キユーピー株式会社とくにみ農産加工有限会社との共有特許第6530803号は、バジルの葉と茎を併用し、他の原料と共に細断後に、高温で加熱するバジルソースに関する。異議申立され、取消理由通知(進歩性欠如)が出されたが、最終的には権利維持された。
キユーピー株式会社と、くにみ農産加工有限会社との共有特許、特許第6530803号 「容器詰めバジルソース及びその製造方法」を取り上げる。
特許第6530803号の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6530803/C9B8F17FCE4EC6FC8048A33A59593FE7BD9B1DFF52C5C09447BC391479596594/15/ja)。
【請求項1】
バジルの葉及び茎を合わせたバジル細断物を40~60%(生換算)、
食塩を1~5%、
植物油脂を35~60%含有する容器詰め加熱済みバジルソースであって、
前記バジルの葉1部に対する茎の割合が0.1~0.3部(生換算)であり、
該バジルソースをビジュアルアナライザーで色の種類と各色が表面積に占める割合を分析した時に、
L値70以下の割合が3%以上15%以下であり、
a値0未満の割合が70%以上である、
容器詰め加熱済みバジルソース。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱済みバジルソースを含有する食品。
【請求項3】
生のバジルの葉及び茎40~60%(生換算)を、
食塩1~5%及び植物油脂35~60%と混合後、細断し、バジル細断物を得る工程と、
前記バジル細断物を78~83℃で加熱する工程を含む、
容器詰め加熱済みバジルソースの製造方法であって、
前記バジルの葉1部に対する茎の割合が0.1~0.3部(生換算)である、
容器詰め加熱済みバジルソースの製造方法。
本特許明細書によれば、“バジル”は、シソ科に属するハーブであり、生のままスパゲティ等の風味付けの用途に供されている。
バジルの葉は、“収穫直後は鮮やかな緑色とバジル特有の好ましい香りを有するものの、時間の経過とともに、退色し、香りも失われてしまう”し、“熱にも弱く、高温で加熱殺菌等すると、変色や、風味の低下を起こす”と書かれている。
また、本特許発明は、“バジルの原料として、通常用いる葉だけでなく、あえて所定量の茎を併用し、さらに、バジル原料を食用油脂、食塩を含む他の原料とともに細断した後、従来よりも高い温度で加熱することにより”、
“生バジル本来の鮮やかな緑色が保持され、良好な香りを有する容器詰めバジルソースが得られることを見出し、本発明を完成するに至った”と書かれている。
本特許明細書によれば、L値とa値は、ビジュアルアナライザーで求められた色番号に設定されているsRGB値をもとに算出されたCIE Lab表色系(D65)の色空間の値である。
L値は明度を表し、“値が大きくなるほど色が明るいことを示す”ことを意味し、
a値は“色味の指標であり、プラス側が赤色、マイナス側が緑色を表”しており、
“a値及びL値の両方の値が前記範囲であることにより、初めてバジル特有の鮮やかな緑色を呈するものとなる。“と説明されている。
“ビジュアルアナライザー”について、後記する異議申立の審理においては、“甲第9号証(アルファ・モス・ジャパン株式会社,「ビジュアルアナライザー IRIS」webページ,<https://www.alpha-mos.co.jp/sensory/am-iris-01.html>)に記載されているように”、
「サンプルを高解像度CMOSセンサーで簡単に撮影し、細分割されたサンプル表面の色や大きさのばらつきを・・・パターン認識ソフトウェアで・・・解析」することができる測定装置であり、「色・形・大きさを数値化できる」もの、
具体的には、「隣接するピクセル間の色差の程度に基づいて色が変化する境界を囲むことで、ある固有の色範囲、および面積を求める」ことができるものと理解することができる“と説明されている。
なお、sRGBとCIE Lab表色系の理解には、以下が参考になる。
https://kotobank.jp/word/RGB-44
https://omoide-photo.jp/blog/srgb/
https://wwws.konicaminolta.jp/instruments/download/manabi/color_communication_2.pdf
本特許の公開公報の特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2019-97469 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-097469/C9B8F17FCE4EC6FC8048A33A59593FE7BD9B1DFF52C5C09447BC391479596594/11/ja)
【請求項1】
バジルの葉及び茎を合わせたバジル細断物を10~80%(生換算)、
食塩を0.1~10%、
食用油脂を15~70%含有する容器詰めバジルソースであって、
該バジルソースをビジュアルアナライザーで色の種類と各色が表面積に占める割合を分析した時に、
L値70以下の割合が3%以上15%以下であり、
a値0未満の割合が70%以上である、
容器詰めバジルソース。
【請求項2】~【請求項3】 省略
【請求項4】
生のバジルの葉及び茎10~80%(生換算)を、食塩0.1~10%及び油脂15~70%と混合後、細断し、バジル細断物を得る工程と、
前記バジル細断物を77~84℃で加熱する工程を含む、
容器詰めバジルソースの製造方法。
【請求項5】 省略
請求項1についてみると、バジル細断物、食塩および食用油脂の各含有量の数値範囲の減縮ならびに、容器詰めバジルソースが“加熱済み“に限定し、特許査定を受けている。
本特許は、出願日の約1年後に早期審査請求され、公開公報の発行日と同じ令和1年6月12日に特許公報が発行された。
特許公報の発行日の約半年後(令和1年12月10日)、一個人から異議申立てされた(異議2019-701006 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6530803/C9B8F17FCE4EC6FC8048A33A59593FE7BD9B1DFF52C5C09447BC391479596594/15/ja)。
審理の結論は、以下の通りである。
“特許第6530803号の請求項1~3に係る特許を維持する。”
異議申立後、令和2年2月21日付けで取消理由通知が出された。
取消理由のIは、進歩性欠如であった。
同年4月27日に特許権者から意見書が提出され、その後、維持するとの審決となった。
審判官の判断のうち本件発明1(請求項1)について、以下に説明する。
本件発明1(請求項1)と引用発明(引用文献1)とを対比すると、以下のような一致点および相違点があるとした。(引用文献1:特開2015-100273号公報、キユーピー株式会社の出願特許、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2015-100273/34C5B29A220EA1856B0893D0826F04E164D01520B747EF78F3510B2EC1858429/11/ja)
一致点:「バジルの葉の細断物、及び植物油脂を含有する容器詰め加熱済みバジル含有液状食品。」
相違点:審理でまず検討されたのは相違点5であったので、相違点1~4は省略。
相違点5:本件発明1は、「バジルソースをビジュアルアナライザーで色の種類と各色が表面積に占める割合を分析した時に、L値70以下の割合が3%以上15%以下であり、a値0未満の割合が70%以上である」のに対し、
引用発明は、「色差計による測定において、a値が-5以下である」点で相違する。
相違点5について審判官の判断は以下のようであった。
判断1:“引用文献1には、シソ科野菜含有ペースト食品の色差をビジュアルアナライザーで測定し、色の種類と各色が表面積に占める割合を分析することについては記載も示唆もされていない。”
根拠は以下のようであった。
“引用文献1におけるa値及びL値が以下の測定条件で「測色色差計」を用いて測定されている。
“ここで、上記「測色色差計」による測定では、サンプル表面を細分割してピクセルごとの色差を測定したことは読み取れないから、引用文献1におけるa値及びL値は、シソ科野菜含有ペースト食品全体の平均値と解されるものであり、本件発明1におけるa値及びL値の特定と直接比較することはできない。
また、引用文献1には、シソ科野菜含有ペースト食品の色差をビジュアルアナライザーで測定し、色の種類と各色が表面積に占める割合を分析することについては、記載も示唆もされていない。“
判断2:乙第1号証には、“「L70以下の割合が3%以上15%以下」とすることについては具体的に記載されておらず、引用文献1に記載された実施例は、乙第1号証を参酌すると、いずれも「L値70以下の割合が3%以上15%以下」の要件を満たしていないものと認められる。”
根拠は以下のようであった。
“引用文献1の実施例記載から、いずれの実施例についてもL値70以下の部分の面積の割合が、L値70超の面積の割合よりも高いと推測できる。
また、“乙第1号証(キユーピー株式会社実験成績証明書)に記載された実験結果を参照すると”、引用文献1に記載された実施例は、“相違点5に係る「L値70以下の割合が3%以上15%以下」の要件を満たしていないといえる。“
判断3:“引用文献1に記載された実施例及び各処理工程の温度調整についての記載を参酌しても、「L値70以下の割合が3%以上15%以下」の要件を満たすシソ科野菜含有液状食品を調製することが動機付けられるものではないし、実際に当該条件を満たすシソ科含有液状食品を調製できるものとも認められない。“
根拠は以下のようであった。
“L値の要件を満足するためには短時間の加熱にとどめることが必要と推認されるところ、引用文献1の[0029]の[実施例1](摘記1-13)においては、<加熱処理工程2>として「68℃で30分間加熱処理」という、比較的長時間の加熱が行われていることを考慮し、また、乙第1号証の実験データも踏まえると、引用文献1に記載された事項から相違点5に係る「L値70以下の割合が3%以上15%以下」の要件を満たすシソ科野菜含有液状食品を調製できるとはいえない。“
判断4:“引用文献2~7を参照しても、引用発明において「L値70以下の割合が3%以上15%以下」の要件を満たすシソ科野菜含有液状食品を調製することができるものとは認められない。”
判断5:“本件発明1は引用文献1~7から予測し得ない顕著な効果を奏するものといえる。”
“本件発明1は、上記相違点5に係る要件を満たし、さらに相違点1~4に係る構成を備えることにより、「生バジル本来の鮮やかな緑色が保持され、良好な香りが感じられる」という効果が得られるものであ”ると判断された。
そして、
“本件発明1及び2は、いずれも引用発明、引用発明b及び引用文献1~7に記載された公知ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由通知に記載した理由I(進歩性)の取消理由により、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない“と結論された。