日東富士製粉株式会社の特許第6915975号は、ハンバーグなどの肉製品の臭みを、小麦フスマ加熱処理物を含有させて、低減する方法に関する。進歩性欠如及びサポート要件違反の理由で異議申立てされたが、いずれの理由も認められず、権利維持された。
日東富士製粉株式会社の特許第6915975号 “肉製品、肉製品の臭みの低減方法、及び肉製品の臭みの低減剤”を取り上げる。
特許第6915975号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6915975/5FCC2EBDFAE956C65F30FA8849C0FE76F82AAA8C69BA6D20D5F2E183A5AC680A/15/ja)。
【請求項1】平均粒径100μm未満とされた小麦フスマの湿式加熱処理物を含有することを特徴とする肉製品。
【請求項2】~【請求項8】 省略
本特許発明について、“従来、ソーセージ、ハンバーグ、チキンナゲット等の畜肉製品や、魚肉すり身製品などにおいては、原料肉に直接的に起因して、あるいはときにはその原料肉といっしょに配合された増量剤や乳化剤等の呈味も相まみえて、消費者に好まれない不快な臭みを呈する場合があり”、本特許発明の解決すべき技術課題は、“肉製品に特有の臭みを低減する技術を提供する”ことと本特許明細書に記載されている。
そして、“上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意研究したところ、小麦フスマの加熱処理物に肉製品の臭みを低減する作用効果があることを見出し、本発明を完成するに至った”と記載されている。
”小麦フスマ”とは、”小麦の製粉工程で取り除かれる「小麦の皮」の部分を「ふすま」といい、この部分はお米でいうと「米ぬか」に相当”するものとされている(木下製粉株式会社 https://www.flour.co.jp/knowledge/brour/)。
そのため、本特許明細書には、“小麦フスマ”は、“小麦粉の製粉工程で副産物として生じるので、そのような小麦フスマを比較的安価に入手することが可能である”と記載されている。
本発明に用いる“小麦フスマ”について、“ 後述の実施例で示されるように、小麦フスマに加熱処理を施さずに肉製品に配合してもその肉製品の臭みを低減する作用効果に乏しいが、上記のように小麦フスマに加熱処理が施されていることによって、肉製品に配合したときに、その肉製品の臭みを低減する作用効果が奏されるようになる”と記載されている。
また、本発明が適用される肉製品とは、“畜肉、鶏肉、魚肉、又はそれらの加工品を含むもの全般を意味”すると記載されており、ハンバーグなどが例示されている。
公開特許公報(特開2018-50568)に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである(
【請求項1】小麦フスマの加熱処理物を含有することを特徴とする肉製品。
【請求項2】~【請求項14】 省略
請求項1について、特許公報に記載された請求項1と比較すると、加熱処理物が、湿式加熱処理物に限定され、加熱処理物の平均粒径が数値限定されており、この補正によって、特許査定を受けている。
特許公報発行日(2021/08/11) のほぼ半年後 (2022/02/09) 、一個人名で異議申し立てがなされた。
審理の結論は、以下のようであった(異議2022-700107
“特許第6915975号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。”
異議申立人が申し立てた異議申立理由は、以下の2つであった。
(1)進歩性欠如
“本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであ”る。
甲第1号証:特開昭55-61781号公報
(2)サポート要件違反
“本件特許発明1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである“。
以下、本特許請求項1に係る発明(本件特許発明1)に絞って、審理結果を紹介する。
(1)進歩性欠如についての審理
審判官は、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明(甲1肉類発明)とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。
一致点:“「穀類の加熱処理物を含有する肉製品」”
相違点1:省略
相違点2:“穀類の加熱処理物について、本件特許発明1は「平均粒径が100μm未満」と特定されるのに対して、甲1肉類発明においては粒径が特定されていない点。”
相違点2について、審判官は以下のように判断した。
・“甲第2号証ないし甲第5号証には、小麦フスマを加熱したものを用いること、およびその粒径についての記載があるものの、いずれも食物繊維の強化や風味・食感の改善を目的とする発明を開示するものであり、肉製品(肉類)の臭みに着目するものではない。”
・“してみると、肉類の臭気を改善することを目的とする甲1肉類発明において、甲第2号証ないし甲第5号証に記載されているような小麦フスマを加熱したものの粒径を採用する動機付けがあるとはいえない。”
・本件特許発明1は、“平均粒径が100μm未満との条件を満たすことにより、大きな平均粒径のものに比して、肉の臭みを改善するとの格別の効果を奏するものである。”
上記の理由から、審判官は、
“甲1肉類発明において、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たものであるということができない。
したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1肉類発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。“
と結論した。
(2)サポート要件違反についての審理
異議申立人が主張したサポート要件違反の具体的な理由は、以下の2点(a、b)であった。
a.「小麦フスマの湿式加熱処理物」について
・本特許明細書には、“「加熱処理の方法に特に制限はなく、公知の方法を採用し得る」旨記載されている。”また、甲第2ないし5号証には、“小麦フスマの湿式加熱処理として種々の態様のものが記載されている。”
・“このように、本件特許発明で採用可能な小麦フスマの湿式加熱処理方法は多数存在するにもかかわらず、本件特許明細書において実施例として具体的に記載されている湿式加熱処理方法は、調製例5、6で採用されているレトルト処理のみである。”
・“小麦フスマに加えられる水分の量、加熱温度や加熱時間等の湿式加熱処理方法の条件が異なれば、得られる小麦フスマの湿式加熱処理物どうしが異なり得ることは技術常識である。”
・“したがって、調製例5、6で採用された小麦フスマのレトルト処理物以外の「小麦フスマの湿式加熱処理物」を包含する本件特許発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。”
b.「平均粒径100μm未満」について
・“「平均粒径100μm未満」に関し、本件特許明細書において実施例として具体的に記載されているのは、調製例5で採用されている小麦フスマの平均粒径27μmと、調製例6で採用されている小麦フスマの平均粒径32μmとの2種類のみである”。
・“湿式加熱処理対象である小麦フスマの大きさ(平均粒径)が異なれば、加熱処理条件が同じでも、得られる湿式加熱処理物が異なり得ることは技術常識であるから、
例えば、平均粒径32μmを大きく上回る平均粒径100μm近傍の範囲を包含する本件特許発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。”
異議申立人の上記主張に対する審判官の判断は、以下のようであった。
・“本件特許発明の課題は、「小麦フスマを利用して肉製品の臭みを低減する技術を提供すること」(【0008】)であるといえる。”
・“本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、
「本発明に使用する小麦フスマは、加熱処理されているものである必要がある」(【0031】)こと、
「小麦フスマに加熱処理が施されていることによって、肉製品に配合したときに、その肉製品の臭みを低減する作用効果が奏されるようになる」(【0032】)こと、
「本発明に使用する小麦フスマは、上記のような加熱処理が施されていると共に、所定粒度に調製されていることが好ましい。
具体的には、平均粒径100μm未満であることが・・・好ましい。・・・(中略)・・・、
試験例2の結果からも、小麦フスマ素材の平均粒径と肉の臭みの関係として、小麦フスマ素材の平均粒径が小さい方が肉製品の臭みを低減する作用効果が強いことが認識できる。“
・“以上の記載をふまえると、当業者であれば、小麦フスマを「加熱処理」したものであって(決定注:乾式加熱処理か湿式加熱処理かは関係がない。)、「平均粒径が100μm未満」のものを用いることにより、「肉製品の臭みを低減する」、すなわち、本件特許発明の課題を解決すると認識できる。”
・“本件特許発明1、4、8はいずれも、小麦フスマを「湿式加熱処理」したものであって、「平均粒径が100μm未満」との特定事項を有するから、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。”
上記した理由から、審判官は、“申立理由2は、その理由がない”と結論した。