(47)特許を巡る争いの事例;ビール風味ノンアルコール飲料特許

アサヒビール株式会社の特許第6042490号は、発酵米エキスの含有を特徴とする

非発酵ビール風味ノンアル飲料の特許。

個人名で異議申立てされたが、アサヒビールは権利範囲の訂正をしなかった。

審理の結果、請求項1と請求項3~9は取り消されたが、

「発酵米エキス」として、

「乳酸発酵米エキス」に限定した請求項2は権利維持された。

アサヒビール株式会社の特許第6042490号「非発酵ビール風味ノンアルコール飲料」を取り上げる。

特許第6042490号は、平成27年6月8日に出願され、平成28年5月10日に早期審査請求され、平成28年10月11日に特許査定された。

特許第6042490号の特許請求の範囲は、以下のようである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6042490/9CCC727B23E239BB991D0C77B2E09FAD)。

【請求項1】発酵米エキスを不揮発分換算で1~300mg/100mL含有する

非発酵ビール風味ノンアルコール飲料。

【請求項2】前記発酵米エキスが乳酸発酵米エキスである請求項1に記載の

非発酵ビール風味ノンアルコール飲料。

請求項3以下、省略

発明の目的は、コク感、キレ感及び嗜好性に優れ、プリン体の含有量が低い非発酵ビール風味ノンアルコール飲料の提供と記載されている。

公開公報の特許請求の範囲は以下のようであって、上記特許公報と比較すると、

「穀類エキス及び発酵穀類物エキス」を「発酵米エキス」に限定することによって、

特許査定を受けた。

(特開2017-38、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H29000038/C034C1D601A046A6185B1F3303CBBA8E

【請求項1】穀類エキス及び発酵穀類エキスから成る群から選択される少なくとも一種を

不揮発分換算で1~300mg/100mL含有する非発酵ビール風味ノンアルコール飲料。

【請求項2】前記発酵穀類エキスが乳酸発酵穀類エキスである請求項1に記載の

非発酵ビール風味ノンアルコール飲料。

【請求項3】前記穀類が米である請求項1又は2に記載の

非発酵ビール風味ノンアルコール飲料。

請求項4以下、省略

特許公報発行日(平成28年12月14日)の半年後の平成29年6月14日に

個人名で特許異議申立書が提出された(異議2017-700598)。

審理の結論は、

特許第6042490号の請求項1,3ないし9に係る特許を取り消す。

特許第6042490号の請求項2に係る特許を維持する。

というものであった。

異議申立ての審理において、アサヒビールは訂正請求をしなかったので、上記特許公報に記載された特許請求の範囲について審理された。

取消理由として検討されたのは、進歩性、サポート要件および実施可能要件の3点である。

進歩性については、キリン株式会社の「パーフェクトフリー」という商品が問題となった。

具体的には、

本特許発明と、先行文献に記載されたキリン株式会社の「パーフェクトフリー」という

商品とを比較すると、いずれも

「発酵米エキスを含有する非発酵ビール風味ノンアルコール飲料」という点で共通する。

一方、

本特許発明が「発酵米エキスを不揮発分換算で1~300mg/100mL含有する」と

含有量を数値限定しているのに対し、

「パーフェクトフリー」の「米発酵エキス」の含有量は不明であり、この点で相違する。

しかし、

「ビール風味ノンアルコール飲料においてコク感やキレ感を改善することは周知の課題であると認められ」、

「発酵米エキスが,ホップが配合されたノンアルコール飲料において,コク味付与や重奏感のある味わいの実現に有効であること」や

「米麹による発酵米エキスがコク味付与に有効であること」が知られている。

また「乳酸発酵米エキスはビール風味アルコール飲料に配合されており」,

「乳酸発酵米エキスがビール風味アルコール飲料の香味付けに有効であることも

知られていたものと認められる」として、

請求項1の発明は「当業者が容易に発明をすることができたものである。」と結論された。

請求項3~9も同様に結論された。

また、サポート要件および実施可能要件についても、

「本件発明1,3~9は,発明の詳細な説明において課題が解決できることを

当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものである。」および

「乳酸発酵以外の発酵形式で得られた発酵米エキスにおいて,

発明の詳細な説明に記載された実施例1と同様の効果が得られるのか,

技術常識に基づいても当業者が理解することができないから,

発明の詳細な説明の記載からでは,当業者が本件発明1,3~9の実施をすることが

できない。」として、「取り消されるべきものである」と結論された。

しかし、請求項2に記載の発明は

「取消理由及び特許異議申立理由により取り消すことはできない。

他に本件発明2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。」として、

維持された。

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(参考文献)

サポート要件 https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/02_0202.pdf

実施可能要件 https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/shinsa/pdf/kisaiyouken_honbun.pdf

明確性要件  https://www.jpo.go.jp/iken/pdf/kaitei_mokuji_150708/02-02-03.pdf

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