味の素株式会社の特許第670518号は、ジャガイモなどの高炭水化物含量の野菜を含む冷凍食品の加熱解凍調理後の外観や食感の向上に関する。3件の異議申立がなされたが、冷凍食品を、揚げ物料理に限定することによって、権利維持された。
味の素株式会社の特許第670518号 “高炭水化物含量の野菜を含む冷凍食品”を取り上げる。
特許第670518号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6705183/F21C4B32285F35991D73C3A40A7079BF304467D782253CD030112C62B6B32B01/15/ja)。
【請求項1】
冷凍された下記(A)~(C)を含有し、
(C)の量が(A)及び(B)に対して1.5重量倍以下である冷凍食品。
(A)糊化度が15~70%となるように加工された、炭水化物含量10~30%の野菜
(B)可食状態の固形具材(但し、炭水化物含量10~30%の野菜を除く)
(C)水性液体
【請求項2】~【請求項13】省略
本特許明細書には、“炭水化物含量10~30%の野菜”として、“ジャガイモ、カボチャ、ソラマメ及びサトイモ”が例示されており(請求項6、請求項12)、これらの野菜の炭水化物含量について、“乾燥条件下での加熱により容易に糊化させることが出来ることから、好ましくは10~25%である”と記載されている。
“糊化度”について、“本発明において野菜の「糊化度」とは、野菜に含まれるデンプンがα化デンプンに変化した割合をいい、βアミラーゼ・プルラナーゼ法(以下、「BAP法」と称する場合がある)により測定することができる”と記載されている。
なお、”糊化度”に関する文献(https://www.jfrl.or.jp/storage/file/sugar_007.pdf)には、“糊化(α化)とはデンプンを水と加熱することで,デンプン分子が規則性を失い,糊状(α状)になることです。身近な例で言うと,炊き立てのご飯がまさに,デンプンが糊状になっている状態です”と説明されている。
糊化度が15~70%となるような“加工方法”について、“野菜を、焼く、炒める、煮る、茹でる、揚げる、蒸す、マイクロウェーブ加熱、過熱水蒸気加熱及びオーブン加熱のいずれか一種以上の加熱処理に供する等の方法が挙げられる”と記載されている。
“固形具材”とは、“野菜(A)以外の、常温(例、15~25℃)において一定の形状を保持し得、過度に加熱されることにより焦げ及び/又は萎れが発生する食用具材であって、可食状態であるものであれば特に制限されない”と記載されており、“可食状態の畜肉(例、豚肉、牛肉等)、可食状態の家禽肉(例、鶏肉、鴨肉等)、可食状態の魚介類(例、魚、エビ、イカ等)”が例示されている。
また、“水性液体”として、“水、醤油、食酢、アルコール、みりん、果汁等の水性成分”が例示されている。
本特許発明を用いることによって、
“加熱して解凍・調理された際に、野菜の形状が崩れることなく、野菜のホクホク又はネットリとした食感が向上し、且つ保存性に優れ、更に、固形具材が焦げたり、萎れたりすることがない冷凍食品を提供できる”
と記載されている。
冷凍食品として、“煮物料理、サラダ、グラタン、汁物料理、焼き物料理及び揚げ物料理”が例示されている(請求項7、請求項13)。
公開公報の特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2016-189771、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-189771/F21C4B32285F35991D73C3A40A7079BF304467D782253CD030112C62B6B32B01/11/ja)。
【請求項1】
冷凍された下記(A)~(C)を含有し、
(C)の量が(A)及び(B)に対して1.5重量倍以下である冷凍食品。
(A)糊化度が15~70%となるように加工された、炭水化物含量10~30%の野菜
(B)可食状態の固形具材(但し、炭水化物含量10~30%の野菜を除く)
(C)水性液体
【請求項2】~【請求項13】省略
特許公報に記載された請求項1は、公開公報に記載された請求項1と同一である。
登録公報の発行日(2020年6月3日)の約半年後、3件の異議申立てがなされた(特許異議申立人A 申立日2020年11月30日、異議申立人B 申立日2020年12月1日、異議申立人C 申立日2020年12月2日)。
異議申立理由は、新規性欠如、進歩性欠如及び記載不備であった。
異議申立を受けて審理がなされた結果、2021年2月26日付けで取消理由通知が出された。
取消理由は、以下のようであった。
理由1(新規性欠如):“本件発明1~3、6~9、12、13は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1に記載された発明”である。
理由2(進歩性欠如):“本件発明1~13は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1~3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたもの”である。
引用された刊行物は、以下であった。
“刊行物1:特開2007-181422号公報(特許異議申立人A~Cが提示した、それぞれ、甲A2、甲B1、甲C1。)
刊行物2:特開2013-132287号公報(特許異議申立人B、Cが提示した、それぞれ、甲B5、甲C4。)
刊行物3:特開平8-98669号公報(特許異議申立人Bが提示した、甲B2。)“
特許権者は、取消理由通知に対して、訂正請求したが、訂正した特許請求の範囲に対しても、2021年7月30日付けで、取消理由通知が出された。
取消理由は、以下のようであった。
理由1(新規性欠如):“令和3年4月21日付けの訂正請求書により訂正された本件の請求項1~3、6~9、12、13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1に記載された発明”である。
理由2(進歩性欠如):“令和3年4月21日付けの訂正請求書により訂正された本件の請求項1~13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1~3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたもの”である。
この取消理由通知に対して、特許権者は、意見書と訂正請求書を提出した。
訂正後の特許請求の範囲は、以下の通りである。
【請求項1】
冷凍された下記(A)~(C)を含有し、
(C)の量が(A)及び(B)に対して1.5重量倍以下である冷凍食品であって、
冷凍食品から製造される食品が、揚げ物料理である、冷凍食品。
(A)糊化度が15~70%となるように加工された、炭水化物含量10~30%の野菜
(B)可食状態の固形具材(但し、炭水化物含量10~30%の野菜を除く)
(C)水性液体
【請求項2】~【請求項6】省略
【請求項7】 (削除)
【請求項8】~【請求項12】 省略
【請求項13】 (削除)
請求項1についてみると、“冷凍食品”が“揚げ物料理に”と限定されている。
上記訂正請求に対する審理の結論は、以下のようであった(異議2020-700924
“特許第6705183号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-13〕について訂正することを認める。
特許第6705183号の請求項1ないし6、8ないし12に係る特許を維持する。
特許第6705183号の請求項7、13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。“
以下、請求項1に係る発明(本件発明1)に絞って、審理結果を紹介する。
拒絶理由通知で引用された刊行物1は、特開2007-181422号公報“冷凍惣菜”(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2007-181422/C75F0E884E711B3E9613ABA8570E7E52E5D24CAAAFD14C4562CD06B74C90BB15/11/ja)である。
審判官は、刊行物1に記載された発明として、冷凍した肉じゃがの実施例(刊行物1発明1及び刊行物1発明3)並びに冷凍したクリームシチューの実施例(刊行物1発明5)を認めた。
そして、本件発明1と刊行物1発明1、発明3及び発明5とを対比して、以下の点で一致すると判断した。
“冷凍された下記(A)~(C)を含有する冷凍食品。
(A)加工された、炭水化物含量10~30%の野菜
(B)固形具材(但し、炭水化物含量10~30%の野菜を除く)
(C)水性液体」である点“
一方、本件発明1と刊行物1発明1とは、以下の4点で相違すると判断した。
<相違点1-11-1> 省略
<相違点1-11-2> 省略
<相違点1-11-3> 省略
<相違点1-11-4> 本件発明1は「冷凍食品から製造される食品が、揚げ物料理である」と特定しているのに対し、刊行物1発明1はそのような特定をしていない点。
上記相違点1-11-4について、審判官は、以下のように結論した。
“刊行物1発明1は、冷凍した肉じゃがに関するものであるところ、当該冷凍した肉じゃがから、揚げ物料理を製造することは刊行物1に記載されておらず、記載されているに等しい事項ということもできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1に記載された発明であるということはできない。“
“また、肉じゃがは煮物料理であるといえるところ、刊行物1~3の記載事項及び技術常識を考慮しても、冷凍した煮物料理である、冷凍した肉じゃがから、揚げ物料理を製造することが当業者が容易になし得た事項であるということはできない。”
“したがって、他の相違点及び本件発明1が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1~3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。”
刊行物1発明3及び刊行物1発明5との対比においても、
“本件発明1は「冷凍食品から製造される食品が、揚げ物料理である」と特定しているのに対し”、刊行物1発明3及び刊行物1発明5は”そのような特定をしていない点で相違”すると判断した。
そして、刊行物1発明1との対比の場合と同様な理由で、本件発明1と刊行物1発明3及び刊行物1発明5とは相違し、“本件発明1は刊行物1~3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない”として、理由1(新規性欠如)及び2(進歩性欠如)は理由がないと結論した。