特許を巡る争い<55>ヤマキ株式会社・麺つゆ特許

ヤマキ株式会社の特許第6729955号は、魚節及び/又は煮干しの抽出物を含有させることによって、おいしさを保ったまま麺つゆ等の糖分を減量させる方法に関する。請求項1について異議申立てされたが、先行発明との重なりのみを除く「除くクレーム」とする訂正することで権利異議された。

ヤマキ株式会社の特許第6729955号“減糖用組成物”を取り上げる。

特許第6729955号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りであるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6729955/C1145EB219FED7AD8D3FB5FA60B8E62F66167771850AC2DDE82DC1F4A080BA7F/15/ja)。

【請求項1】

鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、鰯節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物を、

喫食時に1~12質量%含有し、

さらに糖分及び塩分を含み、

(該魚節及び/又は煮干しの抽出物の濃度)/糖分濃度が、質量%の比率で、0.4~2.5の範囲であり(ここで、糖分濃度は、ブドウ糖換算とする)、

エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料の総量が0.1質量%以下である、

減糖めんつゆ(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)。

【請求項2】~【請求項4】 省略

本特許明細書の記載によれば、本特許発明における「減糖」とは、“例えば、糖を含む食品、又は糖の使用を前提とする食品において、糖分の減量を行うことをいう。

「減糖用」「減糖可能」とは、糖分の減量を補う甘味の調整が可能になること、又は糖を含む食品、又は糖の使用を前提とする食品において、糖分を減量しても、おいしさが保たれることをいう”。

また、用語「糖」、又は「糖分」や「減糖」に使用される用語「糖」とは、本特許明細書には、”単糖類又は二糖類であって、糖アルコールを除く。これらには、限定はされないが、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖などの単糖類・二糖類が含まれる”と説明されている。

本特許発明における“減糖方法”は、“醤油、糖分、及び塩分を含む食品組成物の減糖方法であって”、

具体的には、

“鰹節、宗田鰹節、鮪節、鯖節、鯵節、鰯節、鮭節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、キビナゴ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物を使用することで”、

“同程度の甘味強さ、味の濃さを達成するのに必要な糖分の量を、魚節及び/又は煮干しの抽出物の使用によって減少させることができる方法である。”

本特許発明を用いれば、

“エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料を実質的に含有させることなしに、糖分の量を減少させる方法であり得る

そして、本特許発明の減糖食品組成物は、請求項1に係る発明においては、“減糖めんつゆ”であり、請求項2に係る発明においては、“減糖煮物つゆ、減糖白だし、又は減糖おでんつゆ”である。

本特許の出願日は、2019年10月25日であるが、出願日に先立って開催された学会で発表された内容に基づく出願であり、特許法第30条第2項(新規性の喪失の例外)の適用を受けて出願されたものである。

また、出願日直後(2019年10月28日)に早期審査請求され、2020年6月9日に特許査定を受け、特許公報が2020年7月29日に発行されている。

このため、公開公報(特開2021-35349)の公開日は、特許公報発行後の2021年3月4日で、公開された特許請求の範囲は以下の通りであったhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2021-035349/C1145EB219FED7AD8D3FB5FA60B8E62F66167771850AC2DDE82DC1F4A080BA7F/11/ja)。

【請求項1】

鰹節、宗田鰹節、鮪節、鯖節、鯵節、鰯節、鮭節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、キビナゴ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、

魚節及び/又は煮干しの抽出物を有効量含有し、

糖分を含む食品組成物に用いられる為の減糖用組成物。

【請求項2】~【請求項5】省略

請求項1について、特許公報に記載された請求項1と比較すると、魚節等の含有量、糖分と塩分の含有、魚節等と糖分濃度との含有比率、及びエリスリトールなどの甘味料の含有量の限定がなされ、特許査定を受けている。

特許公報発行日の半年後(2021年1月28日)に、一個人名で異議申立てがなされた(異議2021-700095)。

異議は、請求項1の新規性欠如に関する申立てであった。

異議申立てに対して、特許庁は2021年5月31日付けで取消理由通知を送付した。

取消理由は、新規性欠如で、具体的には、“本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明”であると認めた。

なお、刊行物は、特開2009-27974号公報(甲第1号証)であった。

取消理由通知に対して、ヤマキ株式会社は、請求項1を以下のように訂正する訂正請求を行った。

【請求項1】

鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、鰯節、片口イワシ煮干し、マイワシ煮干し、ウルメイワシ煮干し、アジ煮干し、及びサバ煮干しからなる群より選択される少なくとも1種を原料とする、魚節及び/又は煮干しの抽出物を、

喫食時に1~12質量%含有し、

さらに糖分及び塩分を含み、(該魚節及び/又は煮干しの抽出物の濃度)/糖分濃度が、質量%の比率で、0.4~2.5の範囲であり(ここで、糖分濃度は、ブドウ糖換算とする)、

エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ズルチン、サイクラミン酸、及びネオテームからなる群より選択される甘味料の総量が0.1質量%以下である、

減糖めんつゆ

(該糖は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、及び/又は麦芽糖である)

(ただし、(A)ナトリウム1.2~3質量%、(B)カリウム0.8~2.5質量%、(C)エタノール1~10質量%を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1~1.9である容器詰液体調味料、及び該容器詰液体調味料を水で1:1に希釈しためんつゆを除く。)。

特許公報に記載された請求項1と比較すると、

“(ただし、(A)ナトリウム1.2~3質量%、(B)カリウム0.8~2.5質量%、(C)エタノール1~10質量%を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1~1.9である容器詰液体調味料、及び該容器詰液体調味料を水で1:1に希釈しためんつゆを除く。)”が追加されている。

上記訂正請求項1に対する審理の結論は、以下のようであったhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6729955/C1145EB219FED7AD8D3FB5FA60B8E62F66167771850AC2DDE82DC1F4A080BA7F/15/ja)。

“特許第6729955号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。

特許第6729955号の請求項1に係る特許を維持する。“

訂正の適否について審判官は、以下のように判断した。

“訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「減糖めんつゆ」について、「(A)ナトリウム1.2~3質量%、(B)カリウム0.8~2.5質量%、(C)エタノール1~10質量%を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1~1.9である容器詰液体調味料、及び該容器詰液体調味料を水で1:1に希釈しためんつゆ」を除くものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。”

“そして、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「減糖めんつゆ」のうち、甲第1号証に記載された発明との重なりのみを除く、いわゆる「除くクレーム」とするものであ”るので、“特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。”

新規性については、以下のように判断した。

本件訂正発明と甲第1号証に記載された発明(甲1発明)とを対比すると、以下の相違点が認められる。

本件訂正発明の「減糖めんつゆ」が、「(ただし、(A)ナトリウム1.2~3質量%、(B)カリウム0.8~2.5質量%、(C)エタノール1~10質量%を含有し、(A)ナトリウム/(B)カリウム質量比が1.1~1.9である容器詰液体調味料、及び該容器詰液体調味料を水で1:1に希釈しためんつゆを除く。)」ものであるのに対し、

甲1発明の「麺つゆ:水=1:1(質量比)で希釈する麺つゆ」は、

ナトリウムを2.57質量%、カリウムを1.39質量%、エタノールを1.3質量%含むものであり、ナトリウム/カリウム質量比が1.85である容器詰液体調味料である麺つゆを、「麺つゆ:水=1:1に希釈する麺つゆ」である点で相違する。“

したがって、“本件訂正発明と甲1発明とは相違する”ことから、“本件訂正発明に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する”と結論した。