特許を巡る争い<8>キユーピー・あご出汁含有液体調味料特許

キユーピー株式会社の特許第6315586号は、あご(トビウオ)出汁を使うことなどを特徴とするドレッシング等に関し、商品に使用されている特許。あご出汁を使用した先行商品があることや裏付けデータが不十分という理由で異議申立されたが、いずれの主張も認められず、権利維持された。

キユーピー株式会社の特許第6315586号「液状調味料」を取り上げる。

特許第6315586号の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6315586/D91C341A79D32363B70272BD11A380DA)。

【請求項1】

食用油脂の含有量が5%未満の液状調味料において、

pH4.0以上5.0以下であり、

焼きあご出汁、有機酸、食塩、

並びに1~2糖の糖及び/又は1~2糖の糖アルコールを含有し、

前記食塩含有量が4%以上9%以下、

前記1~2糖の糖及び1~2糖の糖アルコールの合計含有量が21%以上40%以下である、

液状調味料。

(【請求項2】以下は、省略。)

本特許の「焼きあご出汁」は、「焼きあご」から「主に熱水等の水性媒体で抽出したもの」と定義されており、「焼きあご」とは、“あごを焼いたものであり、例えば、炭火やガス火などで焼いた「焼きあご」、焼いた後に乾燥させる「焼き干しあご」、その他燻製にかけたもの等が挙げられる”と書かれている。

なお、「あご出汁」は「トビウオ」からとった出汁(だし)である。

https://food-drink.pintoru.com/dashi/agodashi/ https://www.kubara.co.jp/reason/

「焼きあご」や「焼き干しあご」は、加熱によって、あごの余分な魚油が除かれ、芳ばしさが出るため、本発明において、「液状調味料に合わせた際に、コクが感じられる。」と書かれている。

本発明の「1~2糖の糖」として、ぶどう糖やマルトース(麦芽糖)が例示されている。

また、「1~2糖の糖アルコール」として、ソルビトールやマルチトールが例示されている。

本特許発明を用いることによって、食用油脂の含有量が5%未満の液状調味料(ノンオイルドレッシング、ポン酢等)の問題点であったコク味の不足を改善できるという。

なお、本特許は、特許法第30条第2項の“新規性喪失の例外”の適用を受けている。

具体的には、本特許出願日は、平成26年9月19日であるが、出願日前の7月8日にキユーピー株式会社のホームページの“キユーピーアヲハタニュース”で、本特許技術を使用した商品の発売告知を行っている(<だしの風味で野菜を楽しむ新シリーズ> 「キユーピー 和菜どれ」 3つの味で新発売 8月18日(月)から首都圏に出荷 https://www.kewpie.com/newsrelease/archive/2014/36.html)。

本特許は、平成29年4月27日に審査請求され、出願時の特許請求の範囲がそのまま特許査定されている(参考 公開公報 特開2016-593343、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H28059343/E3A8021CB36372C394C3441A9CBD3BFD)。

特許公報発行日(平成30年4月25日)の半年後(平成30年10月25日)に、一個人名で異議申立てされた(異議2018-700871)。

審理の結論は、以下の通りである。

特許第6315586号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。

異議申立人は、本特許出願以前からAMAZONで販売されている「あご」や「あご出汁」を使った製品が販売されていることなどを理由に新規性や進歩性を欠如すると主張した。

また、「焼きあご出汁について含有量が⼀切特定されていない」ことから、「あらゆる濃度の焼きあご出汁をあらゆる含有量で用いたすべての場合に、本件発明1の課題が解決できるとはいえないことは明らかである」として、サポート要件違反であると主張した。

これらの主張に対して、審判官は、証拠として挙げられた文献には、「食用油脂の含有量が5%未満の液状調味料」において、pH、焼きあご出汁、有機酸、食塩含有量、1〜2糖の糖及び1〜2糖の糖アルコールの含有及び合計含有量についての記載はないこと、また、これらの含有成分を調整することを動機付けるような記載や示唆はないことから、設計事項とはいえないと判断し、新規性欠如や進歩性欠如についての異議申立人の主張を認めなかった。

また、サポート要件違反については、本特許明細書の記載から、当業者であれば、焼きあご出汁の含有量によらず、焼きあご出汁を含有していない液状調味料と比べて、コクに優れた液状調味料を得ることができることが理解できる。

したがって、実施例で示された焼き干しあご出汁の含有量の範囲外であっても、当業者であれば、本件特許の課題が解決できると認識することができると判断し、異議申立人のサポート要件欠如の主張も認めなかった。

(参考)

サポート要件 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0202.pdf