特許を巡る争い<101>日清ウェルナ・ウニ風味ソース特許

株式会社日清ウェルナ の特許第7132863号は、特定の魚醤及びトマトを含有させることによって、ウニの風味を増強改善したパスタなどのソースに関する。記載不備、新規性欠如、及び進歩性欠如の理由で、異議申立てされたが、いずれの理由も採用されず、そのまま権利維持された。

株式会社日清ウェルナ の特許第7132863号“ウニ風味ソース”を取り上げる。

特許第7132863号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下であるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-7132863/1123DEAE90BACD8F34AB24F1D2708D42CB28E4FBCA2E46A1D250393E8C354F70/15/ja)。

【請求項1】

ウニと、ウニ以外の魚介類から作られた魚醤と、トマトとを含み、

ウニの含有量が1~30質量%、

トマトの含有量が3~30質量%であるウニ風味ソース。

【請求項2】~【請求項3】 省略

本特許明細書には、本特許発明で用いる“魚醤”は、“「ウニ以外の魚介類から作られた魚醤」”であり、“ウニを含有するソースに、ウニから作られた魚醤(ウニ魚醤)を含有させると、ウニの生臭さが強くなるため好ましくな”く、“本発明で用いる魚醤の原料となる魚介類の好ましい具体例として、イワシ、アジ、サバ等の魚類;イカ、タコ等の頭足類を例示できる”と記載されている。

そして、“本発明のウニ風味ソースにおける魚醤の含有量は、該ソースの全質量に対して、好ましくは0.05~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%、更に好ましくは0.15~1質量%である。

ウニ風味ソースにおける魚醤の含有量が過少であると、魚醤を使用する意義(ウニの生臭さの抑制)に乏しく、逆にこれが過剰であると、魚醤自体の生臭さが強くなるおそれがある”と記載れている。

また、本特許発明で用いる“トマト”について、“ウニ及び魚醤を含有するソースに更にトマトを含有させることで、ウニの一層生臭さが緩和され、ソースに爽やかな風味が加わることで、ウニのコク味がより一層引き立つようになる”と記載されている。

本特許発明の“ウニ風味ソース“について、”ウニの風味とコク味がよく感じられ、生臭みは感じにくいものであ“り、”例えば、シチュー、ハンバーグ、パスタ料理、米飯類、パン等のベーカリー類に適用でき、特にパスタソースとして好適である“と記載されている。

本特許の公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下である(特開2020-124154、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2020-124154/1123DEAE90BACD8F34AB24F1D2708D42CB28E4FBCA2E46A1D250393E8C354F70/11/ja)。

【請求項1】

ウニと、ウニ以外の魚介類から作られた魚醤とを含むウニ風味ソース。

【請求項2】~【請求項4】省略

特許公報に記載された請求項1と比較すると、請求項1については、トマトの含有、並びにウニ及びトマトの含有量の数値限定がなされて、特許査定を受けている。

特許公報の発行日(2022年9月7日)の約半年後(2023年2月27日)に、一個人名で異議申立てされた。

審理の結論は、以下のようであった(異議2023-700226、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-018239/1123DEAE90BACD8F34AB24F1D2708D42CB28E4FBCA2E46A1D250393E8C354F70/10/ja)。

特許第7132863号の請求項1~3に係る特許を維持する。

異議申立人が申立てた異議申立理由は、以下の4点であった。

(1)サポート要件違反

本件発明1~3は、官能評価基準が適切ではないため、ソースの評価が適切に行われておらず、本件発明の課題を解決できるとその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が認識できるものではない”。

(2)実施可能要件違反

本件発明1~3は、官能評価基準が適切ではないため、ソースの評価が適切に行うことができず再現実験ができない”。

(3)新規性欠如

“本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であ”る。

甲1:「デリツィエ(赤羽橋/イタリアン)」、無駄なカロリー撲滅宣言!~カレーマンのカレーなる日々~、掲載日:2015年4月17日(http://curryman.officialblog.jp/archives/1024559303.html

(4)進歩性欠如

本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたもので”ある。

“・請求項1:甲1

・請求項2:甲1、及び、甲3~甲5に記載された周知技術

・請求項3:甲1、及び、甲5“

なお、甲2~甲5は省略。

以下、本特許請求項1に係る発明(本件発明1)に絞って、審理結果を紹介する。

(1)サポート要件違反に関する審理

審判官は、サポート要件について、以下のように判断した。

・“本件発明の解決しようとする課題は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明によれば、「ウニの風味がよく感じられ、生臭さが抑えられたウニ風味ソースを提供すること」(【0005】)であると認められる。”

上記の課題の解決について、本件明細書には、以下の記載がある。

本件発明は、ウニに加えて更に魚醤を含有することにより、ウニの生臭さが抑えられ、ウニの風味とコク味が感じられやすくなるものであるが、ウニから作られた魚醤を含有させると、ウニの生臭さが強くなるため好ましくないとのことである。”

本件明細書の実施例には、以下に示した<評価基準>に基づいた官能評価で、”ウニに加えてウニ魚醤以外の魚醤を含有させた実施例1~3のウニソースは4.4~4.6点であるのに対し、ウニに加えてウニ魚醤以外の魚醤を含有させない比較例1~3のウニソースは2.1~2.6点である”の記載があることから、“ウニに加えてウニ魚醤以外の魚醤を含有させた実施例1~3のウニソースは”、上記した本発明の課題を解決し得るものであるといえる。”

<評価基準>

5点:ウニの風味とコク味が非常によく感じられ、生臭さがなく極めて良好。

4点:ウニの風味とコク味がよく感じられ、生臭さがなく極めて良好。

3点:ウニの風味とコク味が感じられ、生臭さがやや感じられるが概ね良好。

2点:ウニの風味とコク味があまり感じられず、生臭さが感じられ、不良。

1点:ウニの風味とコク味がほとんど感じられず、生臭さが強く感じられ、極めて不良。“

本件発明1は、ウニに加えてウニ魚醤以外の魚醤を含有させたウニソースまたはその製造方法である“ため、本特許発明の”課題を解決するものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。“

異議申立人は、特許異議申立書において、“ソースの評価が適切なものではないから、その結果は全く信頼できないと主張している。”

しかし、例えば、上記した5段階の評価基準において、“4.5点の評価であれば、「5点:ウニの風味とコク味が非常によく感じられ、生臭さがなく極めて良好」と「4点:ウニの風味とコク味がよく感じられ、生臭さがなく極めて良好」との中間の評価であることが理解できるし”、“実施例1~3は4.4~4.6点であるのに対し、比較例1~3は2.1~2.6点であって、実施例1~3は、比較例1~3と比較して、ウニの風味がより感じられ、より生臭さが抑えられたものであることが理解できる。”

したがって、ウニに加えてウニ魚醤以外の魚醤を含有させたウニソースまたはその製造方法である本件発明1は、上記発明の課題を解決し得るものであ“り、”申立人の主張は採用できない。

(2)実施可能要件違反に関する審理

審判官は、実施可能要件について、以下のように判断した。

本件発明1は物の発明であるが、“請求項1に記載された「ウニと、ウニ以外の魚介類から作られた魚醤と、トマトとを含み、ウニの含有量が1~30質量%、トマトの含有量が3~30質量%であるウニ風味ソース」を生産することは何ら困難なことではない。”

そうすると、“本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。”

“申立人は、ソースの評価が適切ではないため、再現実験を実施できないから、実施可能要件違反である旨主張”するが、ソースの評価については、上記の(1)サポート要件違反の審理結果に記載した通り、“ウニの風味や生臭さを評価するものとして、理解できるものであるし、仮に、ソースの評価が適切なものではなかったとしても、特許発明が実施可能要件を満たすか否かは”、物の生産などの“行為を行うことができるか否かで決まるものであり”、“申立人の主張は採用できない。”

(3)新規性欠如及び(4)進歩性欠如についての審理

審判官は、新規性及び進歩性について、以下のように判断した。

・“甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「北海道産ウニとフレッシュトマト、コラトゥーラのソース、シチリア風フェデリーニを含むパスタにおけるソース。」

本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下の一致点及び相違点が認められる。

(一致点)“「ウニと、ウニ以外の魚介類から作られた魚醤と、トマトとを含むウニ風味ソース。」”

(相違点1)省略

(相違点2)“トマトの含有量が、本件発明1は、「3~30質量%である」のに対し、甲1発明は、どの程度のトマトが含まれているかが不明である点。”

上記相違点2について検討すると、本件明細書には、“本件発明1の「ウニ風味ソース」は、トマトを含有させることで、ウニの一層生臭さが緩和され、ソースに爽やかな風味が加わることで、ウニのコク味がより一層引き立つようになり、その含有量については、トマトの含有量が過少であると、トマトを使用する意義に乏しく、逆にこれが過剰であると、トマトの風味が強くなってウニの風味が損なわれるおそれがある”との記載がある。

そうすると、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項には技術的な意義があるし、甲1には、ウニの生臭さを緩和し、ウニのコク味がより一層引き立つようにするために必要なトマトの含有量について記載も示唆もされていないから、相違点2は実質的な相違点である。

・“甲1発明の「ソース」は、「北海道産ウニ」と「フレッシュトマト」とを含むものであるが、「北海道産ウニ」と「フレッシュトマト」との味のバランスについては何ら記載されていない。すなわち、ウニの風味の強いソースとするのか、それともフレッシュトマトの風味の強いソースとするのかが不明である。”

そして、“本件発明1において、トマトの含有量はウニのコク味と生臭さを考慮しながら決定するものであるから、甲1発明において、「フレッシュトマト」の含有量を「3~30質量%」とする動機がないし、また、上記の効果を予測することも困難である。

・“したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

・“よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて、当業者が想到し得たものとはいえない。