「邪魔な特許」が見つかった時に、潰すために利用できる特許庁の制度は、
「情報提供制度」、「異議申立制度」、および「無効審判制度」である。
「邪魔な特許」と思われる特許が見つかった時にどうするか?
教科書的には、
特許の審査状況や権利状況の調査、特許の権利範囲に入るかどうかの属否判定を行う。
その結果、抵触(侵害)する可能性が高いと判断される場合、可能性の程度の評価が
必要になる。
程度評価のために先行文献調査を行い、その結果をもとに、「無効化可否の判断」を行い、
「邪魔な特許」への対応方法を決めていくことになる。
「邪魔な特許」を「潰せる」(拒絶査定または無効化できる)と判断された場合には、
特許庁の制度を利用して、潰していくことになる。
「潰す」ために利用できる特許庁の制度は、
「情報提供制度」、「異議申立制度」、「無効審判制度」の3つになる。
「邪魔な特許」が、審査請求前や審査中であれば「情報提供制度」を利用する。
「情報提供」することによって、
抵触しない形にまで特許請求の範囲を狭めさせたり(「減縮」させたり)、
「拒絶査定」に追い込んで完全に潰せれれば、目標を達成できたことになる。
審査請求前の情報提供の場合、強力な無効資料を提供すれば、
出願人に「審査請求しても、とても特許にならない」と思わせ、
審査請求の手続きを断念させることができるかもしれない。
しかし、回避可能と思わせてしまうような弱い無効資料を情報提供した場合、
出願特許を「邪魔な特許」と思っている会社があると認識させることになり、
出願人の権利化意欲を高めることになり、逆効果になる可能性がある。
「情報提供」によって潰すことができず、特許登録になった場合や、
早期審査制度の利用等によって公開公報発行前に既に特許登録されていた場合、
特許公報発行日から6カ月以内であれば「異議申立制度」を、
6カ月を超えた場合には、「無効審判制度」を利用して、潰しかかることになる。
以下に、各制度を説明する。
情報提供制度の概要(資料 https://www.jpo.go.jp/seido/s_tokkyo/jyouhou_01.htm)
(1)情報提供ができる時期;出願後はいつでも、特許付与後でも可。
(2)情報提供ができる者;誰でも情報提供可能、匿名でも可能。
(3)情報提供できる情報;拒絶理由や無効理由のうち、下記に関する情報を提供可能。
第17条の2第3項(新規事項追加)
第29条第1項柱書(非発明又は産業上利用可能性の欠如)
第29条第1項(新規性欠如)
第29条第2項(進歩性欠如)
第29条の2(拡大先願)
第39条第1項から第4項(先願)
第36条第4項第1号(明細書の記載要件違反)
第36条第4項第2号(先行技術文献情報開示要件違反)
第36条第6項第1号から第3号(特許請求の範囲の記載要件違反)
第36条の2第2項(原文新規事項追加)
(4)提供方法;書面、「書面」に該当しないもの(例えばビデオテープ)は不可。
書面;刊行物又はその写し、特許出願又は実用新案登録出願の明細書又は
図面の写し実験報告書などの証明書類 など
異議申立制度の概要
(1)異議申立できる時期;特許付与後の一定期間(特許掲載公報発行の日から6カ月以内)
(2)異議申立ができる者;だれでも。ただし、匿名は不可。
(3)異議申立できる情報;特許法第 113 条各号に規定の事由(公益的事由)に限定。
第 113 条第 1 号 新規事項違反(外国語書面出願を除く)
第 113 条第 2 号 外国人の権利享有違反、特許要件違反、不特許事由違反、先願違反
第 113 条第 3 号 条約違反
第 113 条第 4 号 記載要件違反
第 113 条第 5 号 外国語書面出願の原文新規事項違反
(4)特許異議の申立ての証拠方法;通常は文書、
他に検証物、証人、鑑定人、特許異議申立人本人も可。
情報提供制度や異議申立制度においては、新規性欠如、進歩性欠如、および
請求範囲や明細書の記載不備(サポート要件違反・実施可能要件違反)を
示す情報を提出できるかがポイントになる。
異議申立制度は、適切に審査が行われて、瑕疵のない特許権とするための制度であり、
特許査定にかかわる制度である。
一方、無効審判は、「特許の有効性に関する当事者間の紛争解決を図る」ことを目的とする
制度(「当事者系」)である。
無効審判制度の概要
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/toiawase/faq/pdf/sinpan_q/02.pdf
(1)無効審判請求できる時期;設定登録後いつでも(権利の消滅後でも可能)
(2)無効審判請求できる者;利害関係人のみ。
(3)無効審判請求できる理由
公益的事由(新規性、進歩性、明細書の記載不備等)
権利帰属に関する事由(冒認出願、共同出願違反)
特許後の後発的事由(権利享有違反、条約違反、訂正要件違反)
(4)審理;原則口頭審理
無効審判は、審判請求人と被請求人(特許権者)との間で進められる。
異議申立のチャンスは限定されているし、無効審判は審判請求できるのが利害関係者に
限定されている。
また、事前準備(できるかどうかの検討も含めて)や、専門家への依頼費用も大きいが、
特許査定された特許を無効にできる確率は、実際のところあまり高くなくない。
これに対して、情報提供制度は、特許庁が提供した情報を採用しなかったとしても、
別の資料を見つけて再度情報提供することができる。
審査の過程で、特許請求の範囲が訂正されることは往々にしてあることだが、
訂正された内容に応じて、臨機応変に情報提供することができる。
また、匿名で行うことができ、かかる費用も安価である。
ただし、
「邪魔な特許」を審査段階で見つける必要がある。
また、「邪魔な特許」として、抵触リスクが低い特許まで含めると、対応のための
作業量が膨らむだけで効率的でない。
本当に対応すべき「邪魔な特許」かどうかを適切に判断できるかがポイントになる。
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