特許を巡る争い<77>東洋新薬・大麦若葉関連特許

東洋新薬の特許第6872699号は、乳酸菌とキャベツ発酵エキスなどとが添加された、カルシウム吸収が促進された大麦の茎や葉を含有する組成物に関する。進歩性欠如及び実施可能要件違反の理由で異議申立てされたが、いずれの理由も認められず、権利維持された。

東洋新薬の特許第6872699号“カルシウム吸収促進用組成物”を取り上げる。

特許第6872699号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6872699/E5FE652499552498754A062D7277E18C530611644F4A93B652A21A8049840DEB/15/ja)。

【請求項1】

以下の(A)~(D)を含有することを特徴とする組成物(ただし、大豆を含有するものを除く)。

(A)大麦の茎及び/又は葉

(B)Enterococcus  faecalis

(C)カルシウム

(D)キャベツ発酵エキス、葉酸、ビタミンC及びビタミンDからなる群より選択される少なくとも1種(ただし、葉酸、ビタミンC及びビタミンDは植物に含まれるものを除く)

【請求項2】~【請求項3】省略

“Enterococcus  faecalis”について、特許明細書には、

“乳酸菌は、代謝によって乳酸を生成する細菌類のことを指す。

乳酸菌は通常知られているとおりのものであれば特に限定されず、

例えば、Streptococcus faecalis(Enterococcus faecalisと称されることがある)、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus casei、Streptococcus thermophilus及びBacillus coagullansなどが用いられるが、

人由来で安全性が高いといった観点から、Streptococcus faecalisが特に好ましい“と記載されている。

また、“キャベツ発酵エキス”について、

“キャベツ発酵エキスは、キャベツを発酵させることにより得られる。キャベツは通常知られている通りのアブラナ科に属する一年生又は越年生草本であるキャベツ(Brassica  Oleracea  L.)であれば特に限定されない”と記載されている。

本特許発明を用いることによって奏される効果に関して、

“麦若葉の粉末(麦若葉末)由来の食物繊維とカルシウムとを含有する健康食品は市場に存在する。しかしながら、食物繊維には腸管からのカルシウムの吸収を阻害する作用があるため、食物繊維とカルシウムを組み合わせて摂取すると、カルシウムによる効果が十分に発揮されないという問題点があった”が、

“大麦の茎及び/又は葉と、乳酸菌と、カルシウムと、キャベツ発酵エキス、葛花処理物、葉酸、ビタミンC及びビタミンDからなる群より選択される少なくとも1種とを同時に摂取することで、カルシウム吸収が飛躍的に促進されることを見出した。

さらに驚くべきことに、大麦の茎及び/又は葉と、乳酸菌と、カルシウムと、キャベツ発酵エキス、葛花処理物、葉酸、ビタミンC及びビタミンDからなる群より選択される少なくとも1種とを含有する組成物”は、皮膚バリア機能を飛躍的に改善することを見出した

と記載されている。

なお、“皮膚バリア機能改善試験は、各試験区で皮膚バリア関連遺伝子であるIVLの遺伝子発現量を測定することにより行った。”

公開公報に記載されている特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2017-197461 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2017-197461/E5FE652499552498754A062D7277E18C530611644F4A93B652A21A8049840DEB/11/ja)。

【請求項1】

以下の(A)~(D)を含有することを特徴とする組成物。

(A)大麦の茎及び/又は葉

(B)乳酸菌

(C)カルシウム

(D)キャベツ発酵エキス、葛花処理物、葉酸、ビタミンC及びビタミンDからなる群より選択される少なくとも1種

【請求項2】~【請求項3】 省略

(B)の“乳酸菌”を“Enterococcus  faecalis”に限定し、並びに(D)の成分のうち、”葛花処理物“及び植物に含まれる“葉酸、ビタミンC及びビタミンD”を除くことによって、特許査定を受けている。

特許公報の発行日(2021年5月19日) の約3か月後(2021年8月25日)に一個人名で異議申し立てがなされた(異議2021-700832

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-088639/E5FE652499552498754A062D7277E18C530611644F4A93B652A21A8049840DEB/10/ja)。

審理の結論は、以下であった。

“特許第6872699号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。”

異議申立人は、甲第1号証~甲第20号証を証拠として提出し、進歩性欠如及び実施可能要件違反を主張した。

本特許請求項1に係る発明(本件発明1)に限ると、異議申立理由は進歩性欠如であった。

具体的には以下であった。

(1)申立理由1(甲1に基づく進歩性欠如)

本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。“

甲1(甲第1号証):“「世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」,『天然550生搾り!野菜・果実どっさり生きてる酵素☆美ボディ活性ベジエット!』,アーカイブ日:2015年9月29日,検索日:2021年5月20日,インターネットhttps://web.archive.org/web/20150929003809/https://kumapon.jp/99/20150925kpd038072

甲5(甲第5号証):“Am. J. Clin. Nutr.,2005, Vol.81,p.916-922”

(2)申立理由2(甲4に基づく進歩性欠如)

本件発明1は、甲4に記載された発明、及び、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。“

甲4(甲第4号証):“『植物発酵エキス230種類+コラーゲン  グリーンスムージー(マンゴー風味)』,Amazon.co.jpでの取り扱い開始日:2014年9月24日,検索日:2021年7月28日,インターネットhttps://www.amazon.co.jp/植物発酵エキス-植物発酵エキス230種類-コラーゲン-グリーンスムージー-マンゴー風味/dp/B00NUTXWJO

以下、本件発明1について審理結果を紹介する。

(1 )申立理由1(甲1に基づく進歩性欠如)について

審判官は、甲1に記載された発明(甲1発明)は、“原材料として、水素吸蔵サンゴ末、黒五粉末(黒ゴマ、黒米、黒大豆、黒松の実、黒カリン)、野菜混合末(大麦若葉、ケール、ブロッコリー、カボチャ、チンゲン菜、パセリ、その他)、乳酸菌生産物質(大豆、乳酸菌)、乳酸菌末(FK-23)、貝Ca、V.C、パントテン酸Ca、葉酸、及び、V.Dを含む、栄養機能食品。”であるとして、本件発明1と甲1発明とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

<一致点>

「以下の(A)~(D)を含有することを特徴とする組成物。

(A)大麦の茎及び/又は葉

(B)Enterococcus  faecalis

(C)カルシウム

(D)キャベツ発酵エキス、葉酸、ビタミンC及びビタミンDからなる群より選択される少なくとも1種(ただし、葉酸、ビタミンC及びビタミンDは植物に含まれるものを除く)」“

<相違点1>

本件発明1は、「大豆を含有するものを除く」ことを特定しているのに対し、甲1発明は、大豆を含有するものである点。

異議申立人は、以下を主張した。

甲5の記載から、大豆食、コントロール食のいずれもカルシウム吸収に大差ないことが明らかであり、「カルシウム吸収の高められた組成物を提供すること」という本件発明1及び2の課題に対し、組成物中に大豆を含有するか否かが影響を及ぼすとは到底考えられないから、甲1に記載の組成物から大豆を除いたとしても、本件発明1及び2と同様の効果が得られると考えられ、本件発明1及び2は容易に想到できるものである”。

この主張に対して、審判官は、上記相違点1について、以下のように判断した。

・“甲1発明は、260種の天然発酵エキス、及び、天然ハーブ120種を含ものであって、多数の成分を含むことを特徴としたものであるから、甲1発明から、含まれている成分を除いて成分数を減らすことには、阻害要因があるといえる。

・“甲1発明は、健康的なダイエット生活をサポートする栄養機能食品であって、カルシウム吸収を促進することを目的とするものではないから、甲5に、大豆プラス食と大豆マイナス食とで、カルシウム吸収の割合は影響を受けなかったことが記載されていることを考慮しても、甲1発明から、大麦若葉等の他の成分は残したままで、カルシウム吸収に影響しないという理由から、大豆成分を除く動機付けがあるとはいえない。

以上の理由から、審判官は、“本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない”と結論した。

(2 )申立理由2(甲4に基づく進歩性欠如)について

審判官は、甲4発明(甲第4号証に記載された発明)は、

“「植物発酵エキス230種類、EC-12(エンテロコッカスフェカリス菌)及びコラーゲンを含む、スムージー用組成物であって、

原材料として、大麦若葉末、粉末状大豆たん白、フィッシュコラーゲン、植物発酵エキス末(デキストリン、黒糖、大豆、キャベツ、大根、その他)、ドロマイト(カルシウム、マグネシウム含有)、乳酸菌末(殺菌)、ビタミンC、パントテン酸Ca、葉酸、ビタミンDを含む、バランスのとれた食事のサポートとお腹の満足感を与える、スムージー用組成物“であり、本件発明1と甲4発明とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

<一致点>

「以下の(A)~(D)を含有することを特徴とする組成物。

(A)大麦の茎及び/又は葉

(B)Enterococcus  faecalis

(C)カルシウム

(D)キャベツ発酵エキス、葉酸、ビタミンC及びビタミンDからなる群より選択される少なくとも1種(ただし、葉酸、ビタミンC及びビタミンDは植物に含まれるものを除く)」“

<相違点1’>

本件発明1は、「大豆を含有するものを除く」ことを特定しているのに対し、甲4発明は、「粉末状大豆たん白」と「大豆」を植物発酵エキス末としたものとして、「大豆」を含有するものである点。

審判官は、相違点1‘について、以下のように判断した。

・“甲4発明は、バランスのとれた食事のサポートとお腹の満足感を与える組成物であって、当該組成物約6g当たりの「主要な栄養成分表示」として「たんぱく質0.636g」であると表示され、そのたんぱく質として、「粉末状大豆たん白」を含んでいる。”

・“甲4発明は、バランスのとれた食事のサポートをする組成物であるから、「主要な栄養成分表示」に記載されたたんぱく質の量を大きく減少させることは想定されていないものといえるから、「粉末状大豆たん白」を除く動機付けがあるとはいえない。

・“甲4発明における「植物発酵エキス末」として、キャベツ等のほかの成分は除くことなく、「大豆」を植物発酵エキス末としたものを除く動機付けがあるとはいえない。

甲4発明は、バランスのとれた食事のサポートとお腹の満足感を与える、スムージー用組成物であって、カルシウム吸収を促進することを目的とするものではないから、甲5に、大豆プラス食と大豆マイナス食とで、カルシウム吸収の割合は影響を受けなかったことが記載されていることを考慮しても、甲4発明から、大麦若葉末等の他の成分は残したままで、カルシウム吸収に影響しないという理由から、「粉末状大豆たん白」と「大豆」を植物発酵エキス末としたものを除く動機付けがあるとはいえない。

以上の理由から、審判官は、“本件発明1は、甲4に記載された発明、及び、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない”と結論した。