特許を巡る争い<24>マルトモ株式会社・削り⿂節の製法特許

マルトモ株式会社の特許第6508775号は、かつお節などの魚節を、節の繊維方向に対して略垂直に切削することを特徴とする、だしをとった後も、美味しくそのまま食べることができる、削り魚節の製法に関する。サポート要件違反と進歩性違反の理由で異議申立されたが、そのまま権利維持された。

マルトモ株式会社の特許第6508775号「削り魚節の製造方法」を取り上げる。

特許第6508775号の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6508775/DACD460113A4F4E6D2F333EE2B1A863F92BF178B79A78FDD2BC9F449FF7C6595/15/ja)。

【請求項1】

魚節を95℃~125℃の温度範囲で1分~15分の間加熱する蒸煮工程と、

魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削して削り魚節の肉厚を0.20mm~0.30mmの範囲とする切削工程と、

を備え、

前記切削工程における魚節の温度が45℃~90℃の範囲であり、

前記切削工程が、前記削り魚節のうち100重量パーセント中80重量パーセント以上を4.0cm2を超えて225.0cm2の範囲の大きさに魚節を切削する工程を含むことを特徴とする、削り魚節の製造方法。

【請求項2】

前記魚節が、かつお、さば、まぐろ、いわしおよびあじからなる群から選ばれる少なくとも一つを原料とする、請求項1に記載の削り魚節の製造方法。

本特許明細書には、発明の背景として、“従来、かつお、さば、まぐろ、いわしまたはあじなどの削り魚節は、枯節を形成し、枯節を削成して製造されてきた。・・・・・・(中略)・・・・・・削り魚節は、薄削りにしろ厚削りにしろ、だしをとった後は廃棄されている”と記載されている。

そして、“本発明によれば、魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削して製造するため、削り魚節の繊維を輪切りに断ち切ることができ”、

魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削する工程を採用することにより、得られた厚削りの削り魚節を食感向上のために破砕する工程が必要なくな”る。

発明の効果として、“本発明に係る削り魚節の製造方法によれば、だしをとった後、削り魚節に十分な旨味成分が残っているため、美味しくそのまま食べることができ、柔らかく優れた食感を有する削り魚節を提供することができる。だしと一緒に削り魚節を食べることにより、魚の栄養を豊富に摂取することが可能となる“と記載されている。

公開公報の特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2017-12140、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2017-012140/DACD460113A4F4E6D2F333EE2B1A863F92BF178B79A78FDD2BC9F449FF7C6595/11/ja)。

【請求項1】

  魚節を95℃~125℃の温度範囲で1分~15分の間加熱する蒸煮工程と、

  魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削して削り魚節の肉厚を0.20mm~0.30mmの範囲とする切削工程と、

  を備え、

  前記切削工程における魚節の温度が45℃~90℃の範囲であることを特徴とする、削り魚節の製造方法。

【請求項2】

  前記切削工程が、前記削り魚節のうち100重量パーセント中80重量パーセント以上を4.0cm2を超えて225.0cm2の範囲の大きさに魚節を切削する工程を含む、請求項1に記載の削り魚節の製造方法。

【請求項3】

前記魚節が、かつお、さば、まぐろ、いわしおよびあじからなる群から選ばれる少なくとも一つを原料とする、請求項1または2に記載の削り魚節の製造方法。

【請求項4】

請求項1~3のいずれかの製造方法により得られた、削り魚節。

請求項1に請求項2の要件を追加し、請求項4の物の発明を削除して、特許査定されている。

特許公報発行日(令和1年5月8日)のほぼ半年後に、一個人名で異議申立てがされた(異議2019-700849 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6508775/DACD460113A4F4E6D2F333EE2B1A863F92BF178B79A78FDD2BC9F449FF7C6595/15/ja)。

審理の結論は、以下のようであった。

特許第6508775号の請求項1〜2に係る特許を維持する。

異議申立人は、サポート要件違反および進歩性違反があると主張した。

以下に論点を説明する。

サポート要件違反について

特許異議申立人は、切削工程において切削した魚節の大きさ、魚節の大きさに対応する加熱温度及び加熱時間などが、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから、本件特許発明は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであり、サポート要件違反があると主張した。

これに対して、審判官は、以下のように判断した。

“本件特許発明が解決しようとする課題は以下のとおりと認められる。

だしをとった後、削り魚節に十分な旨味成分が残っていて、そのまま食べることができ(課題1)、柔らかく優れた食感を有する(課題2)、比較的安定した形状の(課題3)、削り魚節の製造方法を提供すること。“

“本発明の場合は、魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削する工程を採用することにより、得られた厚削りの削り魚節を食感向上のために破砕する⼯程が必要なくなり、火の通りやすいチップ形状ではないにもかかわらず、柔らかく優れた⾷感を実現し、食べやすいものを提供することが可能となる。”

“本件特許明細書の発明の詳細な説明に、実施例・比較例として、魚節の具体的な大きさやそれに応じた加熱条件及び官能試験が記載されておらず、大きさや含有量に関する比較実験が示されていないことが、直ちに、本件特許発明が、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えている根拠になるものではない。”

そして、

本件特許請求の範囲の記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識より、当業者が当該発明の課題が解決できると認識できる範囲のものと認められる。特許異議申申立人の上記主張は認められない”と結論した。

進歩性違反について

異議申立人は、“本件特許発明1〜2は、その出願前に日本国内において頒布された、以下に記載の甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである”と主張した。

甲第1号証︓特開2001-170888号公報

甲第2号証︓特開平8-205765号公報

これに対して、審判官は、以下のように判断した。

本件特許発明1(請求項1)と甲1発明(甲第1号証に記載された発明)とを対比すると、以下のような一致点と相違点が認められる。

(一致点)

“魚節の繊維方向向に対して魚節を略垂直に切削して削り魚節の肉厚を0.20mm〜0.30mmの範囲とする切削工程を備え、

前記切削工程が、4.0cm2を超えて225.0cm2の範囲の大きさに魚節を切削する工程を含むことを特徴とする、削り魚節の製造方法。」

(相違点)

(相違点1)本件特許発明1は、魚節を95℃〜125℃の温度範囲で1分〜15分の間加熱する蒸煮⼯程を備えるのに対し、甲1発明は、そのような工程を備えることが特定されていない点。

(相違点2)本件特許発明1は、切削工程における魚節の温度が45℃〜90℃の範囲であることを特定しているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。

(相違点3)本件特許発明1は、4.0cm2を超えて225.0cm2の範囲の大きさの削り節が100重量パーセント中80重量パーセント以上であることを特定しているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。

審判官は、相違点2と相違点3については、当業者が容易に想到し得たものであると判断した。

しかし、相違点1について、

“甲1には、魚節を削成する前の前処理について記載がないが、甲2の記載事項(2b)によると、乾燥により固くなった魚節を水浸や蒸煮等の前処理により削りやすくすることは、当業者が広く行っていたことといえる。そして、甲2には、当該前処理の一例として、「蒸気を吹き込みながら120℃で7分間加熱」する方法が示されている。”

“一方、魚節の前処理方法として、甲2に示された方法以外にも多くの方法があり、その中で甲2に示された方法が⼀般的であるという技術常識があるとはいえない。

また、甲2には、前記前処理した後に切削して得られた削り節は「花鰹」であった旨記載されており、魚節を筋繊維と直交して厚削りすることに関する記載はない。“

“そうすると、甲1発明において前処理を行う際に、数ある前処理方法の中から、薄削りの削り節を製造する際に行われた「蒸気を吹き込みながら120℃で7分間加熱」する方法を選択し適用することは、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

よって、相違点1は、当業者が容易に想到し得たものではない。

また、“本件特許明細書には、肉厚を0.20mm〜0.30mmの範囲とした削りかつお節は、だしをとった後でも美味しいこと(「効果1」)や、かつお節を⽔蒸気に接触させて加熱する温度が100℃〜120℃では結果が良好であったこと(「効果2」)が記載されている。

しかし、これらの本件特許発明による上記効果1及び効果2は、甲1または甲2に示されておらず、甲1及び甲2の記載から当業者が予測し得たともいえない。

以上の理由で、異議申立人の主張は採用されなかった。