特許を巡る争い<13>サントリーホールディングス株式会社・ナトリウム含有飲料特許

サントリーホールディングス株式会社の特許第6302366号は、ナトリウム高含有が配合された熱中症対策飲料において、ナトリウム由来の”ぬめり”等を、脂肪酸の1種であるラウリン酸を添加して抑制した飲料に関する。異議申立されたが、サントリーは、ラウリン酸源としてココナッツウォーターを配合するという限定を行った結果、進歩性が認められ、権利維持された。

サントリーホールディングス株式会社の特許第6302366号『ナトリウムを含有する容器詰め飲料』を取り上げる。

特許第6302366号の特許請求の範囲は、以下のとおりである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6302366/C8C2405A7CEDB8D6D5A78E5610AEC4D2AEF37A5C0B2F55EE2FA91C89793602E9/15/ja)。

【請求項1】

ラウリン酸の含有量が0.300〜2.00ppmであり、ナトリウムの含有量が130〜600ppmである容器詰め飲料。

【請求項2】

ラウリン酸の含有量とナトリウムの含有量比がラウリン酸:ナトリウム=1:100〜1:2000である、請求項1の容器詰め飲料。

【請求項3】

ラウリン酸がココナッツウォーターとして配合される、請求項1〜2のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。

【請求項4】

糖の含有量がBrix値として12以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。

【請求項5】

殺菌処理された、請求項1〜4のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。

本特許は、熱中症対策のために、塩分を含有しながらも、「快適に飲用できる飲料」に関する。

本特許明細書には、熱中症対策飲料には多量のナトリウム(食塩等)が配合されているが、ナトリウムを高濃度に配合した飲料は、ぬめりや苦味等が生じるが、本特許発明を用いれば、ぬめり等を抑制でき、快適に飲用できると書かれている。

なお、「ぬめり」とは、飲料の口に含んでから飲用後にかけて後をひいて感じる舌触りをいうと説明されている。

具体的には、ラウリン酸(脂肪酸の1種、母乳等にも含まれる)に、ナトリウム由来のぬめりや苦味等の軽減効果があることを見出し、さらにラウリン酸を豊富に含有するココナッツウォーターを配合した場合にも、ナトリウム由来のぬめりや苦味等が軽減されることを見出したと書かれている

公開特許公報(特開2016-7149)の特許請求範囲は以下の通りで、特許公報の特許請求の範囲と同じで、拒絶理由通知なしに、特許査定を受けている

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-007149/C8C2405A7CEDB8D6D5A78E5610AEC4D2AEF37A5C0B2F55EE2FA91C89793602E9/11/ja)。

【請求項1】

ラウリン酸の含有量が0.300〜2.00ppmであり、ナトリウムの含有量が130〜600ppmである容器詰め飲料。

【請求項2】

ラウリン酸の含有量とナトリウムの含有量比がラウリン酸:ナトリウム=1:100〜1:2000である、請求項1の容器詰め飲料。

【請求項3】

ラウリン酸がココナッツウォーターとして配合される、請求項1〜2のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。

【請求項4】

糖の含有量がBrix値として12以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。

【請求項5】

殺菌処理された、請求項1〜4のいずれか一項に記載の容器詰め飲料。

特許公報発行日の半年後、一個人名で異議申立された(異議2018-700778

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-007149/C8C2405A7CEDB8D6D5A78E5610AEC4D2AEF37A5C0B2F55EE2FA91C89793602E9/11/ja)。

審理の結論は、以下のようであった。

特許6302366号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。

特許第6302366号の請求項1、2、4及び5に係る特許を維持する。

特許第6302366号の請求項3に係る特許についての申⽴てを却下する。

審理の過程で、サントリーホールディングスは、以下のように特許請求の範囲を訂正した。

【請求項1】

ラウリン酸の含有量が0.300〜2.00ppmであり、ナトリウムの含有量が130〜600ppmであり、ラウリン酸がココナッツウォーターとして配合される容器詰め飲料。

【請求項2】

ラウリン酸の含有量とナトリウムの含有量比がラウリン酸︓ナトリウム=1︓100〜1︓2000である、請求項1の容器詰め飲料。

【請求項3】

(削除)

【請求項4】

糖の含有量がBrix値として12以下である、請求項1または2に記載の容器詰め飲料。

【請求項5】

殺菌処理された、請求項1、2、または4に記載の容器詰め飲料。

ラウリン酸源をココナッツウォーターに限定している。

審理では、進歩性について争われた。以下では、訂正請求項1について説明する。

訂正請求項1と引用発明1(甲第1号証︓特開2014-79225号公報)とは、

「ラウリン酸の含有量が0.300〜2.00ppmであり、

ナトリウムの含有量が130〜600ppmである飲料」である点で一致するが、

以下の2点で相違するとした。

[相違点1]

本件訂正発明1においては、飲料が「容器詰め飲料」であるのに対して、引⽤発明においては、飲料が容器詰めのものか不明である点。

[相違点2]

本件訂正発明1においては、「ラウリン酸がココナッツウォーターとして配合される」のに対して、引⽤発明においては、「ラウリン酸が脱脂粉乳に由来するものである」点。

相違点2について、ラウリン酸として、ココナッツウォーター由来のラウリン酸を配合することを開示したり、示唆している先行技術や先行技術資料はないと判断された。

その結果、引⽤発明や先行技術、先行技術資料の記載をもとにして、訂正請求項1のような構成の発明をなし得ることは、「当業者が容易になし得たとすることはできない」として、進歩性を認めた。

なお、異議申立人は、記載不備(特許法第36条第6項第1号サポート要件および第36条第4項第1号実施可能要件の違反)を主張したが、審判官は採用しなかった。