特許を巡る争い<99>小川香料・シソ風味香料特許

小川香料株式会社の特許第7062828号は、香料のシソ風味を増強するために特定化合物を含有させることを特徴とする。新規性及び進歩性の欠如の理由で異議申立てられ、取消理由通知されたが、除くクレーム形式にする訂正を行い、権利維持された。

小川香料株式会社の特許第7062828号“シソ風味香料組成物”を取り上げる。

特許第7062828号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下であるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-7062828/E457BAE503D8FAF924F0FC38790C5BD508EEDCE15EA45FDF7B1F7EC59FA2AB0E/15/ja)。

【請求項1】ペリラアルデヒド及び1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有することを特徴とする、シソ風味香料組成物。

【請求項2】~【請求項8】省略

本特許明細書には、本特許発明は、“シソ風味香料組成物及び当該香料組成物を含有する経口組成物に関”し、本特許発明の目的は、“シソ精油の配合量を削減したシソ風味香料組成物においても、十分な量のシソ精油を配合した従来のシソ風味香料組成物と同等のシソ風味を飲食品等に付与できるシソ風味香料組成物を提供することである”と記載されている。

また、“シソ“について、”アジアを原産とする一年草で、日本では古くから食材として用いられている。シソは、葉及び花穂に精油成分が存在し、水蒸気蒸留等により得られる精油や抽出物が、香料原料として飲食品や口腔ケア製品等に用いられている“と記載されている。

そして、“シソ精油は、ペリラアルデヒドを主成分とし、モノテルペン系炭化水素やモノテルペン系アルコールなどの多数の香気成分を含有する(非特許文献1)。このようなシソ精油に含まれている香気成分を主体に各種合成香料や天然香料を組み合わせることによって、シソ精油の配合量を削減したシソ香料や、シソ精油を含まないシソ香料も用いられている。しかし、十分な量のシソ精油を配合したシソ香料に比べると風味のボリュームが不足し、シソ香料として十分な効果が得られない場合が多い”と記載されている。

上記問題を解決するため、“本発明者らは、シソ香料にはこれまで使用されることがなかった1,2-ジヒドロペリラアルデヒドをシソ風味香料組成物に添加したところ、シソ本来の風味が増強されることを見出した。さらにシソ精油の配合量を削減したシソ風味香料組成物に1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを添加した場合も、シソ本来の風味が増強され、十分な量のシソ精油を配合したシソ風味香料組成物と同等又はそれ以上のシソ風味を有する香料組成物が得られることを見出し、本発明を完成した”と記載されている。

本特許は、2021年11月17日に特許出願され、2021年11月17日の早期審査請求され、2022年4月12日に特許査定を受けている。

このため、特許公報の発行(発行日2022年5月6日)の後に、公開されている(公開日2022年5月29日)。

公開公報に記載されている特許請求の範囲は、以下である(特開2023-74367、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2023-074367/E457BAE503D8FAF924F0FC38790C5BD508EEDCE15EA45FDF7B1F7EC59FA2AB0E/11/ja)。

【請求項1】1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有することを特徴とする、

シソ風味香料組成物。

【請求項2】~【請求項8】 省略

請求項1については、含有成分として、“ペリラアルデヒド”を追加することによって、特許査定を受けている。

特許公報の発行(発行日2021年5月6日)の約5か月後(2023年10月28日)、一個人によって異議申立された(異議2022-701068、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2021-187294/E457BAE503D8FAF924F0FC38790C5BD508EEDCE15EA45FDF7B1F7EC59FA2AB0E/10/ja)。

審議の結論は、以下のようであった。

特許第7062828号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。

特許第7062828号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

異議申立人が申立てた申立理由は、以下の3点であった。

(1)“申立理由1(甲第1号証又は甲第2号証に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、

甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであ“る。

甲第1号証:周知・慣用技術集(香料)第II部  食品用香料  発行所  日本国特許庁、平成12年.1.14発行、P541、542  3・7・19シソ(perilla) フレーバー

甲第2号証:是沢  儀明、吉田  照雄、松尾  寿磨雄「香料用青しそにおける導入種の特性と栽培上の問題点について」熱帯農業、1973年、17巻、1号、p.13-17[online]、[令和4年9月2日検索]、インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsta1957/17/1/17_1_13/_article/-char/ja/>

(2)“  申立理由2(甲第1号証又は甲第2号証に基づく進歩性)

本件特許の請求項6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであ“る。

(3)“申立理由3(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであ“る。

以下、本特許請求項1に係る発明(本件特許発明1)に絞って、審理結果を紹介する。

異議申立日(2023年10月28日)の約3か月後(2023年1月30日)、取消理由通知書が送付された。

取消理由は、以下の2点であった。

(1)“ 取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであ“る。

(甲1は、異議申立人が証拠として提出した甲第1号証であった。)

(2)“ 取消理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)

本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲2に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであ“る。

(甲2は、異議申立人が証拠として提出した甲第2号証であった。)

取消理由1についての、審判官の判断は、以下のようであった。

・本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、以下の一致点及び相違点を認める。

<一致点> “「ペリラアルデヒド」「を含有することを特徴とする、シソ風味香料組成物。」である点”

<相違点1-1> 本件特許発明1が「1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有する」のに対し、甲1発明が1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有するかが不明である点

上記相違点1-1について、“甲1発明の「シソ精油」に関し、甲3によれば、一般的なシソ精油の代表例である北海道産青シソ精油には1,2-ジヒドロペリラアルデヒドが含まれるから、シソ精油には通常ジヒドロペリラアルデヒドが含まれるものといえる。”

 甲第3号証:高砂香料工業株式会社、コア コンピタンス セイボリートピックス、表1 シソ精油主要香気成分(area% GC-FID)、[online] 、[令和4年9月2日検索]、インターネット<URL:https://www.takasago.com/ja/f1avors/competence/savory/perilla.html>

・したがって、“甲1発明は、「1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有する」を満たし、相違点1-1は実質的な相違点ではな”く、“本件特許発明1は、甲1発明であるか、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。”

取消理由2についての、審判官の判断は、以下のようであった。

・本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、以下の一致点及び相違点を認める。

<一致点> “「ペリラアルデヒド」「を含有することを特徴とする、シソ風味香料組成物。」である点”

<相違点2-1> 本件特許発明1が「1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有する」のに対し、甲2発明が1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有するかが不明である点

上記相違点2-1について、“甲2発明の「北海道産青しそ精油」に関し、甲3によれば、北海道産青シソ精油(以下、単に「北海道産青しそ精油」と表記する)には1,2-ジヒドロペリラアルデヒドが含まれるものであるから、甲2発明は1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有するといえる。

・したがって、“相違点2-1は実質的な相違点ではな”く、“本件特許発明1は、甲2発明であるか、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

特許権者は、取消理由に対して、意見書及び訂正請求書を提出した(2023年3月31日)。

訂正請求は認められ、請求項1は、以下のように訂正された。

【請求項1】ペリラアルデヒド及び1,2-ジヒドロペリラアルデヒド(但し、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドがシソ精油由来のものを除く)を含有することを特徴とする、シソ風味香料組成物。

“1,2-ジヒドロペリラアルデヒドがシソ精油由来のものを除く”の除くクレームの形式への訂正であった。

訂正後の請求項1についての審判官の判断は、以下のようであった。

(1)取消理由1について

・本件特許発明1と訂正された甲1発明とを対比すると、以下の一致点及び相違点を認める。

<一致点> “「ペリラアルデヒド」「を含有することを特徴とする、シソ風味香料組成物。」である点”

<相違点1> 本件特許発明1が「1,2-ジヒドロペリラアルデヒド(但し、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドがシソ精油由来のものを除く)を含有する」のに対し、甲1発明においてはこのような特定がない点

・上記相違点1について、特許異議申立人は、意見書において、“シソ精油に含まれる1,2-ジヒドロペリラアルデヒドと、シソ精油由来以外の1,2-ジヒドロペリラアルデヒドとは、物として同一であり、両者を区別することはできないから、相違点1は実質的な相違点とはなりえない旨主張する。

しかし、 “甲1発明はシソ精油の他に1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有しないものであるから、甲1発明は、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項である「1,2-ジヒドロペリラアルデヒド(但し、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドがシソ精油由来のものを除く)を含有する」との特定事項を充足しないことは明らかである。

してみると、相違点1は実質的な相違点である。

・  “甲1及び他の証拠には、甲1発明において相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。

してみると、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。“

(2) 取消理由2について

・本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、以下の一致点及び相違点を認める。

<一致点> “「ペリラアルデヒド」「を含有することを特徴とする、シソ風味香料組成物。」である点”

<相違点2> 本件特許発明1が「1,2-ジヒドロペリラアルデヒド(但し、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドがシソ精油由来のものを除く)を含有する」のに対し、甲2発明においてはこのような特定がない点

・上記相違点2について、特許異議申立人は、意見書において、“シソ精油に含まれる1,2-ジヒドロペリラアルデヒドと、シソ精油由来以外の1,2-ジヒドロペリラアルデヒドとは、物として同一であり、両者を区別することはできないから、相違点2は実質的な相違点とはなりえない旨主張する。”

・しかし、“甲2発明は北海道産青しそ精油の他に1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有しないものであるから、甲2発明は、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項である「1,2-ジヒドロペリラアルデヒド(但し、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドがシソ精油由来のものを除く)を含有する」との特定事項を充足しないことは明らかである。

してみると、相違点2は実質的な相違点である。“

・“甲2及び他の証拠には、甲2発明において相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。

してみると、甲2発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

以上の理由によって、審判官は、取消理由1及び取消理由2には理由がないと結論した