発明技術の「新規性」は、先行技術と対比して、相違点があるかどうかで判断される。先行技術調査が不適切であったり、発明技術や先行技術の理解が不十分であると、誤って判断されるリスクがある。
発明した技術を「特許」として認めてもらうためには、特許庁に出願し、審査を受けなければならない。
審査が一定の基準に従って行われるようにするために、特許法等の関連法律の適用についての考え方は、「特許・実用新案審査基準」(https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/tukujitu_kijun.htm)や、「特許・実用新案審査ハンドブック」(https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/handbook_shinsa.htm)にまとめられている。
審査すべき要件は多数あるが、その中心となるのは、「新規性」と「進歩性」である。
「新規性」(新しいであるかどうか)は、発明技術と、先行技術とを対比し、両者に相違点がある場合は、新規性を有していると判断し、相違点がない場合は、有していないと判断される。
上記対比に先立って先行技術の調査が行われる。
調査のために、まず、調査対象となる発明の内容を認定する。具体的には、特許出願書類の記載に基づいて発明の内容を把握し、発明のポイントを理解する。
次に、認定した内容を基にして、調査するための検索式を作成する。
先行特許についての調査であれば、検索に使用する特許分類やキーワードを決定する。
特許分類には、IPC(Interntional Patent Classification、国際特許分類)、FI(ファイルインデックス)、Fターム、CPCがある。
例えば、IPCの分類表で、「Aセクション」は「生活必需品」に関する分類で、その下位分類として、例えば、「A01」は「農業;林業;畜産;狩猟;捕獲;漁業」や「A23L」は食品、食料品に関する分類があり、さらに下位の分類がある。
調査は、特許分類やキーワード、特許分類とキーワードの掛け合わせなど複数の検索式を作成して行う。
調査の結果、発明技術が、特許出願前から知られていたり、実施されていたことを記載された文献が発見されれば、公知の技術と認定される。すなわち、発明技術と先行技術との間に相違点がないので、「新規性」を有さないと判断される(http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0201.pdf)。
先行技術との相違点があれば「新規性」を有していると判断されるが、特許査定後に無効審判で「新規性なし」と判断される場合もある(「無効審判において新規性なしと判断された事件から考察する精度の高い調査方法」https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201401/jpaapatent201401_043-058.pdf)。
誤って新規性を有すると判断された事例の検討から、その原因は、「検索式が不適切なケース」と「発明の認定・理解が不十分なケース」に分けられるということである。
検索式が不適切だったケースとして、検索対象を限定しすぎ、特許分類が不適切、キーワードが不適切でなかったことが挙げられている。検索式が不適切であれば、本来検討すべきはずの文献が見落とされることになり、「新規性有り」と誤って判断されてしまう。
発明の認定・理解が不十分なケースとして、調査は適切で、「新規性無し」の証拠となる文献は見つかっていたが、発明の技術内容の把握が不十分、あるいは、先行技術文献に記載された技術内容の理解が不十分なことが原因で、関連文献として抽出されずに見落とされ、誤って判断される。
調査での漏れが生じやすいと考えられる場合として、別に「早期審査」での審査がある。
「早期審査」の制度を利用すると、申請から審査までの待ち期間が2.5カ月(通常9.5ヵ月)と大幅に短縮される。
早期審査の対象となる特許出願は、実施関連出願(商品化、製品化など既に実施している、又は近く実施予定の発明についての出願)などに限定されているが、早期審査請求の場合には、出願人は「先行技術の開示及び対比説明」を記載する欄がある。
早期審査においては、通常の審査のように外注調査はせず、出願人の自主申告の記載と審査官の先行文献調査に基づいて、関連文献が抽出されて特許性が判断されるのが通例である。また、早期審査の場合、一般に公開される前に審査が終了しているのが通常である。そのため、審査段階で、調査で漏れている技術文献を他社が情報提供する機会がないため、第三者のチェックが入らない状況で審査される。したがって、早期審査では、調査不十分の状態で、特許性が判断されるリスクがあると考えられる。
上記以外に、特許審査において先行技術調査の調査対象となるのは、特許文献および科学技術文献に限定されるのが一般的であって、商品化や製品化された実施技術は文献に記載されていないことも多い。こうした実施技術も調査から漏れやすい。
先行技術調査が不適切であったり、発明技術や先行技術の理解が不十分であると、拒絶理由がないと誤って判断されるリスクがあり、「特許査定」を得られても、「無効理由」を抱えた特許権であることが起こり得る。
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(引用文献)
特許・実用新案審査基準 https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/tukujitu_kijun.htm
特許・実用新案審査ハンドブック https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/handbook_shinsa.htm
特許の審査基準のポイント
IPC分類表及び更新情報(日本語版) https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/kokusai_t/ipc8wk.htm
無効審判において新規性なしと判断された事件から考察する精度の高い調査方法
https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201401/jpaapatent201401_043-058.pdf
特許出願の早期審査・早期審理について https://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/souki/v3souki.htm
特許年次報告 特許審査の品質管理の推進
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