無効資料調査を着手する前に、「邪魔な特許」対応するための必要なスピードやレベルを決めておく必要があるが、それには、特許実務から見た無効化の難易度の判断に加え、事業上の”喫緊性”の判断が重要である。
無効資料調査を着手する前に、「邪魔な特許」に対応するための必要なスピードやレベルを決めておく必要がある。それには、特許実務の観点とともに、事業の観点からの検討が重要になってくる。
対応スピードとは、特許実務の観点からも大切なことであるが、「邪魔な特許」の無効化が事業にとってどの程度”喫緊”な課題かどうかの方が、より重要である。
また、対応レベルは、権利範囲を事業に影響が出ない範囲まで狭めることができそうかどうか、無効化の”難易度”の判断によって決まってくる。
(1)喫緊な課題かどうか?
特許実務からは、”【9】無効資料調査の前段階(1)その時点で有効な特許請求の範囲の確認”(https://patent.mfworks.info/2018/10/28/post-1275/)で説明したような法的状況の調査によって、急いで対応すべきかどうか、どれだけ時間的余裕があるかを見積もりことができる。
【9】で述べた以外にも、たとえば、審査請求されている場合には、「特許審査着手見通し時期照会について」(https://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/search_top.htm)でおおよその審査時期を調べることも必要である。
しかし、現実には、事業への悪影響がどの程度であるかの方が重要である。
影響を受ける商品の売上規模や市場占有率が大きい場合や、売上規模が小さくても事業上の戦略的な商品であれば、急いで対応しなければならない。
逆に、売上実績の小さな商品や終売する予定の商品であれば、審査中の場合、経過観察するだけで済ませるか、あるいは特に何も対応しないという判断もあり得る。
発売が近い商品と、企画段階の商品によっても、緊急性は変わってくる。また、特許権者(出願人)が競合他社かどうかも影響する。
「邪魔な特許」が事業に与えるインパクトの大きさによって、対応スピードが決まってくる。
(2)どこまで潰すことができれば成功か?
もう一つは、「無効化」の難易度である。
もちろん、無効資料調査を行なわなければ、結論は出せないが、無効化資料調査には時間と費用がかかる。
ここで言う「難易度」とは、無効化しなければならない範囲がどの程度あるかというの意味である。
”【13】無効資料調査の前段階(4)潰すべき技術的範囲の特定 ~対比~”(https://patent.mfworks.info/2018/12/23/post-1279/)で説明した、特許発明とイ号(対象商品、対象技術)との対比、対比に基づく属否判断によって「潰すべき請求項の特定」を行う。
対比の結果を受けて、抵触可能性のある請求項がいくつあるか、抵触可能性のある請求項を構成する要件をどの程度充足しているか、を明確にする。
主請求項のみ抵触している場合と、従属項にも抵触している場合とでは、当然、無効資料調査のボリウムが違っている。
従属項に抵触している場合には、主請求項のみの場合と比較して、当然、発明の構成要件(発明特定事項)の数が多くなる。そうなると、すべての構成要件を充足するような先行文献を見つけられる可能性は低くる。
無効資料調査の目的は、事業上の特許的障害を取り除くことである。
”【13】無効資料調査の前段階(4)潰すべき技術的範囲の特定 ~対比~”で説明したように、請求項を全部無効としなければならないのか、一部無効でよいのかをはっきりすることによって、無効資料調査のゴールが設定できるし、調査にかかる期間・費用をより正確に見積もることができる。また、ゴールを設定することによって、対応レベルが決まってくるし、調査目的を達せられたかどうかも明確になる。
なお、「難易度」の評価に、”【10】無効資料調査の前段階(2)審査書類や審判書類の入手”(https://patent.mfworks.info/2018/11/11/post-1606/)で説明した審査経過や審判経過の情報を考慮すれば、調査の作業ボリウムを、より精度高く見積もりことができる。
また、無効化には、無効資料調査に加えて、異議申立や無効審判などの法的アクションが必要になるが、それに要する期間と費用を見込んでおく必要がある。
上記の(1)の検討によって、「邪魔な特許」の事業に対するインパクトを緊急性と金額面で見積もり、一方、上記の(2)の検討によって、無効化に要する期間と費用を見積もる。
事業に対する影響の程度と比較して、無効化の費用が大きすぎるようであれば、費用削減や、技術的に回避できるかどうかも検討していくことになる。