(40)判定請求の事例1;梅酒様飲料特許

伊藤園の特許第5679598号「容器詰果汁含有飲料」は、ウメ果汁を含有する飲料特許だが、伊藤園は、チョーヤ梅酒株式会社の期間限定のある製品に対して権利範囲に入るかどうかの判定請求を行った。3回の判定請求はいずれも権利範囲に入るという判定だった。

判定請求の事例として、伊藤園の特許第5679598号「容器詰果汁含有飲料」を取り上げる。(判定請求制度は、「(34)特許侵害者を攻めるための制度」

この特許は早期審査制度を利用して特許庁の審査を受けたが、拒絶査定になった。これを不服して審判請求した結果、特許となった。

出願時の特許請求の範囲は、以下のようであった。

(特開2015-008711号公報、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H27008711/F706D0AE86226468072ECB41208714CC

【請求項1】

糖度が0.5~21.0であり、

糖酸比が1.0~30.0であり、

かつpHが2.0~4.0であることを特徴とする

容器詰果汁含有飲料。

(請求項2以下、省略)

一方、特許査定された特許請求の範囲は、以下のようで、糖酸比の数値範囲が狭くなり、

果汁量やウメ果汁使用の要件などが追加されている(特許第5679598号公報、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5679598/8064557850F61BB29F71AD6BCA5B7928)。

【請求項1】

糖度が0.5~21.0であり、

糖酸比が5.0~29.0であり、

pHが2.0~4.0であり、

かつ飲料全体に対する果汁量が0.5~30.0質量%であることを特徴とする

容器詰果汁含有非アルコール性飲料であって、

果汁がウメを含み、且つ

ウメ以外の果汁の使用量が飲料全体に対して0~5.0質量%であることを特徴とする

容器詰果汁含有非アルコール性飲料。

【請求項2】

非炭酸飲料であることを特徴とする請求項1に記載の容器詰果汁含有非アルコール性飲料。

本発明を使用することによって、ノンアルコールの「梅酒様飲料」において、ウメが本来有する爽やかな酸味とほのかな甘味の絶妙なバランスを楽しむことができると記載されている。

伊藤園は、チョウヤ梅酒株式会社の「チョーヤ夏梅」という商品が、特許第5679598号の権利範囲に入る(技術的範囲に属する)との判定を求めて、特許庁に判定請求した。

判定請求は計4回行われたが、最初の判定請求は取り下げられており、特許庁の判定が出されたのは3回(判定2015-600011、判定2015-600021、判定2016-600027)である。

判定2015-600011は、2015年3月23に判定請求され、2015年7月2日に判定が確定している(特許判定公報 判定2015-600011、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH27600011/5396FB37AFE0AEB9C734A9468E7C8284

伊藤園は、「チョーヤ夏梅」の製品(ロット番号:150609/SK)の分析値(糖度、酸度、pH)とラベル表示記載(梅果汁含量、原材料名、品名)を根拠として、権利範囲に入ると主張した。

結果は、「チョーヤ夏梅」は、「特許第5679598号の請求項1及び2に係る発明の技術的範囲に属する」、つまり、特許権の範囲内の製品であるという結論であった。

伊藤園は、2015年7月17日にも、同じ製品「チョーヤ夏梅」の判定請求を行っている。

「チョーヤ夏梅」は夏季の期間限定の商品であり、発売開始は毎年5月中旬頃。

上記判定2015-600011の確定日が2015年7月2日であることから、「技術的範囲に属する」という判定結果が出ていたが、販売中止はされなかった。

そのため、伊藤園は再度、判定請求したと思われる。

2回目の判定請求においても、「チョーヤ夏梅」は「特許第5679598号発明の請求項1及び2に係る発明の技術的範囲に属する」と結論された(確定日2015年11月2日)

(特許判定公報、判定2015-600021、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH27600021/5396FB37AFE0AEB9F24FA2E5317AD5C4)。

チョーヤ梅酒は、翌2016年も期間限定で「チョーヤ夏梅」を販売している(

http://www.choya.co.jp/news/20160418.html)。

伊藤園は、2016年10月28日にも、「チョーヤ夏梅」(ロット番号:170421/NIS)の分析値とラベル表示記載を根拠として判定請求し、同様に「特許第5679598号発明の請求項1及び2に係る発明の技術的範囲に属する」と判定された

(特許判定公報、判定2016-600027、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH28600027/F4E77B871C3DB8FD399DB87AE33F6E2D)。

2017年もチョーヤ梅酒は「チョーヤ 夏梅」を期間限定で発売したが(http://www.choya.co.jp/news/20170512.html)、伊藤園は判定請求しなかった。

2017年の「チョーヤ 夏梅」のニュースリリースには、「梅の最高品種とされる紀州産南高梅を使用した無添加(※)の自然派飲料です。・・・(中略)・・・。また、健康や美容に嬉しい梅由来の天然有機酸(クエン酸やリンゴ酸など)を1本に2200mg含んでおり、お風呂上りや気分転換したい時など“さっぱり”リフレッシュしたい時にぴったりの飲料です。(※)酸味料、香料、着色料、人工甘味料不使用」となっていた。

しかし、2018年のニュースリリース(http://www.choya.co.jp/news/20180511.html)は、

「梅の最高品種とされる紀州産南高梅を使用した無添加(※)の自然派飲料です。砂糖でじっくりエキスを抽出したフルーティーな梅果汁と酸味が際立つ梅エキスを使用し、夏にぴったりのすっきりとした甘酸っぱい味わいが特徴です。(※)酸味料、香料、着色料、人工甘味料不使用」となっている。

「糖酸比」を算出する時に必要な「酸」量に関係する、天然「有機酸」の含有量の記載が消えている。

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(引用文献)

特開2015-8711公報 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H27008711/F706D0AE86226468072ECB41208714CC

特許第5679598号公報 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5679598/8064557850F61BB29F71AD6BCA5B7928

特許判定公報【判定請求番号】判定2015-600011

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH27600011/5396FB37AFE0AEB9C734A9468E7C8284

特許判定公報【判定請求番号】判定2015-600021

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH27600021/5396FB37AFE0AEB9F24FA2E5317AD5C4

特許判定公報【判定請求番号】判定2016-600027

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH28600027/F4E77B871C3DB8FD399DB87AE33F6E2D

“無添加”梅ドリンク「チョーヤ 夏梅」2017年5月16日より全国で期間限定発売

http://www.choya.co.jp/news/20170512.html

「チョーヤ 夏梅」2018年5月15日(火)より全国で期間限定発売

http://www.choya.co.jp/news/20180511.html

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