特許を巡る争い<5>キッコーマン・野菜エキス特許

キッコーマン株式会社の特許第6244494号は、特定の野菜成分(白菜、タマネギ、キャベツ)からなる、汎用性の高い野菜エキスに関する。異議申立てされたが、野菜成分の種類とそれらの含有量を限定する訂正を行い、権利維持された。

キッコーマン株式会社の特許第6244494号「野菜エキス組成物、調味料及び食品」を取り上げる。

特許第6244494号の特許請求の範囲は、以下の通りである。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6244494/A5F4A52D133B6E7453240FB4A0220CA3)。

【請求項1】

乾燥固形分中に、

白菜成分を22~77質量%、

タマネギ成分を8~60質量%、

キャベツ成分を2~35質量%

含有する野菜エキス組成物。

(請求項2以下は省略)

「野菜エキスは、動物系エキスに比べて旨味などの呈味性が弱く、また、多量に使用すると野菜特有の青臭さや苦み・えぐみなどの好ましくない味が生じることがあるという問題点がある。」

しかし、本発明においては、「野菜エキス組成物を構成する野菜を特定の組み合わせとし、その配合比を特定の範囲にすることで、野菜臭さを抑えつつ、旨味に由来する濃厚感やコクを相乗的に向上できる」ので、「汎用性のある野菜エキス組成物、調味料及び食品を提供」できると書かれている。

公開公報の特許請求の範囲は、以下の通りである。

(特開2019-24410、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H31024410/4A7CC9CD01B735CDAB2F21FA76FCD0D3

【請求項1】

乾燥固形分中に、

白菜成分を22~77質量%、

タマネギ成分を8~60質量%、

キャベツ成分を2~35質量%

含有する野菜エキス組成物。

(請求項2以下は省略)

本特許は、出願と同時に審査請求され、早期審査によって、請求項1は、補正されず、そのまま特許査定されている。

そのため、特許公報の発行日(平成29年12月6日)の方が、公開日(平成31年2月21日)よりも早くなっている。

特許公報発行日の半年後(平成30年6月6日)に、一個人名で異議申立てされた(異議2018-700466)。

審理の結論は、以下の通りである。

特許第6244494号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。

特許第6244494号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

訂正後の特許請求の範囲は、以下の通りである。

【請求項1】

野菜成分が、白菜成分と、タマネギ成分と、キャベツ成分からなり、

乾燥固形分全質量あたり、

白菜成分が30.1~71.9質量%、

タマネギ成分が13.7~50.0質量%、

キャベツ成分が5.6~30.2質量%

である野菜エキス組成物。

(請求項2以下、省略】

野菜エキス組成物に含有される野菜成分の種類が限定され、各野菜成分の含有量の数値範囲も変更されている。

審理では、進歩性、サポート要件および実施可能要件について検討された。

進歩性については、請求項1と甲1発明(特開2001-29042号公報記載の発明)とが対比して検討された。

両者は、「野菜成分が、白菜成分と、タマネギ成分と、キャベツ成分を含む野菜エキス組成物。」の点で一致する。

一方、以下の点で相違するとされた。

(ア)相違点1-1

本特許は、野菜成分が、白菜成分と、タマネギ成分と、キャベツ成分からなるのに対して、甲1発明は、上記以外の成分をも含む点。

(イ)相違点1-2

本特許は、乾燥固形分全質量あたりの各野菜成分の含有量が数値限定されているのに対して、甲1発明は、数値の特定がされていない点。

審判官は、相違点1-2に関して、甲1発明において、

各野菜成分を特定の数値範囲にしようとする動機付けとなる先行技術文献がないこと、

特定の数値範囲にすることによって、所期の効果を奏することができていることから、

本特許発明は、甲1発明から、「当業者が容易に想到し得たことではない」と判断した。

また、サポート要件および実施可能要件については、本発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると判断し、両要件違反はないとした。

その結果、特許異議申立理由によっては本特許を取り消すことはできないし、他に特許を取り消すべき理由を発見しないとして、維持と結論された。