(9)特許権は「資産」 ~無体財産権~

「特許権」は、税務上「無体財産権」と取り扱われる無形の資産である。特許権の財産価値には、金銭的価値と非金銭的価値がある。金銭的価値評価の手法として、原価法(コスト・アプローチ)、取引事例比較法(マーケット・アプローチ)、収益還元法(インカム・アプローチ)が代表的な方法で、目的に応じて適宜採用されている。

国税庁のホームページには、「特許権」が「無体財産権」の一つとして、以下のように記載されている(https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/inshi/08/06.htm)。

「特許権とは、特許発明を独占的排他的に支配する権利で、設定の登録により発生します。・・・・・・。なお、「特許権として登録された場合には譲渡する」ことを内容とする契約書は、特許権そのものの譲渡を約する(予約又は条件付契約)ものですから、第1号の1文書(無体財産権の譲渡に関する契約書)に該当します。」

すなわち、「特許権」は、取引対象となる無形の「資産」である。

特許権の財産価値には、金銭的価値と非金銭的価値がある。

特許権の金銭的価値評価の手法として、会計学的な資産評価の手法が用いられる。

代表的な方法は、以下の3つである。

1.原価法(コスト・アプローチ)

2.取引事例比較法(マーケット・アプローチ)

3.収益還元法(インカム・アプローチ)

1の原価法(コスト・アプローチ)は、特許取得に要した費用(コスト)をベースに評価額を設定しようとする考え方であり、具体的には、技術開発に要した費用や特許の取得費用・維持費用がベースになる。したがって、特許権取得によって生み出され得る収益は、まったく考慮されない方法である。

2の取引事例比較法(マーケット・アプローチ)は、当該特許と類似する特許の取引価格をベースに評価額を設定しようとする考え方であり、現実的な評価額と思われる。しかし、比較できる市場での公開事例が乏しいために、実際に適応するのは困難である。

3の収益還元法(インカム・アプローチ)は、当該特許によって期待される将来収益(インカム)をベースにし、将来収益を現在価値に直して(利回りで割り戻して)設定される。会計学での最も一般的で代表的な手法である。収益としては、売上、利益よりも、キャッシュフローが一般的に用いられる。この方法において、将来の収益額をどう予測するか、収益を生み出すのに当該特許権がどの程度寄与するか(寄与率)、割り戻し率について、客観性をどう担保するかが課題となる。

上記評価方法は、以下のような目的に適宜用いられている。

a.税務・会計目的;取引をめぐる税務・会計処理

b.特許権の売買・ライセンス取引

c.意思決定(投資判断、M&A、融資)

いずれの方法においても、評価に際して前提や仮定を置くことになるので、根拠として、客観性の高い情報をもとにするなど、評価結果に対して「コンセンサス」が得られやすいように取組むことが最も重要となる。

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(引用文献)

国税庁無体財産権の範囲 https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/inshi/08/06.htm

知的財産の価値評価

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/training/textbook/pdf/Valuation_of_Intellectual_Property_JP.pdf

弁理士による知的財産価値評価パンフレット・特許編

http://www.jpaa.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/03/patent20150826.pdf

知的財産の価値評価

https://lms.gacco.org/asset-v1:gacco+ga037+2016_09+type@asset+block/week2.pdf

特許権の価値評価における公認会計士と弁理士との連携

https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201509/jpaapatent201509_076-088.pdf

知財金融ポータルサイト・知財ビジネス評価書

http://chizai-kinyu.go.jp/docs/merit.html

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