特許を巡る争い<15>サントリーホールディングス株式会社・炭酸飲料特許

サントリーホールディングス株式会社の特許第6283446号『ティリロサイド含有炭酸飲料』を取り上げる。

特許公報の特許請求の範囲は、以下のとおりである。(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6283446/3F01B67CDA84472CB8CD0422465969589DE6CE3337D71CE037443E4D3CA2D6FF/15/ja)。

【請求項1】

0.01〜1.0mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有し、Brixが8.0以下である、炭酸飲料。

【請求項2】

高甘味度甘味料をさらに含有する、請求項1に記載の飲料。

本特許明細書によれば、“ティリロサイド”(Tiliroside)は、フラボノイド配糖体に分類される化合物で、純品又はティリロサイドを含む植物抽出物の形態で用いることができ、植物抽出物として、ローズヒップ抽出物やイチゴ種子抽出物が例示されている。

また、“Brix”(ブリックス)は、『20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値』で、『単位は「°Bx」、「%」または「度」で表示される』と説明されている。

炭酸飲料は、『他の清涼飲料にはない特有の「炭酸感」を楽しむものであるが』、高甘味度甘味料を使用した場合などのBrixが低い炭酸飲料の場合、Brixが高い炭酸飲料と比べて、炭酸感を感じにくいという問題がある』。

Brixが8.0以下の低Brixの炭酸飲料において、『ティリロサイドを炭酸飲料に所定量添加することによって、炭酸ガスによる好ましい炭酸刺激が増強され』ること、また、高甘味度甘味料を使用した炭酸飲料においては、甘味と共に独特の苦味を有する場合があるが、『本発明における量のティリロサイドを含有する炭酸飲料では、高甘味度甘味料の苦味が効果的にマスキングされる』ことを見出した。

本特許発明を用いれば、『Brixの低い炭酸飲料において、飲料自体の香味を損なうことなく、良好な炭酸感を知覚することのできる炭酸飲料を提供することができる。これにより、低カロリーの高甘味度甘味料を使用した場合でも十分な炭酸感が感じられる炭酸飲料を提供することが可能となり、消費者の健康向上及びダイエット向上に資することができる』と書かれている。

公開特許公報の特許請求の範囲は、以下のとおりで、特許公報と同じである(特開2019-24364、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-024364/3F01B67CDA84472CB8CD0422465969589DE6CE3337D71CE037443E4D3CA2D6FF/11/ja)。

【請求項1】

0.01〜1.0mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有し、Brixが8.0以下である、炭酸飲料。

【請求項2】

高甘味度甘味料をさらに含有する、請求項1に記載の飲料。

本特許は、出願後約3か月で、早期審査請求され、そのまま特許査定されているため、特許公報の発行日(2018年2月21日)は、公開日(2019年2月21日)の1年前であった。

特許公報の発行日の約半年後(2018年8月14日)、一個人名で異議申立てされた(異議2018-700679)。

審理の結論は、以下のとおりである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-024364/3F01B67CDA84472CB8CD0422465969589DE6CE3337D71CE037443E4D3CA2D6FF/11/ja)。

特許第6283446号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の〔1,2〕について訂正することを認める。

特許第6283446号の請求項1,2に係る特許を維持する。

審理の過程で、取消理由通知に対して、以下のように特許請求の範囲は訂正された。

【請求項1】

0.01〜1.0mg/100mLの濃度のティリロサイドを含有し,Brixが8.0以下であり,炭酸ガス圧が1.0〜5.0kgf/cm である,炭酸飲料。

【請求項2】

高甘味度甘味度料をさらに含有する,請求項1に記載の飲料。

請求項1において、炭酸飲料における炭酸ガス圧が数値限定された。

審理の過程で通知された取消理由は、サポート要件(特許法36条6項1号)違反であった。

具体的には、『請求項1において炭酸ガス圧について具体的に特定されていないが,本件明細書の発明の詳細な説明においては,炭酸ガス圧3.6kgf/cm (実験2〜4)のものについて効果が確認されたことが記載されているのみである。

そして,炭酸ガス圧が炭酸感に影響することは明らかであるから,炭酸ガス圧の特定のない請求項1に係る発明のすべての範囲において,課題を解決することができるものとは認められない。例えば,炭酸ガス圧が低い場合,請求項1に特定された濃度のティリロサイドを含有する飲料が,良好な炭酸感を知覚することのできる炭酸飲料であるとは認められない』であった。

上記訂正によって、炭酸ガス圧が具体的に特定されたことにより、本発明の効果が具体的に裏付けられているとして、審判官は、取消理由が解消されていると判断した。

異議申立人は、以下のような理由で、本特許は、実施可能要件(特許法36条4項1号)またはサポート要件(特許法36条6項1号)に違反していると主張した。

具体的には、以下の(1)や(2)などを主張した。

(1)『炭酸飲料に含有される成分の種類や含有量が炭酸感に影響を及ぼすことは明らかで・・・(中略)・・・炭酸飲料に含有される成分の種類,その含有量が異なれば,炭酸感の評価が異なることは明らかである。本件明細書の発明の詳細な説明に記載された試料以外に,任意の成分を任意の含有量で含む炭酸飲料について,本件発明の課題が達成できるとは認められない。

(2)『本件明細書の発明の詳細な説明において,Brixが3.0よりも大きく8.0以下の場合に本件発明の効果を奏することが実証されていない。』

しかし、審判官は、いずれの主張も採用せず、本特許は権利維持された。

サポート要件

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0202.pdf

実施可能要件

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0102.pdf