昭和産業株式会社の特許第7011406号は、使用する米粉の損害澱粉量を特徴とする、たこ焼等用の粉に関する。進歩性欠如、サポート要件違反などの理由で異議申立てされたが、いずれの理由も認められず、そのまま権利維持された。
昭和産業株式会社の特許第7011406号“たこ焼類粉又はお好み焼類粉、及びたこ焼類又はお好み焼類“を取り上げる。
特許第7011406号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下である(
【請求項1】
損傷澱粉量が15~45%である米粉であって、小麦粉100質量部に対して、1~52質量部の配合量となるように配合するためのたこ焼類用又はお好み焼類用の米粉。
【請求項2】~【請求項3】
【請求項4】
損傷澱粉量が15~45%である米粉の含有量が、小麦粉100質量部に対して、1~52質量部であるたこ焼類粉又はお好み焼類粉。
【請求項5】~【請求項7】
【請求項8】
損傷澱粉量が15~45%である米粉の含有量が、小麦粉100質量部に対して、1~52質量部であるたこ焼類又はお好み焼類。
【請求項9】~【請求項10】
本特許明細書には、“損傷澱粉量”について、“米粉全量中の、損傷を受けた澱粉の量である。当該「損傷澱粉」とは、米を粉砕する時の圧力や衝撃等により、澱粉粒が機械的な損傷を受けた澱粉のことをいう”と記載されている。
本特許発明の解決すべき課題に関して、本特許明細書には、“たこ焼類及びお好み焼類では、温かい状態で喫食することが好まれ、喫食時にその内層が軟らかくかつ口溶けの良いことが好まれる。
しかしながら、依然、温かい状態で喫食するときに、内層が軟らかくかつ口溶けが良好なたこ焼類及びお好み焼類は、満足すべきものがない“と記載されている。
そして、本特許発明について、“米粉の損傷澱粉量に着目し、特定の損傷澱粉量の範囲に調整した米粉を用いることにより、内層が軟らかく、口溶けの良好なたこ焼類及びお好み焼類を得ることができ、本発明を完成させた。
しかも、本発明の米粉を用いて得られたたこ焼類及びお好み焼類は、冷凍保存後及び/又は冷蔵保存後の再加熱時でも内層が軟らかくかつ口溶けが良好であった。冷凍保存後に冷蔵保存し、再加熱して温かい状態にしたたこ焼類及びお好み焼類でも、内層が軟らかくかつ口溶けが非常に良好であった。また、得られたたこ焼類及びお好み焼類は、内層が軟らかい一方で、形状をある程度維持できるので良好な保形性を有していた“と記載されている。
公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下である(特開2018-201474
【請求項1】
損傷澱粉量が15~45%である米粉を有効成分とするたこ焼類用又はお好み焼類用の米粉。
【請求項2】~【請求項11】 省略
請求項1については、たこ焼類粉又はお好み焼類粉への、損傷澱粉量が15~45%である米粉の配合量を数値限定することによって特許査定を受けている。
特許公報の発行日(2022年1月26日)の約半年後(2022年7月20日)に、一個人名で異議申立てがなされた。
審理の結論は、以下であった(異議2022-700686
“特許第7011406号の請求項に係る特許を維持する。”
異議申立人は、甲第1号証~甲第5号証を証拠として提出し、以下の異議申立理由を申立てた。
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性欠如)
“本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたもの”である。
甲第1号証:特開2010-104244号公報
(2)申立理由2(甲第4号証に基づく進歩性欠如)
“本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもの”である。
甲第4号証:特開2002-125578号公報
(3)申立理由3(明確性要件違反)
“請求項7に係る特許は、それが引用する請求項4に記載された発明の範囲を超える範囲を包含するものであり、明確でない。”
(4)申立理由4(サポート要件違反)
“本件特許発明1、4、8に規定される小麦粉に対する米粉の配合量の全範囲で、例えば小麦粉100質量部に対して1質量部や52質量部の量で用いた場合に、本件特許発明の課題を解決するたこ焼き類又はお好み焼き類を提供できることは、発明の詳細な説明の記載からは確認できない。”
以下、本特許請求項1に係る発明(本件特許発明1)に絞って、関連する申立理由1、2及び4についての審理結果を紹介する。
1.申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性欠如)についての審理結果
甲第1号証(特開2010-104244号公報)は、発明の名称が“和風スナック用ミックス粉及び和風スナック”(出願人 日東富士製粉株式会社)である公開公報であり、米粉として“改質米粉としての白糠(膨潤度=6.8,アミログラフ最高粘度=120BU、α化度=76.7%)”を用いる発明である(“甲1米粉発明”)。
審判官は、本件特許発明1と甲1米粉発明とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。
“<一致点>「米粉であって、小麦粉100質量部に対して、1~52質量部の配合量となるように配合するためのたこ焼類用又はお好み焼類用の米粉。」”
“<相違点1-1>本件特許発明1は、米粉に関し、「損傷澱粉量が15~45%である」と特定されているのに対し、甲1米粉発明は、そのような特定がない点。”
審判官は、相違点1-1について、以下のように判断した。
・“甲1には、「改質米粉」が「澱粉を部分的に損傷させて得られた米粉」であることは記載されているが、「損傷澱粉量」についての記載はない。”
・“甲2には、洋菓子用米粉組成物において”、“米粉の澱粉損傷量が10%以上であること、及び米粉の製造上の観点から、米粉の澱粉損傷度の上限値は25%であることが好ましいことが”記載されており、
“甲3には、パン類用ミックス粉に含有させる米粉として、損傷でん粉含有量が15質量%以上の米粉であるのが硬化抑制効果に優れるので好適であること”などが記載されている。
“しかしながら、甲1は、作業性よく、食感の良い和風スナックを製造できる和風スナック用ミックス粉及び和風スナックを提供するために”、改質米粉として、“損傷澱粉量について最適化を行う動機付けはなく、ましてや、洋菓子用である甲2に記載された事項及びパン類用である甲3に記載された事項を適用する動機付けもない。”
・“本件特許発明1は、相違点1-1に係る発明特定事項を有することで、「内層が軟らかくかつ口溶けが良好なたこ焼類及びお好み焼類を得ることができ」る、並びに、「冷凍保存後及び/又は冷蔵保存後の再加熱時でも内層が軟らかくかつ口溶けが良好」(【0007】)である、という顕著な効果を奏するものである。”
以上の理由から、審判官は、“本件特許発明1は、甲1米粉発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない”と結論した。
2.申立理由2(甲第4号証に基づく進歩性欠如)についての審理結果
甲第4号証(特開2002-125578号公報)は、発明の名称が“お好み焼き類用生地組成物及びそれを用いたお好み焼き類の製造方法”(出願人 日東製粉株式会社)である公開公報であり、米粉として、「熱処理した穀粉(α化度12%)であるうるち米粉」を用いる発明である(甲4米粉発明)。
審判官は、本件特許発明1と甲4米粉発明とを対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。
“<一致点「米粉であって、小麦粉100質量部に対して、1~52質量部の配合量となるように配合するためのたこ焼類用又はお好み焼類用の米粉。」”
“<相違点4-1>本件特許発明1は、米粉に関し、「損傷澱粉量が15~45%である」と特定されているのに対し、甲4米粉発明は、そのような特定がない点。”
審判官は、相違点4-1について、申立理由1で認めた“相違点1-1と同旨であるから”、相違点1-1と“同様に判断される”として、“本件特許発明1は、甲4米粉発明に並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない”と結論した。
3.申立理由4(サポート要件違反)についての審理結果
審判官は、以下の理由で、“本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する”と判断した。
・本件特許の発明の詳細な説明によると、本特許発明の“発明の課題“は「内層が軟らかくかつ口溶けが良好なたこ焼類及びお好み焼類を提供すること」である。”
・本件特許の発明の詳細な説明には、“本件特許発明1ないし10に対応する記載があり”、また、“「損傷澱粉量が15~45%」であるという条件を満たすことの技術的意味が具体的に記載されている。”
・さらに、本件特許の発明の詳細な説明には、“「損傷澱粉量が15~45%」を満たす「たこ焼類用又はお好み焼類用の米粉」は、「損傷澱粉量が15~45%」を満たさない「たこ焼類用又はお好み焼類用の米粉」よりも、内層評価、口溶け評価、外観及び食感を含めたたこ焼き全体としての総合評価において、良好であることを確認する記載もある。”
・”そうすると、これらの記載に接した当業者は、「損傷澱粉量が15~45%」である「たこ焼類用又はお好み焼類用の米粉」との特定事項を満たせば、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1は、発明の課題を解決できると認識できる特定事項をすべて有するものであるから、当然に発明の課題を解決するものである。“
また、審判官は、上記した異議申立人の申立理由4(サポート要件違反)の主張に対して、以下のように判断した。
・本件特許明細書の記載から、“米粉の配合量が小麦粉100質量部に対して1質量部である試験例8及び16は、コントロールと比べて少なくとも4℃1日保存及び4℃3日保存にける総合評価がいずれも良好であることが確認されている。”
・“また、米粉の配合量が小麦粉100質量部に対して52質量部である試験例15及び20は、コントロールと比べて少なくとも4℃1日保存における総合評価が良好であることが確認されている。”
・“よって、小麦粉100質量部に対して1質量部や52質量部の量で用いた場合においても、当業者は課題を解決できると認識できるものであり、いくつかの評価項目においてコントロールと比べて良好でないことのみでもって”、上記の判断に影響を与えるものではない。
そして、”特許異議申立人の上記第4の主張は採用できない”と結論した。