特許を巡る争い<122>ハウス食品株式会社・電子レンジ用とろみ付与組成物

特許権、不安定さが内在する権利

特許第第7502005号は、電子レンジで調理しても、溶け残りなく十分なとろみを有するスープを得ることができる組成物に関する。新規性・進歩性の欠如、サポート要件違反の理由で異議申し立てされたが、いずれの理由も認められず、そのまま権利維持された。

ハウス食品の特許第7502005号“電子レンジ調理用組成物”を取り上げる。

特許第7502005号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下であるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7502005/15/ja)。

【請求項1】

増粘多糖類と、

油脂と、

を含み、

前記増粘多糖類が、キサンタンガム、ウェランガム、グアガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、カラギーナン、及びローカストビーンガムからなる群から選択される少なくとも一種であり、

前記増粘多糖類の含有量が、0.5~5.0質量%であり、

前記油脂の含有量が、前記増粘多糖類1質量部に対して、1~100質量部である、電子レンジ調理用固体状組成物。

【請求項2】~【請求項10】省略

 

本特許明細書には、“ 電子レンジを用いてとろみを有するスープを得ることができれば、便利である。しかしながら、本発明者らの知見によれば、単に鍋やフライパンに代えて電子レンジを用いた場合には、十分なとろみを得ることができないか、あるいは、加熱調理後に溶け残りが生じてしまう”という問題を解決すること、すなわち 本発明の課題は、溶け残りなく十分なとろみを有するスープを得ることができる、電子レンジ調理用組成物を提供することにある“と記載されている。

そして、“  本発明者らは、増粘多糖類と、油脂とを含む組成物を用いることで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明に至った”と記載されている。

 

本特許の公開公報に記載されている特許請求の範囲は、以下である(特開2021-23153、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-023153/11/ja)。

【請求項1】

増粘多糖類と、

油脂と、

を含む、電子レンジ調理用組成物。

【請求項2】~【請求項10】省略

 

請求項1については、増粘多糖類の種類及び組成物中の含有量を数値限定することによって、特許査定を受けている。

 

特許公報が2024年6月18日に発行され、6か月後の2024年12月17日に一個人名で異議申立てがされた(異議2024-701205、 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2019-141345/10/ja)。

 

審理の結論は、以下のようであった。

“特許第7502005号の請求項1~10に係る特許を維持する。”

 

異議申立人が特許異議申立書に記載した特許異議申立理由は、以下に4項目であった。

(1)“申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)

本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であ“る。

甲第1号証:特開平10-75号公報 “電子レンジ調理用ルウ食品及び該ルウ食品を用いた食品の調理方法”

(2)“申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)

本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであ“る。

(3 )“ 申立理由3(甲第3号証に基づく進歩性)

本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであ“る。

甲第3号証:特開2012-170403号公報“「凍結乾燥カレー及びその製造方法」”

(4)“申立理由4(サポート要件)

本件特許の請求項1~10に係る特許は、以下のとおり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである“。

具体的には、以下のような主張であった。

“本件特許発明1は、特定の増粘多糖類と油脂を所定量含む固形状組成物であるのに対して、本件発明の課題が解決できることが本件明細書に記載されているのは、さらにデキストリンを多量に含むものだけである。”

“したがって、デキストリンを含むことが特定されていない本件特許発明1~10は、本件明細書にその課題を解決できることが記載されておらず、また、本件出願時の技術常識を参酌してもその課題を解決できることを当業者が認識できるように本件明細書に記載されていないから、サポート要件を満たさない。

 

以下、本特許請求項1に係る発明(本件発明1)に絞って、審理結果を紹介する。

(1)申立理由1及び(2)申立理由2(甲1に基づく新規性・進歩性)についての審理

審判官は、甲第1号証(甲1)には、以下の“甲1発明”が記載されていると認めた。

“<甲1発明>

「生及び/又は茹でた具材と一緒に用いて電子レンジで加熱調理するためのルウ食品であって、香味成分を溶解した油脂相中に、調味料と増粘剤が分散していて、液状、ペースト状、粉末又は顆粒の形態にある電子レンジ調理用ルウ食品。」“

そして、 本件特許発明1と甲1発明とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

“<一致点>「油脂を含む、電子レンジ調理用固体状組成物。」”

“ <相違点1-1>  増粘剤について、本件特許発明1は「増粘多糖類」であり、「前記増粘多糖類が、キサンタンガム、ウェランガム、グアガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、カラギーナン、及びローカストビーンガムからなる群から選択される少なくとも一種」であることが特定されているのに対し、甲1発明の「増粘剤」は、そのようには特定されていない点。”

<相違点1-2>  省略

審判官は、 相違点1-1について以下のように判断した。

・“ 甲1発明における「増粘剤」として、キサンタンガム、ウェランガム、グアガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、カラギーナン、及びローカストビーンガムからなる群から選択される少なくとも一種からなる増粘多糖類を用いることは記載されていないから、上記相違点1-1は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲1発明ではない。

甲1の明細書には、“多数の増粘剤が例示されているものの、その中から、キサンタンガム、グアガム及びローカストビーンガムの少なくとも一種からなる増粘剤を積極的に採用する動機付けとなる記載はない。

・“本件特許発明1は、数ある増粘剤の中でも特にキサンタンガム等の増粘多糖類を用いることによって、「溶け残りなく十分なとろみを有するスープを得ることができる、電子レンジ調理用組成物を提供する」という効果を得るものであるが、そのような効果は、甲1及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。

したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

特許異議申立人は、上記相違点1-1について、“甲1発明は、本件特許発明1の上位概念で発明を表現したものである“と主張するが、甲1の明細書には、”極めて広範囲な増粘剤が例示されており、甲1発明の増粘剤として、キサンタンガム等の本件特許発明1で用いる増粘多糖類が導き出せるとはいえない“し、”例示された多数の増粘剤の中から、ガム質の増粘剤を選択する動機付けとなる記載や実施例もない“などから、”ガム質の増粘剤を積極的に採用する示唆や動機付けとなる記載はない。“

“そうすると、甲1発明が、ガム質の増粘剤を含む上位概念で表現された発明であっても、キサンタンガム等の増粘多糖類が記載されているとはいえないし、数ある増粘剤の中からガム質を選択することは当業者にとって容易とは言えず、また、ガム質の増粘剤を選択することによって得られる上記効果を予測できるとはいえない。したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

 

審判官は、以上の理由で、“他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない”と結論した。

 

(3) 申立理由3(甲3に基づく進歩性)についての審理

審判官は、甲第3号証( 甲3)には、以下の“甲3発明”が記載されていると認めた。

<甲3発明>

ラード4重量部を100℃まで加熱し、カレー粉2.0重量部を加えて120℃まで加熱し、さらに、砂糖3重量部、食塩0.5重量部、カラメル色素0.2重量部、香辛料0.2重量部を加えて撹拌を行い、カレールウとし、こうして得たカレールウを100℃以下まで降温させた後、チキンエキス1重量部、カツオエキス1重量部、野菜ペースト21.6重量部(生姜ペースト2.0重量部、にんにくペースト0.6重量部、トマトペースト5.0重量部、オニオンペーストA7.0重量部、オニオンペーストB7.0重量部)、10mm×10mmにカット後90℃2分間のボイル処理を行った玉ねぎ28.0重量部、さらに、トータルで100重量部となるように水を加えて、90℃達温まで加熱撹拌を行い、作製したカレーソース1を、5cm×5cm×2cmのプラスチックトレーに充填を行い、-20℃の冷凍庫に48時間保管して、完全に凍結させ、その後、東洋製作所の凍結真空乾燥機VF-350を用いて乾燥を行い、凍結真空乾燥カレーを得、表1の実施例2の添加剤を含浸させる事で作製したものであって、熱湯130ccで湯戻し後、即座に28℃まで冷却する、カレーサンプル。【表1】(省略)」

そして、本件特許発明1と甲3発明とを対比し、以下の一致点及び相違点を認めた。

<一致点>「増粘多糖類と、油脂と、を含み、前記増粘多糖類が、キサンタンガム、ウェランガム、グアガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、カラギーナン、及びローカストビーンガムからなる群から選択される少なくとも一種であり、前記増粘多糖類の含有量が、0.5~5.0質量%であり、前記油脂の含有量が、前記増粘多糖類1質量部に対して、1~100質量部である、固体組成物。」

<相違点3>「固体組成物」について、本件特許発明1では「電子レンジ調理用」であることが特定されているのに対し、甲3発明では、そのようには特定されていない点。

審判官は、相違点3について以下のように判断した。

甲3発明は、“湯戻し調理することを前提とした発明であると認められ”、また、“甲3及び他の証拠には、甲3発明の湯戻し調理に代えて電子レンジ調理とすることを示唆した記載や動機付けとなる記載はない。

・本件特許の先行技術文献を参照すると、“本件特許の出願時において、固形ルウを湯戻しではなく電子レンジ調理した際には食味が劣ることが当業者に知られていたと認められるところ、本件特許発明1は、「溶け残りなく十分なとろみを有するスープを得ることができる”という“効果を得るものであり、そのような効果は、甲3及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。したがって、甲3発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。”

特許異議申立人は、“上記相違点3について、「本件出願前に、凍結乾燥食品をお湯で戻す際に電子レンジ調理することは必要に応じて適宜行われており、また、甲第3号証の記載から電子レンジ調理する阻害要因もみいだせないから、上記相違点は、当業者が必要に応じて適宜なし得たことにすぎない。」”と主張するが、“甲3発明の湯戻し調理に代えて電子レンジ調理とすることの動機付けが見出せないし、また、その際に本件特許発明と同様の効果が得られるという証拠を示すものでもない。したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。”

 

以上から、審判官は、“本件特許発明1は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない”と結論した。

 

(4)サポート要件についての審理

審判官は、サポート要件について、本特許明細書には、電子レンジ調理用組成物の組成や形状、多糖類の種類と含有量を特定範囲内とすることで、多くの食品においてふさわしい程度のとろみをスープに付与することができることが記載され、組成物の製造方法が記載され、また実施例が記載されており、“これらの記載に接した当業者であれば”、本件特許組成物が“本件発明の課題が解決できると認識できる”と判断した。

特許異議申立人の“デキストリンが含まれることが特定されていない本件特許発明1~10は、本件発明の課題を解決できると認識できるものではない旨”の主張に対しては、“本件特許の明細書全体の記載を参酌すれば”、“発明の詳細な説明において好ましいとされている本件特許発明の数値範囲を満たす電子レンジ調理用固体状組成物であれば、本件発明の課題を解決できると認識できるものであるといえる”し、特許異議申立人の主張は、“具体的な証拠を示すものでもないから”、“特許異議申立人の主張はいずれも採用できない“と判断した。

審判官は、以上の理由から、本件特許発明1は、“発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する”と結論した。

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました