(51)特許を巡る争いの事例;畜産練り製品特許

味の素の特許第6048413号は、アミノ酸の一種、アルギニン又はその塩、を

添加することを特徴とする、無塩又は低塩の畜肉練り製品、あるいは、

つなぎ不使用の畜肉練り製品(ソーセージ等)の製造方法に関する特許。

異議申立されたので、味の素は特許請求の範囲を訂正して対抗した結果、

つなぎ不使用で結着性を向上させる製造方法に関する請求項2は

取り消されたが、他の請求項は権利維持された。

味の素株式会社の特許第6048413号「畜肉練り製品およびその製造方法」を

取り上げる。

特許第6048413号は、最初は国際出願され(国際公開番号WO2013/054946)、

その後に日本国内への移行手続きがなされ、審査請求されて、

特許査定(平成28年10月25日)になった特許である。

特許第6048413号の特許公報は、平成28年12月21日に発行されたが、

特許請求の範囲は、以下のようであった。

(特許公報 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6048413/40E7846574FD49F7D0B730F7DC9C3181)。

【請求項1】

原料肉100gあたり

アルギニン換算で0.0001g~10gのアルギニン又はその塩を

添加することを特徴とする、

食塩含量0.01%~0.9%の畜肉練り製品の製造方法。

【請求項2】

原料肉100gあたり

アルギニン換算で0.0001g~10gのアルギニン又はその塩を

用いることを特徴とする、

食塩無添加の畜肉練り製品の製造方法。

【請求項3】

つなぎを使用せず、

原料肉100gあたり

アルギニン換算で0.0001g~10gのアルギニンまたはその塩を

用いることを特徴とする、

つなぎ不使用の畜肉練り製品の製造方法。

(請求項4以下、省略)

アルギニンは、アミノ酸の1種で、緑茶、にんにく、イカなどの特徴的な呈味成分。

食品添加物として調味目的などで使用されている

http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc6_hishiryo3_arginine_240223.pdf

http://daesang.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/12/c4a0e14a8d338d6de42d3e9c665bbb4c.pdf)。

本特許は、

「アルギニンまたはその塩を用いることを特徴とする、無塩又は低塩の畜肉練り製品、

あるいは、つなぎ不使用の畜肉練り製品、およびそれらの製造方法に関するもの」であって、

「畜肉練り製品」として、

「ハンバーグ、ソーセージ、ミートボール」などが例示されている。

国際公開時の特許請求の範囲は、以下のようで、あった。

(国際公開番号WO2013/054946

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA1WO13054946/5398F5BABCA0517EA963694C6C8C7D06

【請求項1】

原料肉100gあたり

アルギニン換算で0.0001g~10gのアルギニン又はその塩を

添加することを特徴とする、

食塩含量0.01%~0.9%の畜肉練り製品の製造方法。

【請求項2】

原料肉100gあたり

アルギニン換算で0.0001g~10gのアルギニン又はその塩を

用いることを特徴とする、

食塩無添加の畜肉練り製品の製造方法。

【請求項3】

つなぎを使用せず、

原料肉100gあたり

アルギニン換算で0.0001g~10gのアルギニンまたはその塩を

用いることを特徴とする、

つなぎ不使用の畜肉練り製品の製造方法。

(請求項4以下、省略)

特許査定された請求項1~3と同じであった。

特許公報発行後6カ月後の平成29年6月20日に、一個人から、

異議申立がなされた(異議2017-700623)。

特許庁の審理の結果は、

「特許第6048413号の特許請求の範囲を

訂正請求書に添付された特許請求の範囲及び図面のとおり,

訂正後の請求項1,2,〔3-4〕,5について

訂正することを認める。

特許第6048413号の請求項2に係る特許を取り消す。

特許第6048413号の請求項1及び5に係る特許を維持する。

という結論だった。

訂正後の特許請求の範囲は、以下のようで、「つなぎを使用せず」の要件が追加された。

【請求項1】

つなぎを使用せず,

原料肉100gあたり

アルギニン換算で0.0001g~10gのアルギニン又はその塩を

添加することを特徴とする,

食塩含量0.01%~0.9%の畜肉練り製品の製造方法。

【請求項2】

つなぎを使用せず,

原料肉100gあたり

アルギニン換算で0.0001g~10gのアルギニン又はその塩を

用いることを特徴とする,

結着性の向上した食塩無添加の畜肉練り製品の製造方法。

【請求項3】

(削除)

(請求項4以下は省略)

上記の「結着性」という言葉は、「製品中で肉塊あるいは肉粒子がお互いに接着する性質」を意味している(http://jmeatsci.org/column/%E9%A3%9F%E8%82%89%E3%81%AE%E9%A3%9F%E6%84%9F)。

請求項2が取り消されたのは、以下の新規性欠如および進歩性欠如の理由からである。

「本件発明2は,甲8発明である,

又は甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,

本件発明2に係る特許(請求項2に係る特許)は

特許法29条1項3号又は同条2項の規定に違反してされたものであり,

同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。」と判断された。

具体的には、

甲8発明は、特開昭48-5967号公報に記載された発明で、

特許請求の範囲は、

「L-アルギニンおよびそれらの塩類より選ばれた1種または2種以上と

アルミニウム,マグネシウム,鉄,ナトリウム,カリウムおよびカルシウムの塩類より

選ばれた1種または2種以上とを含有してなる

魚畜肉食品の発色剤。」である

(特開昭48-5967号公報

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_S48005967/9DD33AAE51E35742E212F000BE4E1AB2)。

”甲8発明には、

本件発明2の「原料肉」,「アルギニン」,「畜肉練り製品」に相当する、

「鯨肉」,「L-アルギニン」,「魚肉ソーセージ」が記載されており、

アルギニンの添加により結着性が向上するから,

甲8発明には,「結着性の向上した」「畜肉練り製品の製造方法」も記載されており,

本件発明2と甲8発明とは,特段相違するところがないから,

本件発明2は甲8発明である。

仮に,

結着性の点で相違するとしても,

アルギニンの添加により結着性が向上することが広く知られているから,

甲8発明において,L-アルギニンの添加により結着性を向上させることは,

当業者が容易に想到できたものと認められる。

と判断された。

その他の請求項は、取り消されず、維持された。

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