(37)異議申立の事例2;ノンアルコール・ビールテイスト飲料特許

早期審査によって特許査定され、その後異議申立てされたが、請求項の訂正を行って請求範囲を狭め、権利維持された事例として、キリン株式会社の特許第5788566号「低アルコールのノンアルコールビールテイスト飲料」がある。

異議申立てされたが、請求項の訂正を行って請求範囲を狭め、権利維持された事例として、キリン株式会社の特許第5788566号「低アルコールのノンアルコールビールテイスト飲料」を取り上げる。

この特許は、平成26年5月30日に出願され、平成26年12月26日に早期審査請求され、以下のように拒絶理由通知されたが、最終的に特許査定されて、平成27年9月30日に特許公報が発行された。

出願審査請求書 平成26年12月26日

拒絶理由通知書  平成27年2月6日

意見書・手続補正書 平成27年4月3日

特許査定        平成27年7月3日

早期審査制度を利用して、短期間で特許査定に至ったため、通常とは出願情報の公開が逆になり、特許公報発行後の平成27年12月17日になって、公開公報が発行されている。

出願内容が非公開のうちに既に審査が完了していたため、第三者が情報提供する機会はなく審査が終了したため、本特許を潰すためには、異議申立てせざるを得ない特許であった。

出願時の請求項1は、以下のようであった。(特開2015-226489公報

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H27226489/34366E97E0C5500EFB41A1AD5CFEB0CB

【請求項1】

pH4.0以下のノンアルコールのビールテイスト飲料であって、

(a)1g/100mL未満の、穀物由来のエキス分、

(b)1.2~2.5g/100mLの食物繊維、および

(c)10~500mg/Lの、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも一種のミネラルを含んでなる、

ビールテイスト飲料。

一方、特許された請求項1は以下のようであって、(c)の各ミネラルの含有量をさらに詳細に数値限定することによって、特許査定された

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5788566/01305B6B99319AA099323E48FBFEA1D5)。

【請求項1】

pH4.0以下のノンアルコールのビールテイスト飲料であって、

(a)1g/100mL未満の、穀物由来のエキス分、

(b)1.2~2.5g/100mLの食物繊維、および

(c)3~500mg/Lの、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも一種のミネラルを含んでなり、以下の条件:

(i)ナトリウムの量が15~250mg/Lである;

(ii)カリウムの量が15~500mg/Lである;

(iii)カルシウムの量が10~350mg/Lである;および

(iv)マグネシウムの量が3~300mg/Lである、

のうちの少なくとも一つの条件を満たし、

さらに、ナトリウムの量の上限値が250mg/Lであり、カリウムの量の上限値が500mg/Lであり、カルシウムの量の上限値が350mg/Lであり、かつ、マグネシウムの量の上限値が300mg/Lである、

ビールテイスト飲料。

特許公報発行後、申立て期限ぎりぎりの平成28年3月29日に一個人から異議申立てされた

異議申立ての審理経過は以下のようであった。

平成28年 3月29日 特許異議申立書

同年 5月25日 取消理由通知書

同年 7月28日 意見書、訂正請求書(特許権者)

同年 9月20日 意見書(特許異議申立人)

同年11月25日 取消理由通知書(決定の予告)

平成29年 1月27日 意見書、訂正請求書(特許権者)

同年 3月 8日 意見書(特許異議申立人)

特許決定公報異議2016-70025

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH28700258/C7C623E4F7692F85E31914CEBD02D970)によれば、

異議申立人は、審査の過程で引用されていない国際公開特許の「ビールテイスト飲料」に関する記載から、容易に思いつく内容であると主張した。

審理の過程で、取消理由が通知されたが、特許権者は、請求範囲を以下のように訂正した。

特許査定された請求項1と比較して、(c)の各ミネラルの含有量の数値範囲が狭められている。

【請求項1】

pH4.0以下のノンアルコールのビールテイスト飲料であって、

(a)1g/100mL未満の、穀物由来のエキス分、

(b)1.2~2.5g/100mLの食物繊維、および

(c)15~500mg/Lの、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびカルシウムからなる群から選択される少なくとも一種のミネラル

を含んでなり、以下の条件:

(ii)カリウムの量が15~300mg/Lである;

を満たし、

さらに、ナトリウムの量の上限値が250mg/Lであり、カリウムの量の上限値が300mg/Lであり、カルシウムの量の上限値が350mg/Lであり、かつ、マグネシウムの量の上限値が300mg/Lである、

ビールテイスト飲料。

(請求項1以外の訂正内容は省略)

審判官は、訂正された数値範囲は、

上記国際公開特許の記載から推定される含有量との一致しているとか、ノンビールテイスト飲料の一般的な数値であるとは認められないこと、および、

国際公開特許には、本特許の数値範囲に調節することの記載はなく、容易に思い付く発明でないと認め、

取消せず、申立てを斥け、訂正された内容で権利維持された。

ノンアルコールビールの特許侵害訴訟としては、サントリーホールディングスとアサヒビールとの争いがよく知られている(特許第5382754「pHを調整した低エキス分のビールテイスト飲料」 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5382754/AE435DB99EFA154EAC3FFFE2EC3FA551)。

この特許も早期審査によって特許査定となった特許だが、アサヒビールによって無効審判請求され(のちに取り下げ)、その後、サントリーは東京地裁に特許権侵害差止請求を提訴した。

東京地裁は、当該特許は進歩性が欠如しており、無効にされるべきものであるとして、サントリーの請求を棄却した(平成27年(ワ)第1025号)。サントリーは、知財高裁に控訴したが、最終的には和解して終結した。

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(引用文献)

特開2015-226489公報

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H27226489/34366E97E0C5500EFB41A1AD5CFEB0CB

特許第5788566号公報

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5788566/01305B6B99319AA099323E48FBFEA1D5

異議2016-700258公報

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH28700258/C7C623E4F7692F85E31914CEBD02D970

平成27年(ワ)第1025号 特許権侵害差止請求事件 判決

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/436/085436_hanrei.pdf

岐阜大学産官学連携推進本部 知的財産部門主催 知的財産セミナー 事例に学ぶ知的財産 「ビールテイスト飲料」特許権侵害差止請求事件

http://www.hiroe.co.jp/ckfinder/userfiles/files/2016_2_12_%E7%9F%A5%E8%B2%A1%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC_%E6%9C%8D%E9%83%A8%E5%85%88%E7%94%9F.pdf

ノンアルコールビール事件に見る特許権侵害事件の裏表

http://www.oric.ne.jp/wp-content/uploads/2017/12/4f3865b8acc254840b49141b2ce06cd9.pdf

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