特許を巡る争い<32>キッコーマン・醤油含有調味液特許

キッコーマン株式会社の特許第6457858号は、レトルトパウチ袋に封入され殺菌された、炊飯米に混ぜて使用する具材入り醤油含有調味液に関する。ヤマサ醤油株式会社によって異議申立てされたが、含有食塩濃度を追加する訂正をして、権利維持された。

キッコーマン株式会社の特許第6457858号“醤油含有調味液”を取り上げる。

特許第6457858号の特許請求の範囲は、以下の通りである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6457858/9479BE1461468A150414E23A6096C80507BB1C9057C31C6701806FB5EE04AA6C/15/ja)。

【請求項1】

醤油と、粉末醤油と、糖類と、食塩と、具材とを含有し、

前記粉末醤油の含有量が0.2~16質量%であって、かつ、

前記醤油及び前記粉末醤油由来の合計窒素含有量を100質量%としたとき、

前記粉末醤油由来の窒素含有量が1~85質量%であり、

レトルト処理可能な耐熱性パウチ袋に封入され、加熱殺菌されており、

炊飯米に混ぜて用いるためのものであることを特徴とする醤油含有調味液。

【請求項2】以下は省略

本特許明細書には、

近年、炊飯米に混ぜるだけで、混ぜご飯となるようにした醤油含有調味液が市販されている。また、炊飯米以外の、例えば野菜や畜肉を用いた炒め物や焼き物、煮物などにふりかけて使用される惣菜用の醤油含有調味液も市販されている。

しかし、

混ぜご飯や惣菜に用いる醤油含有調味液は、前述したように、通常の醤油よりも塩分濃度が低く、具材等も含有することから、レトルト処理等に耐えうる耐熱性容器に封入されて、比較的高温の加熱殺菌がなされるので、

開封して使用したときの醤油の香り立ちが物足りなくなり、高温加熱殺菌によるレトルト臭やムレ臭などの劣化臭が強くなり、良好な風味が得られないという問題があった。

本特許発明を用いれば、

耐熱性容器に封入され、加熱殺菌された醤油含有調味液において、醤油の香り立ちを良好にし、レトルト臭やムレ臭などの劣化臭を軽減すること”ができる。

また、本特許発明に係る醤油含有調味液は、

米飯又は惣菜の味付けに用いられることが好ましい。

これによれば、混ぜご飯に用いられる具材(例えば、鶏ひき肉やニンジン、油揚げなど)を配合した本発明の調味液を炊飯米にまぜるだけで、美味しい混ぜご飯を作ることができ、

各種の総菜に付与することによって、醤油の香り立ちが豊かな総菜の味付けをすることができる

と記載されている。

本特許の公開時の特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2016-182106、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2016-182106/9479BE1461468A150414E23A6096C80507BB1C9057C31C6701806FB5EE04AA6C/11/ja)。

【請求項1】

醤油と、粉末醤油と、糖類と、食塩とを含有し、

前記粉末醤油の含有量が0.2~16質量%であり、

耐熱性容器に封入され、加熱殺菌されていることを特徴とする

醤油含有調味液。

【請求項2】以下、省略

”具材”の追加、窒素含有量の数値範囲限定、および調味液の用途を炊飯米に混ぜて用いるためのものであるとの限定を行い、特許査定を受けている。

特許公報の発行日(平成31年1月23日)の半年後(令和1年7月19日)に、

ヤマサ醤油株式会社により特許異議申立された(異議2019-700563)。

審理の結論は、以下のようであった(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2015-065592/9479BE1461468A150414E23A6096C80507BB1C9057C31C6701806FB5EE04AA6C/10/ja)。

特許第6457858号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~3]について訂正することを認める。

特許第6457858号の請求項1~3に係る特許を維持する。

以下、請求項1に係る発明’(本件特許発明1)に絞って、審理の経過を紹介する。

異議申立て後、取消理由通知が送達された。

取消理由通知は、以下の甲第1号証を証拠とする新規性欠如およびサポート要件違反であった。

甲第1号証:近江牛専門店千成亭の公式ホームページ,「近江牛混ぜ込みご飯の素」[online],2014年04月18日,[2019年9月19日検索],インターネットURL:https://www.sennaritei.co.jp/c/home-use/retortpouch/omg-0001 (以下「甲1」という。)

新規性について、審判官は、本件特許発明1と引用発明(甲第1号証に記載の発明)とを対比すると、

両者の間に相違点はなく、“本件特許発明1は、甲1に示された発明である”と判断した。

また、“引用発明の「近江牛混ぜ込みご飯の素」は、少なくとも2014年1月5日以前に日本国内において販売されていたといえる”として、

“本件特許発明1は、本件特許の出願前に日本国内において公然実施をされた発明であると判断した。

サポート要件に関しては、

本件特許発明の解決しようとする課題は、“醤油の香り立ちが良好で、だしの風味、混ぜご飯の味のバランス、混ぜご飯の全体的な味の好ましさが良好な醤油含有調味液を提供することであると認められる”、

そして、“発明の詳細な説明には、醤油含有調味液の食塩濃度が10.3質量%の場合に、

醤油の香り立ちが良好で、だしの風味、混ぜご飯の味のバランス、混ぜご飯の全体的な味の好ましさが良好であることが示されている”とした。

しかし、“本件特許発明1には、醤油含有調味液の食塩濃度は特定されて”いない。

したがって、

“醤油含有調味液の食塩濃度は任意であるため、醤油含有調味液の食塩濃度が、

本件明細書の実施例1~4で実施され混ぜご飯の全体的な味の好ましさが良好であったことが客観的に確認されている濃度以外の、

例えば極めて高濃度の場合、混ぜご飯の全体的な味の好ましさが良好とはならず、

前記課題を解決できるとはいえない。

したがって、

“本件特許発明1が、発明の詳細な説明に記載した発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるとは認められ”ないなどとして、サポート要件違反があると判断した。

上記取消理由通知に対して、特許権者は、意見書と訂正請求書を提出した。

訂正された特許請求の範囲は、以下の通りである。

【請求項1】

醤油と、粉末醤油と、糖類と、食塩と、具材とを含有し、

前記粉末醤油の含有量が0.2~16質量%であって、かつ、

前記醤油及び前記粉末醤油由来の合計窒素含有量を100質量%としたとき、

前記粉末醤油由来の窒素含有量が1~85質量%であり、

食塩濃度が0.5~15質量%であり、

レトルト処理可能な耐熱性パウチ袋に封入され、加熱殺菌されており、

炊飯米に混ぜて用いるためのものであることを特徴とする醤油含有調味液。

【請求項2】以下、省略。

食塩濃度の要件を追加する訂正であった。

訂正された請求項1に係る審理結果は、以下のようであった。

新規性について

本件発明1と甲1発明(取消理由通知で引用された甲第1号証に記載された)とを対比すると、以下の一致点と3点の相違点があると認めた。

一致点;醤油と、粉末醤油と、糖類と、食塩と、具材とを含有し、

レトルト処理可能な耐熱性パウチ袋に封入され、加熱殺菌されており、

炊飯米に混ぜて用いるためのものである醤油含有調味液

である点

相違点甲1-1:粉末醤油の含有量が、本件発明1では、0.2~16質量%であるのに対

し、甲1発明では、明らかでない点

(相違点甲1-2と相違点甲1-3は省略)

審判官は、このうち相違点甲1-1についてのみ判断を示し、

“甲1発明の調味液において、粉末醤油がどのくらいの割合で含まれているのかは不明であり、0.2~16質量%である具体的な根拠はない。

したがって、甲1発明の調味液における粉末醤油の含有量が、0.2~16質量%の範囲内であるとは認められないから、相違点甲1-1は、実質的な相違点である“と認めた。

その結果、本件発明1は、

“その出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に示される発明であるとはいえず“、

また、本件発明1は、”その出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるともいえず、特許法第29条第1項第2号にも該当しない”と結論した。

また、サポート要件違反について、“本件訂正により、訂正前の請求項1~3には特定されていなかった、醤油含有調味液の「食塩濃度」が、発明の詳細な説明の段落【0030】に記載されている、「0.5~15質量%」と特定された。

その結果、“本件発明1~3の前記課題を解決できると認識するといえる”として、“本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる”と結論した。