特許を巡る争い<47>株式会社東洋新薬・抗疲労用経口組成物

東洋新薬の特許第6749665号は、β-アラニンとタンパク質を含有する、抗疲労用・持久力向上用の経口組成物に関する。進歩性欠如の理由で異議申立されたが、申立人の主張は採用されず、そのまま権利維持された。

株式会社東洋新薬の特許第6749665号“経口組成物”を取り上げる。

特許第6749665号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りであるhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6749665/F43B8C75040FCDD5A06417F4A6D77DB475E3E0D3896E7B5AB594828FA07F9D63/15/ja)。

【請求項1】

β-アラニン並びにタンパク質を含有し、組成物中のβ-アラニン含有量が5質量%以上であり、タンパク質含有量が30~80質量%であることを特徴とする経口組成物。

【請求項2】

さらに、水溶性ビタミンを含有することを特徴とする請求項1に記載の経口組成物。

【請求項3】

抗疲労用及び/又は持久力向上用である、請求項1又は2のいずれかに記載の経口組成物。

本特許明細書には、“β-アラニン”は、“β-アミノ酸の一種であり”、“タンパク質の構成成分とならないアミノ酸である”と記載されている。

また、“水溶性ビタミンとは、水に溶けやすいビタミンの総称であり”、

水溶性ビタミンとしては、“抗疲労作用、持久力向上作用、嗜好性並びに疲労感改善の体感性の観点から、ビタミンB1とビタミンCの併用が特に好ましい”と記載されている。

本特許発明に係る“経口組成物”は、“β-アラニンを特定量配合することにより、嗜好性及び疲労感改善の体感性に優れ”ていること、及び“優れた抗疲労作用、持久力向上作用を示す”と記載されている。

実施例には、本特許発明の経口組成物が、“優れたミトコンドリア活性能を有すること”、及び“優れた乳酸産生抑制作用を有すること”が記載されている。

本特許は、出願後(出願日2019年9月30日)すぐに、早期審査請求され(審査請求日2019年10月1日)、2020年8月3日に特許査定されている。

そのため、特許公報の発行後(発行日2020年9月2日)に、公開されている(公開日2021年2月15日)。

公開公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2021-16383、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2021-016383/F43B8C75040FCDD5A06417F4A6D77DB475E3E0D3896E7B5AB594828FA07F9D63/11/ja)。

【請求項1】

β-アラニン並びにタンパク質を含有し、組成物中のβ-アラニン含有量が3質量%以上であることを特徴とする経口組成物。

【請求項2】

さらに、水溶性ビタミンを含有することを特徴とする請求項1に記載の経口組成物。

特許公報に記載された特許請求の範囲と比較すると、請求項1は、β-アラニン含有量の数値範囲の減縮と、タンパク質含有量の数値限定がなされ、請求項3に経口組成物の用途の限定がなされている。

特許公報の発行日(2020年9月2日)の半年後に、一個人名で異議申立てされた(異議2021-700228、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-178729/F43B8C75040FCDD5A06417F4A6D77DB475E3E0D3896E7B5AB594828FA07F9D63/10/ja)。

審理の結論は、以下の通りであった

特許第6749665号の請求項1~3に係る特許を維持する。

異議申立人書は、証拠として甲第1号証~甲第7号証を提出し、請求項1~3に係る発明について、進歩性欠如を主張した。

具体的には、

“本件特許発明1-3はいずれも、甲第1号証、甲第1号証と甲第2-4号証、又は甲第1号証と甲第2-4号証と甲第5-7号証に基き当業者が容易になし得たものであるから、

特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである”というものであった。

なお、甲第1号証は、以下の文献であった。

甲第1号証:Sports, 2019, 7, 154; doi:10.3390/sports7070154(抄訳添付)

甲第2号証~甲第7号証:省略

異議申立人の主張に対する審判官の判断は、以下のようであった。

審判官は、本特許請求項1に係る発明(本件特許発明1)と甲1発明を対比して、以下の一致点及び相違点を認めた。

一致点:β-アラニン又はタンパク質を含有する経口組成物に係る発明である点

相違点1:本件特許発明1は、“β-アラニン並びにタンパク質を含有する経口組成物であるのに対して”、

甲1発明は、“β-アラニンを含有する経口組成物、又は、タンパク質を含有する経口組成物であって、β-アラニン及びタンパク質の両方を含有する経口組成物ではない点”

相違点2:本件特許発明1は、“経口組成物中のβ-アラニン含有量が5質量%以上であり、タンパク質含有量が30~80質量%であるのに対して”、

甲1発明は“経口組成物中のβ-アラニン及びタンパク質のいずれの含有割合も特定されていない点”

上記相違点1についての審判官の検討結果は、以下のようであった。

“甲第1号証には、β-アラニン及びタンパク質の両方を同じ経口組成物に含有させる旨の記載ないし示唆はな“い。

甲第2~7号証の記載を検討しても、本件優先日当時にβ-アラニン及びタンパク質の両方を同じ経口組成物に含有させることが技術常識であったともいえないことから、

甲第1号証において、β-アラニン及びタンパク質の両方を含有する経口組成物とする動機付けは見出せない。

また、上記相違点2についての審判官の検討結果は、以下のようであった。

“甲第1号証には、経口組成物におけるβ-アラニンの含有割合を5質量%以上とする旨の記載ないし示唆はない。”

“甲第1号証において推奨されている3~5g/日というβ-アラニン摂取量”という記載に基づくと、甲第1号証に開示された発明における“β-アラニン含有割合は1~4質量%程度にとどまることになる。

“甲第1~7号証からは、経口組成物中のβ-アラニン含有量を5質量%以上に増加させる動機付けとなる記載が見出せない。”

上記した検討結果から、審判官は、“本件特許発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に想到することができたものではない”と判断した。

さらに、審判官は、“本件特許発明1の効果について”も検討し、以下のように判断した。

“本件の発明の詳細な説明”からは、“β-アラニンの含有量を増やすと、美味しさ、味の濃さ、コク(深み)、及び口の中のねばつきの抑制の評価が上がることが読み取れる。

引用例1~7には、β-アラニンを含有することによる美味しさ、味の濃さ、コク(深み)、口の中のねばつきといった嗜好性の向上を示唆する記載はなく、

本件優先日当時に、β-アラニンの含有量を増やすことにより、美味しさ、味の濃さ、コク(深み)、口の中のねばつきの抑制が良好となるとの技術常識も存在しないことから、

β-アラニンの含有量を増やすことにより奏されるこれらの効果は、甲第1号証の記載及び本件出願時の技術常識から、当業者が予測し得なかったものである。“

“本件の発明の詳細な説明”からは、“β-アラニン含有量を増やすと、ホエイプロテイン含有量が減っていても、ミトコンドリア活性化能が上がることが読み取れる。”

また、“β-アラニン含有量を増やすと、ホエイプロテイン含有量が減っていても、乳酸産生抑制作用が強まることが読み取れる。”

“甲第1号証には、β-アラニンが高強度運動時の筋疲労を遅らせ、筋持久力を改善する可  能性があることが記載されているが、

筋疲労の抑制や筋持久力の改善を生じさせる作用機序は、ミトコンドリア活性化や乳酸産生抑制以外にも複数存在することは、本件優先日当時における技術常識である”.

“甲第2~7号証の記載を検討しても、本件優先日当時に、β-アラニンの含有量を増やすことにより、ミトコンドリア活性化能が向上し、乳酸産生抑制作用が増強されることが技術常識であったという証拠もない”。

したがって、“本件特許発明1のミトコンドリア活性化能の向上や乳酸産生抑制作用の増強という効果は、甲第1号証記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が予測し得たものであるとはいえない”。

審判官は、これらの検討結果から、“本件特許発明1は甲第1~7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない”と結論した。

また、本特許請求項2~3に係る発明(本件特許発明2~3)についても、

“本件特許発明2~3は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに発明特定事項を加えるか、用途を限定するものであるから、

本件特許発明1が甲第1~7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、

本件特許発明2~3もまた、甲第1~7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない”と結論した。