(14)特許権による市場独占 ~クローズ戦略の限界~

特許権を武器にして、市場で独占排他的な地位を占めるという考え方(クローズ戦略)は、伝統的な考え方であるが、特許の権利切れによってその寿命が尽きた場合、一挙に市場を失うこともあり得る(パテントクリフ)。また、グローバル化などによる競争激化や技術の複雑化によって、クローズ戦略だけでは、市場で優先的な位置を占めることが難しくなってきている。

特許権は、「独占排他」をベースとする権利であり、事業における武器として使うことは伝統的な考え方である(クローズ戦略)。

クローズ戦略の例を2つ挙げる。

一つは、医薬品である。

例えば、アステラス製薬は、新薬開発に力を入れ、クローズ戦略を採っているという。

医薬品分野は、収益性が高く、代替技術や回避技術の開発に比較的時間がかかり、特許権を武器とするクローズ戦略での事業展開が、有効な分野と考えられる。

しかし、一方で、特許権が切れた場合(権利の最長期間は25年)には、ジェネリック医薬品(後発医薬品)がすぐさま台頭し、一挙に売上を失い、事業基盤がゆらぐ事態が起こりかねない。特許権切れを原因とする急激な売上減少をパテント・クリフ(特許の崖)と呼んでいる。

最近では、代替技術の開発がはやく、また、新薬開発の成功確率が低くなっており、開発自体が難しくなってきていることから、医薬品分野でも他社と組むオープン戦略が採られるようになってきている。

もう一つは、「スクラロース」という甘味料の例である。

スクラロース自体は海外で技術開発された高甘味度甘味料で、低カロリー食品に幅広く使用されている。

日本におけるスクラロース販売は、長らくの間、三栄源エフエフアイという会社が独占してきた。独占できたのは、スクラロースの用途や製剤化に関する特許を多数保有しており、同社以外からスクラロースを購入して、食品等に添加して使用しようとする。そうすると、同社の特許権に抵触することになる。そのため、同社から購入せざるを得ないことになる。

同社の特許戦略は成功しているが、そのために特許登録された特許は65件(J-PlatPatでの2017年11月24日検索、(出願人=三栄源)*(要約+請求の範囲=スクラロース))。主要な特許の出願は今から20年ほど前の1998年~1999年で、現在もなお特許出願が続けられており、出願数としては100件を優に越している。

このようにクローズ戦略を推し進めるために多大な労力を払っているが、主要特許の特許権切れが近いことや、中国企業などによって無効となった特許もあり、特許権による独占排他が難しい状況になってきている。

クローズ戦略は、市場を独占できるだけの技術であれば、大きな収益をもたらすことができ、高い技術力を持つ中小企業が活躍しやすいニッチェ市場においては依然として有効な考え方と思われる。

しかし、上記例に見られるように、特許権を活用しても、市場を長期間独占することは容易ではない。

グローバル化によって強い競争相手が増え、代替技術の開発スピードが速くなってきている。そのために、特許発明技術の寿命は短くなってきている。また、一つの製品が多数の特許発明技術から構成される場合が多く、一つの特許だけでは戦えない時代になってきている。

特許権は鋭利な武器、とまでは言えない状況になってきているように思われる。

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(引用文献)

第9回 特許を活用した市場独占による収益確保

http://www.mri.co.jp/opinion/column/IP/ip_20150805.html

アステラス製薬が競争優位となるための知財戦略  http://sshojiro.blogspot.jp/2015/06/blog-post.html

パテント・クリフとは http://iphappy.com/patent-cliff

第一三共、見えぬ「特効薬」 特許切れに危機感 がん領域注力

https://www.nikkei.com/article/DGXLZO10627670T11C16A2TI1000/

【「2010年問題」からの回復は?】製薬会社「5年成長率」ランキング

http://answers.ten-navi.com/pharmanews/7729/

オープン&クローズ戦略のための営業秘密・活用策  http://www.inpit.go.jp/content/100778933.pdf

高甘味度甘味料スクラロース  http://www.saneigenffi.co.jp/closeup/sucralose.html

スクラロースとは何ですか? http://j.cocacola.co.jp/info/faq/detail.htm?faq=18004

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