特許を巡る争い<14>日本食研ホールディングス株式会社・卵とじ料理用調味液特許

日本食研ホールディングス株式会社の特許第6182253号は、色度、比重および粘度の数値限定と、特定原料の使用とによって、卵の色がきれいで、食感も良好な、親子丼などの卵とじ料理用の調味液に関する。進歩性欠如と記載不備の理由で異議申立されたが、いずれも認められず、権利維持された。

日本食研ホールディングス株式会社の特許第6182253号『調味液、卵とじ料理、卵とじ料理の製造方法および調味液の使用方法』を取り上げる。

特許第6182253号の特許請求の範囲は、以下のようである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6182253/0ADEE366BA5F10EFC33CC1251008AF446708E7DC26413D558706C8CE7A66B8E7/15/ja)。

【請求項1】

卵とじ料理において卵と食材と共に用いられる調味液であって、

前記調味液のL*a*b*表色系におけるb*値が4.4以上であり、かつ、

前記調味液の比重が1.10以上1.40以下であって、

前記調味液が、カツオ、昆布、シイタケ、煮干し及びこれらの抽出物、

並びに醤油から選ばれる一種または二種以上を含み、

B型粘度計を用いて測定される前記調味液の液温60℃、回転開始から120秒後における粘度をη60としたとき、η60が15mPa・s以上、950mPa・s以下である、

調味液。

(【請求項2】以下、省略)。

上記『卵とじ料理』には、『親子丼、カツ丼、及びたまご丼』が含まれる(【請求項7】)。

L*a*b*表色系』とは、色を定量的に表すための表示システムで、

“L*“は明度、

”a*“と”b*”は色度(a*は赤方向、-a*は緑方向、b*は黄方向、-b*は青方向)

を示している(https://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/section2/02.html)。

本特許明細書には、

b*値は、卵の色味をきれいに見せる観点から、4.4以上であることが好ましく、4.9以上であることがより好ましい。(中略)

一方、美味しそうな卵の印象を与える観点から、当該b*値は、9以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましい。

当該L*a*b*表色系におけるb*値は、着色料の選択、醤油などのその他成分の選択及び配合量によって調整される。』

と説明されている。

比重が1.10以上1.40以下』ついては、

『下限値以上とすることにより、調味液の比重が通常の溶き卵の比重よりも大きくなり、加熱調理器具への卵及び調味液の投入の順序に寄らず、卵と調味液とが二層に分かれやすくなり、η60との相乗効果により両者の混ざり合いを抑制して卵とじ料理の卵の発色を一層良好にさせることができる

一方、上限値以下とすることにより、卵とじの料理の食感を良好に保持できる。』と説明されている。

調味液の『粘度』については、

『調味液のη60を15mPa・s以上とすることで、調味液の流動を抑制し、卵が熱変性し凝固する前に、卵と調味液が混合するのを適度に抑制することができる。

一方、調味液のη60を950mPa・s以下とすることで、調味液の粘性によるねっとり感による口あたりの低下を抑制することができる。』と説明されている。

そして、

本発明によれば、卵の色がきれいで、食感が良好な卵とじ料理が調理できる調味液が提供される。』と書かれている。

公開特許公報の特許請求の範囲は、以下のようであった(特開2018-61444、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2018-061444/0ADEE366BA5F10EFC33CC1251008AF446708E7DC26413D558706C8CE7A66B8E7/11/ja)。

【請求項1】

卵とじ料理において卵と食材と共に用いられる調味液であって、

B型粘度計を用いて測定される液温60℃、回転開始から120秒後における粘度をη60としたとき、η60が15mPa・s以上、950mPa・s以下である、

調味液。

(【請求項2】以下は、省略)。

L*a*b*表色系と比重の数値限定が追加され、調味液に使用される原料が特定されるなどの手続補正がなされて、特許査定となっている。

なお、本特許は、出願直後に早期審査請求され、特許査定を受けているため、特許公報発行後に(発行日平成29年8月16日)、公開公報が発行されている(公開日平成30年4月19日)。

特許公報発行半年後(平成30年2月15日)に、一特許事務所の弁理士名にて、異議申立された(異議2018-700119、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-199841/0ADEE366BA5F10EFC33CC1251008AF446708E7DC26413D558706C8CE7A66B8E7/10/ja)。

審理の結論は、以下のようであった。

特許第6182253号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

異議申立人は、進歩性違反および記載不備(サポート要件違反・実施可能要件違反)を主張した。

進歩性違反の主張に対して、審判官は、

本特許発明1(請求項1)と異議申立人の提出した甲第1号(Recty、“厚揚げステーキ★とろ~り卵としあんかけ♪”、2011年2月16日、cookpad、<URL:https://cookpad.com/recipe/1276567>)とは、

甲第1号では、『B型粘度計を⽤いて測定される前記調味液の液温60℃、回転開始から120秒後における粘度をη60としたとき、η60が15mPa・s以上、950mPa・s以下である』という特定がなされていない点で相違すると判断した。

また、異議申立人の提出した他の証拠(甲2~甲4)にも、上記粘度についての記載はないと判断した。

そして、

本特許発明は、この相違点(特定粘度)を発明の構成要件とすることで、

『調味液の加熱による対流を抑制して調味液と卵との混合を低減させると共に、口あたりの低下を抑制し、食感が良好な卵とじ料理を得る』(本件特許明細書【0007】)ものである。

したがって、『上記相違点を、単なる設計的事項とすることはでき』ず、本特許発明は、『当業者が容易に想到し得たものではない。』と判断して、進歩性を認めた。

また、記載不備について、異議申立人は、

『発明の詳細な説明には、L*値、a*値に関する記載はされているものの、

本件発明1〜7に係る特許請求の範囲には記載されておらず、また、

発明の詳細な説明において、比重、ブリックス値、粘度ηDMAの具体的な数値又は下限に

ついて記載も示唆もな』いとして、サポート要件違反・実施可能要件違反を主張した。

L*値、a*値に関する記載について、審判官は、

『本件発明の調味液は、「卵とじ料理において卵と食材と共に用いられる」こと、及び

「前記調味液が、カツオ、昆布、シイタケ、煮干し及びこれらの抽出物、並びに醤油から選ばれる一種または二種以上を含」むものであることを前提とするものであり、

調味液の色として、L*a*b*表色系におけるb*値を特定の範囲とすることで、

見栄えについて改善されたものが得られるというに過ぎず、

b*値に加えて、L*値及びa*値を特定しなければ、

本件発明を当業者が実施することができない、又は本件発明の課題を解決することができないというものでもない。

と判断した。

また、「比重」、「ブリックス値」、及び「ηDMA」についても、

調味液の粘度に加えて、調味液における他の物性を示す各項目について、        調味液として好適な数値範囲を特定したに過ぎず、

「粘度」に加えて、「比重」、「ブリックス値」、及び「ηDMA」を特定しなければ、

本件発明を当業者が実施することができない、又は本件発明の課題を解決することができないというものでもない。

と判断して、記載不備の主張を斥けた。