特許を巡る争い<21>アサヒビール株式会社・柑橘類風味ノンアルコール飲料特許

アサヒビール株式会社の特許第6478608号は、柑橘類風味ノンアルコール飲料の製造後経時的に発生する劣化臭を抑制する方法に関する。新規性欠如、進歩性欠如などの理由で異議申立されたが、異議申立人の主張はいずれも採用されず、権利維持された。

アサヒビール株式会社の特許第6478608号『柑橘類風味ノンアルコール飲料』を取り上げる。

特許第6478608号の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6478608/F1810CD28FD15D3882925F1DE8A7DFE0FBD8AD54C70111C930C1543FD3CD5BAD/15/ja)。

【請求項1】

飲用水に、

柑橘類の果皮を使用して製造された柑橘類のフレーバー、

酸味物質、及び

0.7~1.6w/v%の難消化性デキストリンを含有させる工程を包含する、

柑橘類風味ノンアルコール飲料に発生する劣化臭を抑制する方法。

【請求項2】以下、省略

本特許明細書によれば、“柑橘類のフレーバーを含有するノンアルコール飲料は風味の経時変化が早く、製造後短期間のうちに劣化臭が発生する問題がある”。

本特許発明を用いれば、“製造後経時的に劣化臭が発生し難”く、ならびに“アルコール飲料らしいボディ感と複雑味のあるバランスのよい味わいを呈し、スッキリ感に優れ”た、柑橘類風味ノンアルコール飲料を提供することができると記載されている。

本発明の“柑橘類のフレーバー”は、“飲用後の後味をすっきりさせる観点から、本発明で使用するは、原料に柑橘類の果皮を使用して製造されたものであることが特に好ましい。”と記載されている。

また、“酸味物質とは、飲料に酸味を付与することができる物質をい”い、“クエン酸又はリンゴ酸、又はこれらの組み合わせ”が好ましいと記載されている。

難消化性デキストリン”は“デンプン分解物であり”、その“含有量が0.7w/v%未満であると、製造後短期間のうちに柑橘類風味ノンアルコール飲料における劣化臭が認識され易くなる。また、その場合、アルコール飲料らしいボディ感が不足し易い”。

一方、その“含有量が1.6w/v%を超えると、べたつき感、重い後味感が目立ち、柑橘類風味ノンアルコール飲料の風味が悪くなることがある”と記載されている。

本特許の公開公報(特開2016-111946)の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-111946/F1810CD28FD15D3882925F1DE8A7DFE0FBD8AD54C70111C930C1543FD3CD5BAD/11/ja)。

【請求項1】

柑橘類のフレーバー、

酸味物質、及び

0.7~1.6w/v%の難消化性デキストリンを含有する

柑橘類風味ノンアルコール飲料。

(【請求項2】以下、省略)

柑橘類のフレーバーを、柑橘類の果皮を使用して製造されたフレーバーに限定し、発明の形式を物の特許から方法の特許に変更して、特許査定を受けている。

特許公報発行日(2019年3月6日)の半年後(2019年9月5日)に、一個人名で異議申立がなされた(異議2019-700699)。

結論は、以下のようであった。

“特許第6478608号の請求項1〜10に係る特許を維持する。”

異議申立人は、新規性欠如、進歩性欠如、実施可能要件違反及びサポート要件違反があると申立した。

具体的には、以下の4件の出願時公知文献を証拠として、新規性欠如と進歩性欠如を主張した。

甲第1号証︓特開平6-166622号公報

甲第2号証︓特開2008-143843号公報

甲第3号証︓特開2011-30483号公報

甲第4号証︓特表2014-513965号公報

以下、本特許の請求項1に係る発明(本件発明1)について説明する。

審判官は、本件発明1と甲1発明(甲第1証記載発明)とを対比して、以下の一致点と相違点があると認めた。

一致点

“飲用水に、柑橘類のフレーバー、酸味物質、及び1.36w/v%の難消化性デキストリンを含有させる工程を包含する、柑橘類風味ノンアルコール飲料”

相違点

相違点ア 本件発明1は、柑橘類のフレーバーが柑橘類の果皮を使用しているのに対して、甲1発明は、柑橘類の果皮を使用しているか否か特定されていない点。”

相違点イ 本件発明1は、ノンアルコール飲料に発生する劣化臭を抑制する⽅法であるのに対し、甲1発明は、劣化臭を抑制する方法について特定されていない点。”

審判官は、

相違点アについて検討すると、甲第1号証には、オレンジフレーバーが柑橘類の果皮を使用して得られることを示唆する記載はされていない”、

また、異議申立人は提出した甲第5号証(R. M. Goodrich and R. J. Braddock, Major By-Products of the Florida Citrus Processing Industry, University of Florida IFAS Extension, 2006, Feb, pp.1-4)には、”柑橘果実の果皮からフレーバーが得られることや、そこから得られたものがオレンジジュース等に用いられることは記載されているが、当該記載を参酌したとしても、フレーバーとしては、化学合成により得られるものや果汁フレーバー等もあり、当業者が甲1発明においてそれら選択肢から柑橘類の果皮を使用したフレーバーを採用するといえる根拠はない“と判断した。

そして、

“本件発明1は甲1発明に対して実質的な相違点である相違点ア及びイを有しているから、本件発明1は甲1発明とはいえない。

また、上記のとおり、相違点アは、甲第1号証及び甲第5号証を参酌したとしても、当業者が甲1発明において採用することを容易に想到し得るものではないから、相違点イを検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。“

”したがって、上記理由1a及び理由2aには、理由がない。”として、異議申立人の主張を採用しなかった。

審判官は、甲2発明(甲第2号証記載発明)、甲3発明(甲第3号証記載発明)および甲4発明(甲第4号証記載発明)の各発明との対比においても、上記とほぼ同様に判断し、異議申立人の主張を採用しなかった。

実施可能要件およびサポート要件についても、それぞれ“本願発明の詳細な説明の記載は本件発明1及びこれを直接間接に引用する本件発明2〜10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、上記理由3には、理由がない”および“本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、上記理由4には、理由がない”と審査官は判断した。