(25)特許性とはなにか? ~新規性、進歩性、産業上の利用可能性~

発明を特許として認めてもらうためには、特許庁の審査を受けなければならない。審査のポイントは、当該発明の新規性と進歩性の有無である。先行技術調査によって見つかった先行技術と、当該発明とを対比することによって、特許性が判断される。

発明が特許として認められるためには、特許庁に特許出願の手続きをし、審査によって、「特許を受けることができる発明」であると判断してもらうことが必要である。

出願した発明の特許性は、まずは、以下の特許要件を満たしているかよって判断される。

(1) 産業上の利用可能性(利用できるかどうか)(特許法第29条第1項柱書)

(2) 新規性(新しいであるかどうか)(特許法第29条第1項)

(3) 進歩性(容易に思いつくものでないかどうか)(特許法第29条第2項)

(4) 先に出願されていないかどうか(特許法第39条及び特許法第29条の2)

産業上の利用可能性の要件は、特許権を取得しようとしているのだから、この要件は当然満たしていると思われるかもしれないが、「特許・実用新案審査基準」に示されている「産業上利用することができる発明」に該当しないものの類型を見れば、この要件を理解しやすい

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0100.pdf)。

「産業上利用することができる発明」に該当しないものの類型例

2.1.1 人間を手術、治療又は診断する方法 「医療行為」

(注)医療機器、医薬自体は、物であり、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当しない。

2.1.3 実際上、明らかに実施できない発明

理論的にはその発明を実施することは可能であっても、その実施が実際上考えられない場合は、「産業上利用することができる発明」に該当しない。

例:オゾン層の減少に伴う紫外線の増加を防ぐために、地球表面全体を紫外線吸収プラスチックフイルムで覆う方法。

「先に出願されていないかどうか」という要件は、「先願主義」のことである。

特許は、先に発明をした者ではなく、先に特許庁に出願した者に特許を与えるという意味で、先に他人に出願されてしまうと特許を受けることができなくなる。

上記要件の(1)と(4)は、特許出願する際の前提条件であって、審査のポイントは、(2)新規性と(3)進歩性になる。

新規性と進歩性の判断の手順は、「特許・実用新案審査基準」に示されている

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/01_0202.pdf)。

出願された技術内容に基づいて調査対象を決めて、先行技術調査を実施する。

先行技術調査の結果を踏まえて、新規性・進歩性の判断を行う。

「新規性」(新しいであるかどうか)は、当該発明と、先行技術とを対比し、両者に相違点がある場合は、新規性を有していると判断し、相違点がない場合は、有していないと判断される(http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0201.pdf)。

具体的に、「国内外において、特許出願前に公然知られた発明、公然実施をされた発明、頒布刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が掲げられている。公知の発明(新規性を有していない発明。「先行技術」)は、特許を受けることができない」と規定されている。

上記の「公然知られた」、「公然実施をされた」、及び「公衆に利用可能となった」における「公然」や「公衆」の指すところは、「一般的に知れ渡った」と同様な意味合いであるが、単純に「一般」と置き換えることはできない。なお、「電気通信回線」は、「インターネット」と置き換えれば理解しやすくなる。

「進歩性」(容易に思いつくものでないかどうか)は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下この部において「当業者」という。) が先行技術に基づいて容易に発明をすることができたときは、その発明(進歩性を有していない発明)について、特許を受けることができない」と規定されている

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0202.pdf)。

その理由として、「すでに知られている発明を少し改良しただけの発明のように、誰でも容易にできる発明については、特許を受けることができません。容易に思いつく発明まで特許が受けられるようになると、日常的に行われている技術的な改良についても次々出願しないと他人に特許をとられてしまうという状況に陥り、支障がでるからです。」と説明されている

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11164811/www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h29_syosinsya/1_2_1.pdf)。

「特許・実用新案審査基準」では、「進歩性」は、「先行技術に基づいて、当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたことの論理の構築(論理付け)ができるか否かを検討することにより行う。」としている。

具体的には、「先行技術の中から、論理付けに最も適した一の引用発明を選んで主引用発明とし、・・・・・・主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否かを判断する。」とし、「発明と主引用発明との間の相違点に関し、進歩性が否定される方向に働く要素に係る諸事情に基づき、他の引用発明(以下この章において「副引用発明」という。)を適用したり、技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを判断する。」と示されている。

「容易に考え付く」とは、「考え付くヒントが明示されている」ということである。

新規性、進歩性とも、その判断には、先行技術調査、及び出願発明と先行技術との対比がポイントになる。

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(引用文献)

平成29年度知的財産権制度説明会(初心者向け)テキスト

第2章 産業財産権の概要 第1 節 特許制度の概要

[3]特許を受けることができる発明とは=特許性

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11164811/www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h29_syosinsya/1_2_1.pdf

特許・実用新案審査基準 III部 特許要件 第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0100.pdf

特許・実用新案審査基準 第I部 審査総論 第 2 章 審査の手順

第 2 節 先行技術調査及び新規性・進歩性等の判断

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/01_0202.pdf

第 2 章 新規性・進歩性(特許法第 29 条第 1 項・第 2 項) 第 1 節 新規性

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0201.pdf

第 2 章 新規性・進歩性(特許法第 29 条第 1 項・第 2 項) 第 2節 進歩性

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0202.pdf

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