピオカ澱粉は、大豆由来の不快な風味をマスキングするために使用され”ること、
並びに大豆由来たんぱく質含有材料に対するタピオカ澱粉含有量についての記載があり、“実施例を通じた検証もなされている”と認めた。
そして、“これらの記載に接した当業者であれば、「大豆粉と、タピオカ澱粉と、を含み、前記大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上」である大豆麺は、発明の課題を解決できると認識できる”と判断した。
・異議申立人の主張、“(ア)本件明細書の実施例でマスキング効果が確認されているのは、大豆粉1600質量部 とタピオカ澱粉1400質量部とを混合した、大豆粉1質量部に対してタピオカ澱粉0.9質量部使用した場合のみで、タピオカ澱粉0.7質量部程度使用した場合にもマスキング効果があるかは不明であること”、
“(イ)大豆麺に係る発明である本件特許発明1において、原料の一部である大豆粉とタピオカ澱粉の含有量が、大豆麺中の含有量で特定されておらず、大豆粉以外の大豆由来たんぱく質含有材料(例えば大豆たんぱく質)を含むことを排除するものではないから、
大豆粉1質量部に対しての含有量が有効量以上であるタピオカ澱粉によっても、大豆由来たんぱく質含有材料の大豆臭さやエグミを抑制することをできない態様が包含されること”等については、
本特許技術は、発明の詳細な説明及び“実施例及び比較例の結果によって裏付けられており、本件特許明細書の記載に接した当業者は、課題を解決できると認識することができる”。
そして、“特許異議申立人は大豆粉以外の原料が共存することによって、大豆臭さやエグミをマスキングする作用が発揮されなくなることを示す具体的な証拠を示すものでもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用できない“と判断した。
以上の理由から、審判官は、“本件特許発明1ないし6の特許請求の範囲の記載は、いずれもサポート要件に適合する”と結論した。
