情報提供があった場合、“審査官は、提供された情報については、原則、その内容を確認し、審査において有効活用を図ることとする。”と定められている。
ただし、”提出された情報や当該提出資料”が“証明しようとしている事実の存在について確信を得ることができる場合に限り、その書類を採用し、拒絶理由の有無を審査する”となっており、事実であると認識できるような形で情報を提出するよう留意する必要がある。
また、情報提供したとしても、提出のタイミングによっては、以下のように審査官は考慮しないと定められている。審査状況を経過観察し、審査に要する期間や拒絶理由応答期限などを考慮して、情報提供の準備や提出が手遅れにならないように注意する必要がある。
以下に情報提供で提出する資料についての注意点を説明する(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/document/index/01.pdf#page=7)。
情報提供で提出できる書類について、以下の説明がある。
“提出できる「書類」には、刊行物、特許出願又は実用新案登録出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲若しくは図面の写しのほか、実験報告書等の証明書類等が含まれる。”
“刊行物、特許出願又は実用新案登録出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲若しくは図面の写し以外の「書類」”として例示されているのは、インターネット情報、公然知られた発明や公然実施された発明に関する資料などである。
(1)インターネット情報
“対象出願の請求項に係る発明が電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である旨の情報を提供し、当該発明が出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったことを示す、インターネット等の電子的技術情報の内容をプリントアウトして提出する場合
この場合において、提出された情報のプリントアウトには、その情報の内容、その情報の掲載日時の表示とともに、その情報を取得したアドレス、その情報に関する問合せ先を含む必要がある。
注:インターネット等の電子的技術情報
インターネット等の電子的技術情報の提供に当たっては、下記事項を含む内容をプリントアウトしたものを提出してください。
情報の内容、掲載日時の表示 当該情報を取得したアドレス
当該情報に関する問い合わせ先
当該情報に関して掲載、保全等に権限又は責任を有する者による証明書類を添付していただくことが望ましいです。“
(2)公然知られた発明
“対象出願の請求項に係る発明が公然知られた発明である旨の情報を提供し、当該発明が出願前に行われた講演・説明会等において説明されたことを示す講演用原稿等”
(3)公然実施された発明
“対象出願の請求項に係る発明が公然実施された発明である旨の情報を提供し、出願前に公然知られる状況又は公然知られるおそれがある状況において実施された当該発明に係る機械装置、システムなどについて記載した書類”
(4)実験報告書
”対象出願の請求項に係る発明について当業者が実施できるように発明の詳細な説明が記載されていない旨の情報を提供し、それを説明するための実験報告書等”
(5)外国語書面の翻訳
”対象出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内のものでない(原文新規事項)旨の情報を提供し、それを説明するために、該当箇所の適正な翻訳を記した証明書類及び必要に応じて明細書、特許請求の範囲又は図面の記載が誤訳であることを明らかにするための技術用語辞典等の写し等”
情報提供があった場合の審査における運用については、以下のようになっている。
“審査官は、提供された情報については、原則、その内容を確認し、審査において有効活用を図ることとする。”と定められている(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/kaitei/document/H27/11.pdf)。
ただし、審査官は、“提出された情報や当該提出資料”により、
“証明しようとしている事実の存在について確信を得ることができる場合に限り、その書類を採用し、拒絶理由の有無を審査する”
という運用になっている。
具体的には、
“提供された情報及び当該提出資料についての証拠調べ(証人尋問、検証、当事者尋問、鑑定及び書証)をすることなく”、事実の存在の有無を判断する運用になっている
(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/kaitei/document/H27/11.pdf)。
しかし、
“出願人が拒絶理由通知に対する意見書等によりその事実の存在について反論し、当該提出書類に基づき認定される事実を根拠とした拒絶理由により拒絶査定を行うことが正当であると判断するためには証拠調べを要すると認められることとなった場合は、審査官は、当該拒絶理由を根拠とした拒絶査定を行わないこととする。”という運用になっている。
したがって、提出した証拠が事実であると、審査官が容易に判断し得るような形で証拠を提出することが望ましい。
例えば、
刊行物についても、“刊行物の受入日についての国会図書館への問合せ、公文書の真否についての官公庁への問合せ等、審査官が特許出願の審査において通常行われる職権探知の範囲内で証拠調べと同様の審査を行うことが可能であることは言うまでもない”と説明されている。
閲覧可能となった日が問題となる場合には、国会図書館に所蔵されている刊行物であれば、受入日印の押印があるページ(刊行物の表紙など)の複写を提出することによって、公開日を証明する方法が考えられる。
この点については、以前も取り上げたことがある。
【16】「先行」技術とは? ~資料の公開日の証明~ https://patent.mfworks.info/2019/02/04/post-1706/
【28】無効資料調査 ~周辺特許と周辺情報の調査~ https://patent.mfworks.info/2020/01/19/post-2707/
また、審判における証拠の提出方法が参考になる
(”証拠説明書の提出について” https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/shubetu-tokkyo-igi/setsumeisyo.html)。
有力な証拠を見つけ、情報提供したとしても、提出のタイミングによっては、以下のように審査官は考慮しないとなっている。
“拒絶査定確定前に提出された情報であっても、拒絶査定後に審査官に利用可能となった情報提供については、審査官はこれを考慮しない
(ただし、当該情報が審査官に利用可能となった後に前置審査に係属した場合はこの限りでない。)”
“特許権の設定登録前に提出された情報であっても、特許査定後に審査官に利用可能となった情報については、審査官はこれを考慮しない。”
したがって、情報提供のタイミングも重要である。
情報提供のタイミングとしては、公開日~審査請求日、審査請求日~審査着手日、審査着手日~ファーストアクション、ファーストアクション~特許査定日などが考えられる。
情報提供すべき特許出願が見つかった場合、事業に及ぼすリスクの大きさや出願人の動向をもとに、情報提供の準備を進め、最適なタイミングで情報提供できるようにしておく。
タイミングについては、JPlatPat等で、審査請求、拒絶理由通知、意見書手続補正書の提出などの経過情報の経過観察を行い、審査に要する期間や拒絶理由応答期限などを考慮して、情報提供の提出が手遅れにならないように注意する。
国際的に展開している競合企業や主力製品主力技術がある場合は、国際公開された特許出願の定期的な調査を行って、事業の障害となり得る特許出願を把握しておくことも一法である。
当該特許出願が日本へ移行されることを前提に、国際出願に対する情報提供制度を利用して、あらかじめ手を打つ方法がある
(第三者情報提供制度 https://www.jpo.go.jp/system/patent/pct/tetuzuki/pct_third.html https://www.wipo.int/pct/ja/faqs/third_party_observations.html)。