特許を巡る争い<75>ニップン・打ち粉ミックス特許

株式会社ニップンの特許第6867776号は、唐揚げなどの製造で、食材と衣材とを結着させるために用いられる打ち粉に関する。新規性欠如、進歩性欠如、及び記載不備(サポート要件違反及び実施可能要件違反)の理由で異議申立てがなされたが、いずれの主張も認められず、そのまま権利維持された。

株式会社ニップン(旧社名 日本製粉株式会社)の特許第6867776号“打ち粉ミックス”を取り上げる。

特許公報に記載された特許第6867776号の特許請求の範囲は、以下の通りであるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6867776/B31D988C123065C1A58C2CC43C83F6629DF19382372C7428BC56BF5C1BB59C7C/15/ja)。

【請求項1】

14~99.9質量%のα化澱粉及び/又はα化穀粉と、

0.1~86質量%の粉立ち防止剤からなる打ち粉ミックスであって、

前記粉立ち防止剤が油脂からなり又は前記粉立ち防止剤が小麦粉及び油脂の混合物からなり、

打ち粉ミックスに対する前記小麦粉の含量Aが0質量%以上86質量%未満であり、かつ

前記油脂の含量Bが2.8質量%以下である、

前記打ち粉ミックス

(但し、前記α化澱粉及び/又はα化穀粉が、少なくとも油脂の存在下で澱粉質をα化したものである場合を除く)。

【請求項2】~【請求項8】 省略

本特許発明の“打ち粉ミックス“について、本特許明細書には、

“打ち粉ミックスとは、打ち粉として用いられるミックス粉のことを言う。好ましくは油ちょう、グリル、ベーク等の加熱調理する前に調理食材にまぶす打ち粉として用いられる打ち粉ミックスである。さらに好ましくは油ちょう食品に使用する打ち粉ミックスである。

打ち粉は、から揚げ、フライ、天ぷら、フリッター等の油ちょう食品の製造において、調理食材をブレッダーやバッターで被覆する前に調理食材にまぶすことで油ちょう中の焦げ付きや肉汁や旨味成分、水分等の染み出しを防止する、調理食材と衣材とを結着させる、油ちょう後の保存時に調理食材中の水分の衣材への移行を阻止して衣のサクサクとした食感の維持することを目的として使用される。

また打ち粉は、調理食材にまぶした後にそのまま又は衣付してグリル又はベークすることにより肉汁等の漏出を抑制することを目的として使用される”と記載されている。

また、“α化澱粉及び/又はα化穀粉”について、

“本発明において使用するα化澱粉は、加水した生澱粉を、ドラムドライヤー等で加熱α化した後に公知の方法で粉砕して得るか、エクストルーダによりα化処理した後に公知の方法で粉砕して得るか、或いは、その他の公知の方法で得ることができる”と記載されている。

“粉立ち防止剤”については、

“本発明において、粉立ち防止剤は、打ち粉ミックスに対し0~86質量%の含量の小麦粉及び/又は0~2.8質量%の含量の油脂である。

本発明において、油脂は、食用の油脂であれば何れも好適に使用することができる。このような油脂としてサラダ油、コーン油、大豆油、(中略)、魚油等の常温で液体の油、これら液体油を水素添加して得られるクリーム様硬化油(ショートニング等)又は固形様硬化油(マーガリン等)、カカオバター、ピーナツバター、パーム油、牛脂、ラード、鶏油、乳脂等の常温で固体の脂を例示できる”と記載されている。

澱粉を主要成分とした打ち粉について、従来は、“粒子が小さいために調理食材に打ち粉をまぶす際に粉立ちし易く、家庭や料理店の調理場や食品工場の汚染の原因となることがあり、また、打ち粉のロスにもつながる“という課題があったが、

本特許発明を用いれば、“調理食材に打ち粉をまぶす際に打ち粉の粉立ちがなく、ダマの発生を抑制できる打ち粉ミックスを提供することができる。打ち粉の作業性が向上すると共に、打ち粉の廃棄ロスが軽減される打ち粉を提供することができる”と記載されている。

公開特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2018-68123https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2018-068123/B31D988C123065C1A58C2CC43C83F6629DF19382372C7428BC56BF5C1BB59C7C/11/ja)。

【請求項1】

14~99.9質量%のα化澱粉及び/又はα化穀粉と、

0.1~86質量%の粉立ち防止剤からなる打ち粉ミックスであって、

前記粉立ち防止剤が小麦粉、油脂又はその混合物からなり、

打ち粉ミックスに対する前記小麦粉の含量Aが0~86質量%であり、かつ

前記油脂の含量Bが0~2.8質量%である、前記打ち粉ミックス。

【請求項2】~【請求項4】 省略

請求項1ついて、特許公報に記載された請求項1と比較すると、粉立ち防止剤が“小麦粉及び油脂の混合物”に限定され、小麦粉の含量A及び油脂の含量Bの上限値がそれぞれ“86質量%未満”及び “2.8質量%以下”に減縮、並びに“但し、前記α化澱粉及び/又はα化穀粉が、少なくとも油脂の存在下で澱粉質をα化したものである場合を除く”の“除くクレーム”の補正がなされて、特許査定を受けている。

特許公報発行日(2021年5月12日)の約半年後(2021年11月9日)に、一個人名で異議申立てされた(異議2021-701052

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-207814/B31D988C123065C1A58C2CC43C83F6629DF19382372C7428BC56BF5C1BB59C7C/10/ja)。

審理の結論は、以下であった。

“特許第6867776号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。”

異議申立人は、甲第1号証~甲第9号証を証拠として提出し、以下の(1)~(6)の理由で、本件発明1~8に係る特許は取り消されるべきである旨主張した。

(1)  申立理由1(新規性)、2-1(進歩性)

“本件発明1~3、5~7は、甲第1号証に記載された発明であって”、

“また、本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの”である。

(2 ) 申立理由2-2(進歩性)

“ 本件発明1~8は、甲第3号証に記載された発明及び甲第6~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの”である。

(3)  申立理由2-3(進歩性)

“本件発明1、3、5、7は、甲第4号証に記載された発明及び甲第6~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの”である。

(4)  申立理由2-4(進歩性)

“本件発明1~3、5~7は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの” である。

(5)  申立理由2-5(進歩性)

“本件発明1、3、4、5、7、8は、甲第9号証に記載された発明及び甲第6~8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの”である。

(6)  申立理由3(サポート要件)及び申立理由4(実施可能要件)

“本件発明1~8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、発明の詳細な説明に、実施可能な程度に明確かつ十分に記載されたものではない”。

甲第1号証:  特開2003-284518号公報

甲第3号証:  特開昭60-087774号公報

甲第4号証:  特開2014-200207号公報

甲第5号証:  特開平9-047247号公報

甲第9号証:  特開昭62-248466号公報

以下、本特許請求項1に係る発明(本件発明1)に絞って、審理内容を紹介する。

(1) “申立理由1(新規性)、2-1(進歩性):甲1を主引例とする理由”

審判官は、本件発明1と甲第1号証に記載された発明(甲1発明)とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

<一致点>“  「α化澱粉及び/又はα化穀粉と、小麦粉及び油脂を含むミックス(但し、前記α化澱粉及び/又はα化穀粉が、少なくとも油脂の存在下で澱粉質をα化したものである場合を除く)」”

<相違点1>“ミックスが、本件発明1は「打ち粉ミックス」であって、「14~99.9質量%のα化澱粉及び/又はα化穀粉と、0.1~86質量%の粉立ち防止剤からなる」ものであるのに対し、

甲1発明は「ノンフライ唐揚げ用ミックス」であって、成分として、潮解性食品素材、熱凝固性食品素材及び膨張剤をさらに含む点。“

審判官は、相違点1について、以下のように判断した。

・ “一般に、「打ち粉」は、「ノンフライ唐揚げ用ミックス」とは異なる用途のものであり、本特許明細書をみても、本件発明1の打ち粉は、ノンフライ唐揚げ粉に配合されるような、潮解性食品素材、熱凝固性食品素材、膨張剤などの成分が含まれることは記載されていない。”

・本件特許明細書には、“「打ち粉は、調理食材にまぶした後にそのまま又は衣付してグリル又はベークすることにより肉汁等の漏出を抑制することを目的として使用される」との記載があ”るが、“それはあくまでも「打ち粉(ミックス)」として使用の態様のものであって、「ノンフライ唐揚げ用ミックス」の使用態様とは異なるものである。

そうすると、相違点1は、実質的な相違点であり、甲1発明の「ノンフライ唐揚げ用ミックス」を「打ち粉」へと変更することは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

審判官は、これらの理由によって、“本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない“と結論した。

(2)“申立理由2-2(進歩性):甲3を主引例とする理由”

審判官は、本件発明1と甲第3号証に記載された発明(甲3発明)とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

<一致点>“「α化穀粉と、小麦粉を混合した打ち粉ミックス(但し、前記α化澱粉及び/又はα化穀粉が、少なくとも油脂の存在下で澱粉質をα化したものである場合を除く)」”

<相違点1a>“ 打ち粉ミックスが、本件発明1では、「14~99.9質量%のα化澱粉及び/又はα化穀粉と、0.1~86質量%の粉立ち防止剤からなる」打ち粉ミックスであって、「前記粉立ち防止剤が油脂からなり又は前記粉立ち防止剤が小麦粉及び油脂の混合物からなり、打ち粉ミックスに対する前記小麦粉の含量Aが0質量%以上86質量%未満であり、かつ前記油脂の含量Bが2.8質量%以下である」ものであるのに対し、

甲3発明は、そのような特定がされていない点。“

審判官は、相違点1aについて、以下のように判断した。

“甲3には、打ち粉において、油脂を粉立ち防止剤として配合することについて一切記載がない。”

・ “甲6、8には、唐揚げ粉に関する記載があり、甲7には、フライドベーカリーに関する記載があるものの、これらの用途は打ち粉とは異なるから、これらの甲号証に記載された技術を打ち粉に用いることは当業者にとって動機付けられるものではない。

審判官は、これらの理由によって、“本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲6~8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することはできたものではない“と結論した。

(3)“申立理由2-3(進歩性):甲4を主引例とする理由”

審判官は、本件発明1と甲第4号証に記載された発明(甲4発明)とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

<一致点>  “「α化穀粉及び小麦を含有するもの(但し、前記α化澱粉及び/又はα化穀粉が、少なくとも油脂の存在下で澱粉質をα化したものである場合を除く)」”

<相違点1b>“本件発明1は、「14~99.9質量%のα化澱粉及び/又はα化穀粉と、0.1~86質量%の粉立ち防止剤からなる打ち粉ミックス」に係る発明であって、「粉立ち防止剤が油脂からなり又は前記粉立ち防止剤が小麦粉及び油脂の混合物からなり、打ち粉ミックスに対する前記小麦粉の含量Aが0質量%以上86質量%未満であり、かつ前記油脂の含量Bが2.8質量%以下である」ものであるのに対し、

甲4発明は、「造粒小麦粉」の発明であって、「打ち粉」の用途に係る特定がなく、さらに、油脂を含む粉立ち防止剤に関する特定もない点。”

審判官は、相違点1bについて、以下のように判断した。

甲4には、造粒小麦粉の用途として、“打ち粉”の記載がある。また、α化小麦粉を用いて小麦粉を造粒した造粒小麦粉の特徴として、“従来の小麦粉としての用途に何ら制限を加えることなく、しかも飛散が抑えられていることが記載されている”

“甲4発明は、既に小麦粉の飛散が抑えられて課題が解決しているから、さらに油脂を粉立ち防止剤として配合する動機付けはない。”

甲4に記載された“用途に、打ち粉としての用途ではないものもあり”、甲4には“「ベーカリー生地や麺生地の付着防止用の打ち粉」との記載もあるので、本件特許明細書に記載された“本件発明の打ち粉とは使用対象が異なるもの”であると認められる。

甲4の「ベーカリー生地や麺生地の付着防止用の打ち粉」として用いた場合について一応検討すると、

“甲7は、フライドベーカリーの製造方法に関する発明であり”、

“甲7に記載された打ち粉中の油脂は、その含量も本件発明1とは大きく異なるものであるから、打ち粉の粉立ち防止のために用いるものとは認められない。

また、他の甲6、8は、唐揚げ粉に関するものであって、打ち粉とは異なる用途であるから、甲4発明において、これらに関する技術的事項を参酌することはできない。

そうすると、甲6~8に記載された事項を参酌したとしても、甲4発明を、「ベーカリー生地や麺生地の付着防止用の打ち粉」の用途に用い、さらに、本件発明1の相違点1bに係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

審判官は、これらの理由によって、“本件発明1は、甲4に記載された発明及び甲6~8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない“と結論した。

(4)“ 申立理由2-4(進歩性):甲5を主引例とする理由”

審判官は、本件発明1と甲第5号証に記載された発明(甲5発明)とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

<一致点>“「α化澱粉及び/又はα化穀粉を含む打ち粉(但し、前記α化澱粉及び/又はα化穀粉が、少なくとも油脂の存在下で澱粉質をα化したものである場合を除く)」”

<相違点1c>“ 本件発明1は、「14~99.9質量%のα化澱粉及び/又はα化穀粉と、0.1~86質量%の粉立ち防止剤からなる打ち粉ミックスであって、前記粉立ち防止剤が油脂からなり又は前記粉立ち防止剤が小麦粉及び油脂の混合物からなり、打ち粉ミックスに対する前記小麦粉の含量Aが0質量%以上86質量%未満であり、かつ前記油脂の含量Bが2.8質量%以下である、前記打ち粉ミックス(但し、前記α化澱粉及び/又はα化穀粉が、少なくとも油脂の存在下で澱粉質をα化したものである場合を除く)」と特定されるのに対し、

甲5発明は、このような粉立ち防止剤を含む打ち粉ミックスに係る特定はない点“

審判官は、相違点1cについて、以下のように判断した。

・“甲5には、打ち粉に、粉立ち防止剤として、油脂又は小麦粉及び油脂の混合物を配合することに関する記載はない。

また、甲6~8をみても、打ち粉に、粉立ち防止剤として、油脂又は小麦粉及び油脂の混合物を、油脂の含量を2.8質量%以下とする量で含有させることを示唆するような記載はない。

そうすると、甲6~8の記載を参酌したとしても、甲5発明において、本件発明1の相違点1cに係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

審判官は、上記の理由によって、“本件発明1は、甲5に記載された発明及び甲6~8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない“と結論した。

(5) “ 申立理由2-5(進歩性):甲9を主引例とする理由”

審判官は、本件発明1と甲第9号証に記載された発明(甲9発明a)とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

<一致点>“「α化澱粉及び/又はα化穀粉と、小麦粉を配合した打ち粉ミックス(但し、前記α化澱粉及び/又はα化穀粉が、少なくとも油脂の存在下で澱粉質をα化したものである場合を除く)」”

<相違点1d>“本件発明1は、「14~99.9質量%のα化澱粉及び/又はα化穀粉と、0.1~86質量%の粉立ち防止剤からなる打ち粉ミックスであって、前記粉立ち防止剤が油脂からなり又は前記粉立ち防止剤が小麦粉及び油脂の混合物からなり、打ち粉ミックスに対する前記小麦粉の含量Aが0質量%以上86質量%未満であり、かつ前記油脂の含量Bが2.8質量%以下である、前記打ち粉ミックス」と特定されるのに対し、

甲9発明aは、油脂又は油脂と小麦粉の混合物からなる粉立ち防止剤に係る特定はない点。“

審判官は、相違点1dについて、以下のように判断した。

・ “甲9には、でんぷん質がα化した粉末を含む打ち粉に、粉立ち防止剤として、油脂又は小麦粉及び油脂の混合物を配合することに関する記載はない。

また、甲6~8をみても、打ち粉に、粉立ち防止剤として、油脂又は小麦粉及び油脂の混合物を、油脂の含量を2.8質量%以下とする量で含有させることを示唆するような記載はない。

そうすると、甲6~8の記載を参酌したとしても、甲9発明aにおいて、本件発明1の相違点1dに係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

審判官は、上記の理由によって、”本件発明1は、甲9に記載された発明及び甲6~8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない“と結論した。

(6)“申立理由3(サポート要件)及び申立理由4(実施可能要件)について”

申立理由3及び申立理由4についての異議申立人の主張は、以下の2点であった。

(1)主張ア

①“本件特許の請求項1において、打ち粉ミックスに油脂が2.8質量%以下で含まれることは記載されているものの、含まれる油脂の下限量は明記されていない”。

“本件明細書の実施例において、α化小麦澱粉99.95質量部および油脂0.05質量部からなる打ち粉ミックスでは、「粉立ちが激しく作業性が悪かった」ことが記載され”ていることなどから、“請求項1の範囲内となるα化小麦澱粉99.9質量部、小麦粉0.05質量部および油脂0.05質量部からなる打ち粉ミックスの配合としたとしても、粉立ちは改善しない蓋然性が高”く、請求項1に係る発明は本件特許発明の効果を達成できないものも含まれる。

②“また、本件明細書には、小麦粉に粉立ち防止効果を有させる構成について一切記載されていない”。 “α化澱粉又はα化穀粉と小麦粉との粒径の関係により、小麦粉が粉立ち防止する機能を有さない場合も存在するはずであるが、粒径関係について本件特許明細書には記載がないから”、本件発明1の全範囲において、ダマ防止及び粉立ち防止効果が得られることを理解できない。

(2)主張イ

“甲6記載発明と甲8記載発明は、小麦粉に油脂を添加する唐揚げ粉の発明である点で同様の発明であ” り、“粉末油脂を用いる場合は、通常α化澱粉やα化穀粉に固形状のまま混合されるため、α化澱粉やα化穀粉の物性への影響が低く、飛散防止やダマ防止を実現できない蓋然性が高い”。

審判官は、上記の主張に対して、以下のように判断した。

(1)  主張アについて

主張ア① について

・本件特許明細書には、”「α化澱粉に小麦を配合すると、その配合量の増加に依存して粉立ちは抑制された。」との記載があり、α化小麦澱粉99.95質量部および油脂0.05質量部からなる比較例2の打ち粉ミックスの場合より、小麦粉が配合されることによって粉立ち抑制効果が発揮されることが理解できるから、粉立ちが改善しない蓋然性が高い旨の憶測の主張は採用できない。

・さらに本件特許明細書には、“油脂の配合がない、α化小麦澱粉と小麦粉のみからなる打ち粉ミックスが、α化小麦澱粉と小麦粉の特定の配合割合の場合に、粉立ち及びダマ発生が抑制できることが記載されているから、この特定の配合割合の範囲であれば、油脂をごく少量配合しても、配合しないのと同程度の粉立ち及びダマ発生が抑制できると推認される。

これらのことから、“本件発明において、油脂の含量の下限値がなくとも、サポート要件及び実施可能要件は満たされるといえる。“

主張ア②について

・“本件発明は、α化澱粉及び/又はα化穀粉に、粉立ち防止剤として油脂又は油脂と小麦粉の混合物を用いることによって、粉立ち防止効果を得ることを技術的特徴とする発明である。”

“本件特許明細書には、α化小麦澱粉に小麦粉を配合することで粉立ち防止を有する旨の記載もあるが“、”本件発明において粉立ち防止効果を発揮する構成は油脂を含む粉立ち防止剤であることが明らかである。

・また、異議申立人は、“小麦粉の粒径について述べているが、その具体的な根拠も説明されていないので、小麦粉の粉立ち防止効果に関する主張は採用できない。

(イ)  主張イについて

主張イは、“甲6、甲8に記載された唐揚げ粉に関する技術は、本件発明と同じ技術であるという前提のもと”の主張である。“しかしながら、唐揚げ粉と本件発明の打ち粉とは異なる用途であるから、前提が成立しない。”

・油脂に関し、本件特許明細書から、“粉末油脂を用いた場合であっても、当業者であれば、飛散防止やダマ防止が発揮できることが理解できる。”

・さらに、“本件発明1では、油脂を粉末油脂である「固体油脂」に限ったものではなく、液体油又はクリーム状の硬化油なども使用できるから”、“使用する油脂の融点は、本件発明の目的を達成できる範囲で適宜設定し得る事項にすぎない。

よって、主張イについても採用できない。“