(41)判定請求の事例2;容器詰緑茶飲料特許

伊藤園は、自社特許第5439566号「容器詰緑茶飲料及びその製造方法」について、サントリー食品インターナショナルの商品「伊右衛門 贅沢冷茶」の判定請求し、権利範囲に入ると判定された。しかし、サントリーが判定請求後にリニューアルした商品は、権利範囲に属するとはいえないと判定された。

判定請求の2つめの事例として、伊藤園の特許第5439566号「容器詰緑茶飲料及びその製造方法」を紹介する。

なお、伊藤園は、食品企業の中では、自社特許侵害の警告手段として積極的に「判定請求」の制度を利用している点で際立っている。

特許第5439566号は、(40)で紹介した伊藤園特許第5439566号「容器詰果汁含有飲料」と同様に、早期審査制度を利用したが、拒絶査定になった。

伊藤園は、この結果を不服として審判請求し、特許となっている。

出願時の特許請求の範囲は、以下のようであった。

(特開2014-68630公報、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H26068630/9AD827A1F51F050A2F6E87BD6580E408

【請求項1】

茶抽出液中の90積算質量%の粒子径(D90)が3μm~60μmであり、

且つ糖酸味度比が0.12~0.43であることを特徴とする

容器詰緑茶飲料。

(請求項2以下、省略)

一方、特許査定された特許請求の範囲は、以下のようである。

(特許第5439566号公報、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5439566/FF530E2A66EEB80999323E48FBFEA1D5

【請求項1】

茶抽出液中の90積算質量%の粒子径(D90)が3μm~60μmであり、

且つ糖酸味度比が0.12~0.43であることを特徴とする、

容器詰緑茶飲料。

(請求項2以下、省略)

一見すると、両者はまったく同じように見えるが、最後の「容器詰緑茶飲料」の前に「、」があるかないかという違いがある(審査の過程は本題ではないので、ここでは触れない。)

本特許の技術を使用することによって、「冷やして飲用する場合、とりわけ開栓後に時間が経過して液温が上昇してぬるくなった場合であっても、喉越しの良さと味の余韻を備えた容器詰緑茶飲料を提供する」ことができると説明されている。

伊藤園は、サントリー食品インターナショナルの商品「伊右衛門 贅沢冷茶」(https://www.suntory.co.jp/news/2013/11655.html)について、

本特許の権利範囲に入る(技術的範囲に属する)かどうかの判定請求を行った。

判定請求は2回行われた。

1回目(判定2014-600031)は、「伊右衛門 贅沢冷茶」の内容量が2L、550ml、500ml、280mlの4種類についてである。

2014年7月28日に判定請求し、2015年6月4日に確定した

(特許判定公報、判定2014-600031、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH26600031/248E4EC62497B67B5EB8497D7F9AFDA7)。

伊藤園は、「伊右衛門贅沢冷茶550ml 2015.01.10/AJ」の分析値を提出し、特許権利範囲に入ると主張し、特許庁はこの主張を認め、「特許第5439566号の請求項1乃至3、6及び7に係る発明の技術的範囲に属する。」と判定した。

サントリーは、判定請求が確定する前の2015年3月に「伊右衛門贅沢冷茶」のリニューアルを行ったhttps://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/d/sbf0231.html)。

2回目は、2016年8月26日に行われ、「伊右衛門 贅沢冷茶」の内容量500mlについてのみ、伊藤園は判定請求した

(特許判定公報、判定2016-600042、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH28600042/F4E77B871C3DB8FD193A7A8FDDE4E554)。

特許の請求項1の要件「糖酸味度比」は、まず糖類濃度と酸味度を測定し、得られた糖類濃度と酸味度の値をもとに計算して、算出される値である。

伊藤園は、糖類濃度を「サントリー伊右衛門贅沢冷茶500mLペットボトル(2016.01.30/TA)」で分析し、酸性度は別のサンプル「伊右衛門贅沢冷茶500ml(2016.12.31/TA)」の分析値をもとに、算出された比率を根拠に、権利範囲に入ると主張した。

しかし、特許庁は、

「賞味期限からみて両者は製造が1年近くずれている異なるロットにより製造されたものと認められるので、イ号物件(注;対象商品)は製造ロット間でその成分内容に大きなばらつきがあることを否定できない。」

とし、

“2013年3月5日に発売開始され(甲第1号証)、2015年3月24日にリニューアルされた(乙第1号証)「伊右衛門贅沢冷茶500ml」は、その製品全般として、一製品である「伊右衛門贅沢冷茶500ml 2016.12.31/TA」と同じ成分内容を有しているものということができない。

そして、請求人は、一製品である「伊右衛門贅沢冷茶500ml 2016.12.31/TA」以外の製造ロットの製品が全て本件特許発明の技術的範囲に属することについて具体的根拠を示していない。

よって、請求人のイ号物件の一製品である「伊右衛門贅沢冷茶500ml 2016.12.31/TA」での測定値のみからは、イ号物件である「伊右衛門贅沢冷茶500ml」は、その製品全般として、本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。

と判定した。

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特開2014-68630公報 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H26068630/9AD827A1F51F050A2F6E87BD6580E408

特許第5439566号公報

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5439566/FF530E2A66EEB80999323E48FBFEA1D5

特許判定公報【判定請求番号】判定2014-600031

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH26600031/248E4EC62497B67B5EB8497D7F9AFDA7

特許判定公報【判定請求番号】判定2016-600042

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH28600042/F4E77B871C3DB8FD193A7A8FDDE4E554

サントリー緑茶「伊右衛門 贅沢冷茶」新発売

https://www.suntory.co.jp/news/2013/11655.html

サントリー緑茶「伊右衛門 贅沢冷茶」リニューアル 「同 春ほうじ茶」季節限定新発売

https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/d/sbf0231.html

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