【13】無効資料調査の前段階(4)潰すべき技術的範囲の特定 ~対比~

無効資料調査は、既に調査が行われた特許についての調査である。
調査を効果的に行うためには、調査を行う前に、邪魔な特許と侵害リスクのある技術(イ号技術)との対比を行い、潰すべき請求項を特定した上で、イ号が抵触しないような形に無効化するための調査戦略を明確し、それから調査に着手する

無効理由のうち、無効資料調査が関係するのは、新規性と進歩性の欠如である。

したがって、無効資料調査のゴール:新規性や進歩性の欠如の証拠となる出願前公知の文献を見つけることになる

(参考 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tokkyo_shinsakijyun_point/01.pdf

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/01_0202.pdf)。

出願前調査であれば、出願する各請求項について、一般的な手法で検索すればよい。

しかし、無効資料調査の場合、既に出願前調査や審査過程での検索で見つかった先行技術文献を回避するように技術的範囲が狭められている請求項に対する調査であり、難易度も高く、費やす労力や費用も大きくなる。

少ない労力・費用で無効資料調査を行うためには、全般的な調査を行うのではなく、調査に着手する前に調査ターゲットを明確にしておき、無駄な検索をしないことが肝要である。

調査ターゲットを明確にするということは、まずは、潰すべき請求項を特定しておくということである。

具体的には、請求項ごとに、潰したい特許の特許請求の範囲と侵害リスクのあるイ号技術との対比を行い、対比結果にもとづいて、調査の対象とする請求項を絞りこむ。

(イ号は、【7】私の考える「邪魔な特許の潰し方」全体像

http://patent.mfworks.info/2018/09/30/post-981/

そした、侵害を回避するために最も効果的と期待される文献記載内容の要件を明確にした上で、検索に着手することである。そうしないと、検索範囲が必要以上に広くなったり、見つかった資料の有効性の判断を見誤る危険性がある。

ここで、「対比」について説明する。

審査基準の「第2節 先行技術調査及び新規性・進歩性等の判断」には、「対比の一般手法」として、「審査官は、認定した請求項に係る発明と、認定した引用発明とを対比する。請求項に係る発明と引用発明との対比は、請求項に係る発明の発明特定事項と、引用発明を文言で表現する場合に必要と認められる事項(以下この章において「引用発明特定事項」という。)との一致点及び相違点を認定してなされる。審査官は、独立した二以上の引用発明を組み合わせて請求項に係る発明と対比してはならない。」と書かれている

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0203bm.pdf 

対比の手順は、以下のようになる。

(1)発明の構成要件(発明特定事項)の特定(分節)

(分節は、【5】特許庁の審査における検索の実例 http://patent.mfworks.info/2018/09/03/post-977/

(2)イ号の特定

(3)各請求項ごとの対比表の作成

(請求項の文言解釈は、

【11】無効資料調査の前段階(3)発明の理解;請求範囲(権利範囲)の画定 その1

http://patent.mfworks.info/2018/11/26/post-1277/

【12】無効資料調査の前段階(3)発明の理解;請求範囲(権利範囲)の画定 その2

http://patent.mfworks.info/2018/12/10/post-1800/

(4)各請求項での構成要件の充足判定

(5)無効資料調査の対象とすべき請求項の特定

優先順位1;全構成要件充足(抵触する)

優先順位2;1つの構成要件不充足だが、充足可能性有り

(非抵触、ただし抵触リスク有)

対比は、判定請求の際の属否判定で行われるものと同じである。

(特許庁の判定制度について http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11051034/www.jpo.go.jp/tetuzuki/sinpan/sinpan2/pdf/hantei2/hantei_all.pdf

知的財産権に関するQ&A(7) 特許法(6)|特許権侵害(主に権利者側)

https://iplaw-net.com/knowledge/ip-qa/2439.html#a54)。

対比の実例を判定請求の事例で見てみよう。

((41)判定請求の事例2;容器詰緑茶飲料特許 http://patent.mfworks.info/2018/06/11/post-818/)。

判定2014-600031は、特許第5439566号『容器詰緑茶飲料』の権利範囲(技術的範囲)にイ号物件(伊右衛門贅沢冷茶)が属しているかどうかの判定を求めたものである。

本特許の請求項1は、以下のように、構成要件(発明特定事項)ごとに、A、B、Cの3つに分説されて記載されている。

【請求項1】

A.茶抽出液中の90積算質量%の粒子径(D90)が3μm~60μmであり、且つ

B.糖酸味度比が0.12~0.43であることを特徴とする、

C.容器詰緑茶飲料。

審理において、イ号(伊右衛門贅沢冷茶)が請求項1の技術的範囲に属するかどうかの判定結果をもとに、対比表を作成してみた。

下表のように、イ号物件は、請求項の構成要件をすべて充足しており、請求項1の権利範囲(技術的範囲)に属する(抵触している)と結論された。

請求項1の構成要件 イ号(伊右衛門贅沢冷茶) 充足
A.粒子径(D90)が3μm~60μm 粒子径(D90)が19μm
B.糖酸味度比が0.12~0.43 糖酸味度比が0.27
C.容器詰緑茶飲料 ペットボトル詰緑茶飲料

(なお、請求項の文言は、一部省略している。)

上記対比表を無効資料調査の観点で見ると、イ号が技術的範囲から除外させられるような資料が見つかればよい。

たとえば、構成要件Aであれば、粒子径19μmを含む範囲が記載された資料が見つかれば、イ号の19μmは公知の技術であるということになる。

この場合、直接の記載はなくとも、計算値での推認や、資料の記載に基づいた追試実験の結果をもとにした無効の主張ができる可能性も視野に入れての調査を考えておきたい。

対比表が記載された例として、以下のような文献がある

無効資料調査(公知例調査) https://www.nihon-ir.jp/patent-invalidity-search/

『研究開発&特許出願活動に役立つ特許情報調査と検索テクニック入門』(野崎篤志、平成27年10月30日発行、一般社団法人発明推進協会)

https://www.gov-book.or.jp/book/detail.php?product_id=299420