特許を巡る争い<33>キッコーマン vs カゴメ・トマトケチャップ特許(1)

キッコーマン株式会社他の特許第6207484号は、高リコピン含有ケチャップに関する。カゴメ株式会社が無効審判請求し、無効とする審決の予告が出されたが、キッコーマンは全請求項を削除する訂正を行ったため、審判請求の対象が存在しないものとなったことから、審判請求は却下された。

キッコーマン株式会社と日本デルモンテ株式会社の特許第6207484号“高リコピン含有ケチャップ”を取り上げる。

特許第6207484号の特許公報に記載された特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6207484/D08629621052FC2C5FD3B7896FF2521DF23625A888987337915B10707EBD0829/15/ja)。

【請求項1】

リコピンと、醸造酢由来のエステル類および/またはアルコール類と、を含有するトマトケチャップであって、

該リコピンの含有量が、25mg/100g以上50mg/100g以下であり、

該エステル類が、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、酢酸フェニルエチルエステル、からなる群から選択された少なくとも1種であり、

該アルコール類が、イソアミルアルコール又はフェネチルアルコールであり、

かつ、該エステル類および/または該アルコール類の内部標準物質1ppbに対する相対含量が0.06~1.0である、

高リコピン含有トマトケチャップ。

【請求項2】~【請求項5】省略

本特許明細書によれば、本特許発明は“リコピンを高濃度で含有しながら、香味の良好なケチャップに関する”発明である。以下に明細書中の記載を引用する。

リコピン”とは、“リコペンとも表記され英語表記ではLycopene、テトラテルペンであり、水に不溶、カロチノイドの一種で鮮やかな赤色を呈する有機化合物”であり、“リコピン(Lycopene)の健康機能性が明らかにされるに及び、トマトケチャップに対するリコピン含量の増強はますます注目され続けている”。

しかし、主原料の濃縮トマトに含まれる“リコピン濃度に限界があるため、一般的なトマトケチャップ100gに含まれるリコピン濃度は10mgから24mgの範囲内であった。”

そして、“トマトケチャップ中のリコピン濃度を高めると、リコピン由来の特有の臭いや濃縮トマト由来の特有の臭い、すなわち、油脂様臭、ムレ臭、焦げ臭等で表現されるような官能特性が認識されるようになるため食品としての香味や嗜好性が低下したり”等の理由で、高リコピン含有トマトケチャップは望まれているにもかかわらず実現できていなかったという。

本特許技術は、“ケチャップに香気成分であるエステル類および/またはアルコール類を含有することで、リコピンを高濃度に含有しながら、香味の良いケチャップが得られること、また、食塩含量が従来よりも幅広い範囲で含有していても、香味の良いケチャップが得られるとの知見”をもとに発明されたものである。”

公開公報の特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2015-146800、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2015-146800/D08629621052FC2C5FD3B7896FF2521DF23625A888987337915B10707EBD0829/11/ja)。

【請求項1】

リコピンと、エステル類および/またはアルコール類とを含有するケチャップであって、

該リコピンの含有量が、25mg/100g以上である、

高リコピン含有ケチャップ。

【請求項2】以下、省略。

エステル類とアルコール類の化合物の種類及び含有量と前記化合物の由来、ならびにリコピン含有量について、限定することに特許査定を受けた。

以下に、後述する無効審判の内容の理解に必要と思われるので、審査経過を紹介する。

本特許は、特許法第30条第2項の“新規性喪失の例外”の適用を受けて出願された。

具体的には、2013年7月12日にキッコーマン株式会社が自社のウェブサイトで公開した新発売のトマトケチャップのニュースリリース(https://www.kikkoman.co.jp/corporate/news/13033.html)を証明書として、2014年1月9日に出願された。

ニュースリリースのタイトルは、“デルモンテから、リコピンたっぷり1.5倍! 「デルモンテ リコピンリッチ トマトケチャップ」新発売!”である。

2015年3月31日に早期審査請求されたが、2015年10月15日に拒絶査定となった。

キッコーマン株式会社は、これを不服として、拒絶査定不服審判請求をした(不服2016-721、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2014-179276/D08629621052FC2C5FD3B7896FF2521DF23625A888987337915B10707EBD0829/10/ja)。

審判請求時に、特許請求の範囲を以下のように補正した。

【請求項1】

リコピンと、エステル類および/またはアルコール類を含有する醸造酢と、を含有する

トマトケチャップであって、

該リコピンの含有量が、25mg/100g以上50mg/100g以下であり、

該エステル類が、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸

イソアミル、酢酸フェニルエチルエステル、からなる群から選択された少なくとも1種で

あり、

該アルコール類が、イソアミルアルコール又はフェネチルアルコールであり、

かつ、該エステル類および/または該アルコール類の内部標準物質1ppbに対する相

対含量が0.03~1.0である、

高リコピン含有トマトケチャップ。

【請求項2】~【請求項5】 省略

しかし、特許法第36条関係(サポート要件、明確性要件)と、新規性要件および進歩性要件の欠如の理由で拒絶理由が通知された。

第36条関係については、“請求項1中の「エステル類および/またはアルコール類を含有する醸造酢」の「エステル類」及び「アルコール類」と、請求項1中の「該エステル類」及び「該アルコール類」との関係が特定できず、請求項1に係る発明を不明確”等の理由で拒絶された。

また、新規性要件と進歩性要件については、

新規性喪失の例外の適用を受けるための上記証拠(公開日2013年7月12日)と優先日(2014年1月9日)の間の2013年10月12日に公開された、

ウエブ情報(http://hitokuchi-md.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-3e8e.html、引用文献1)に本発明の請求項1ないし5に係る発明と相違点のない発明が記載されているするとして拒絶された。

引用文献1「ひとくちトマトのブログ」)には、「いなげや」より購入したデルモンテ社販売「リコピンリッチ トマトケチャップ」についてのリコピン含量などの商品特徴が記載されていた。

審判官は、新規性喪失の例外の適用を受けるための要件の一つとして、“イ)当該発明が特許法第30条第2「項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面」を提出しなければならない”とした上で、

“本願証明書により特定され、かつ、証明された発明は、上記アドレスのウェブサイトで公開されているキッコーマン株式会社のニュースリリースを公開した行為に起因した発明であり、

本願証明書の内容をみても引用発明1を「いなげや」に納品したことを示す記載がないことから、キッコーマン株式会社が「いなげや」に引用発明1を納品した行為に起因した発明について証明しようとするものと認めることができない。“

と結論した。

キッコーマン株式会社は、特許請求の範囲を、特許公報に記載された特許請求の範囲に補正するとともに、

“「デルモンテ リコピンリッチ トマトケチャップ」を全国で新発売したことが事実であることを裏付けるための補充資料として、「いなげや」へ引用発明1に係る商品を納品していたことを示す請求明細書控(甲第4号証)を提出し”て、特許査定を受けた。

特許公報発行日(2017年10月4日)の約1年後(2018年9月19日)に、カゴメ株式会社から無効審判請求がなされた。

(続く)