特許を巡る争い<9>ポッカサッポロフード&ビバレッジ・ゼリー飲食品特許

ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社の特許第6087118号は、ゲル化剤を使用しながらも、ゼリー感が抑えられ、飲食品中の不溶性固形分を安定に分散させる方法に関する。2件の異議申立に対し、同社は訂正で対抗したが、記載要件(明確性、サポート要件)を充たしていないとして、取り消された。

ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社の特許第6087118号「ゼリー飲食品及びゼリー飲食品の製造⽅法」を取り上げる。

特許第6087118号の特許請求の範囲は、以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6087118/56AFB20007B94B7B7ACAF24F393BDEC3)。

【請求項1】

微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散され、

その濃度が0.04wt%~0.16wt%、かつ

粘度が1.5mPa・s~20.0mPa・sである

低粘性酸性ゼリー飲食品。

(【請求項2】以下、省略)

本特許明細書によれば、脱アシル化ジェランガムはゲル化剤で、繊維、果肉や野菜片等の固形物を含有する飲料、ソース、ドレッシングなどの食品において、固形物が沈殿や上層へ浮遊することなく、均一に分散させるために使用されてきている。

従来技術では、得られた飲食品の粘度は高粘度であり、かつ製造バッチや、製造用タンク等の容器内での粘度が均一でなく、さらに、口に入れた際にはゼリー感を感じ、従来の飲食品と比較すると不自然な口当たりがする問題点があった。

本特許を用いれば、安定して一定かつ均一な性質を示し、かつ低粘度の飲食品を製造可能で、不溶性固形分を沈殿あるいは浮遊させることなく、安定して分散させることが可能な飲食品を得られる、口当たりも、ゼリー感が低減された自然な口当たりを感じることができると書かれている。

実施例には、繊維を含むパイナップルジャム原料を使用した場合の効果が書かれている。

公開公報(特開2014-103923、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H26103923/999C4326F72EAF19A37143EDFE3F703D)の特許請求の範囲は、以下の通りである。

【請求項1】

微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが均一に分散され、

その濃度が0.03wt%~0.20wt%、かつ

粘度が1.5mPa・s~20.0mPa・sである

低粘性酸性ゼリー飲食品。

(【請求項2】以下、省略)

本特許は拒絶査定されたが、拒絶査定不服審判請求(2016-019490)し、「飲食品全体に安定して」の文言が追加されたのと、脱アシル化ジェランガムの濃度範囲を狭める補正を行い、特許査定を受けている。

特許公報発行日(平成29年3月1日)のほぼ半年後に、2件の異議申立がなされた(異議2017-700778、申立人はいずれも個人名)

審理の結論は以下の通りである(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JPB_6087118/56AFB20007B94B7B7ACAF24F393BDEC3/00/ja)。

特許第6087118号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕、5について訂正することを認める。

特許第6087118号の請求項2〜5に係る特許を取り消す。

特許第6087118号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

審理の過程で、ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社は、請求項1を削除し、請求項2以下の請求項を以下のように訂正した。

【請求項2】

微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散され、

ゲル層が飲食時に飲食品全体に対して100%であり、

その濃度が0.04wt%〜0.09wt%、かつ

粘度が3.6mPa・s〜20.0mPa・sであり、

pHが3.7〜5.0である

低粘性酸性ゼリー飲食品。

(【請求項3】以下は省略)

特許査定された請求項1と比較して、

「ゲル層が飲食時に飲食品全体に対して100%」の文言の追加、飲食品のpHの限定、ならびに脱アシル化ジェランガムの濃度と飲食品の粘度の数値範囲が狭められている。

審理では、明確性要件(特許法第36条第6項第2号)とサポート要件(特許法第36条第6項第1号)について争われた。

以下では、請求項2について説明する。

明確性要件が問題となったのは、請求項2の「微細ゲル化された脱アシル化ジェランガムが飲食品全体に安定して均一に分散され」の部分である。

審判官は、「均一に分散され」の部分について、

“飲食品に対してゲル層の比率が100%となることを意味していると解するのが相当である。

ところが、本件特許明細書には、ゲル層の比率を、有効数字2桁の精度で測定した結果が記載されているものの、その測定方法については何も記載されていないし、ゲル層の比率を測定することが当業者の技術常識であるとも認められない。

よって、ゲル層の比率をどのようにして決定すれば良いかを理解できず、飲食品に対してゲル層の比率が100%となった状態というのが、いかなる状態を意味しているのかを理解することができない。

したがって、「均一に分散され」の意味が明確であるとはいえない。“

と結論した。

さらに、「安定して」の部分について、

ポッカサッポロフード&ビバレッジが、「脱アシル化ジェランガムの微細化ゲルが安定して均一に分散された状態とは、目視にて判断できる」等の主張をしたのに対して、

脱アシル化ジェランガムの微細化ゲルは透明であり、ゲル層と水との境界を目視にて明確に判別することはできないと認められるから、当該主張は採用できない。」として、

「どの程度の安定性を意味しているかも明確でない。」として、明確性要件を充足していないと結論した。

サポート要件についての争点は、本特許発明を用いることによって奏される効果についてである。

審判官は、本件発明が解決すべき課題は、特許明細書の記載から4つあるとした。

そして、そのうちの少なくとも、以下の(1)と(2)の2つの課題については、

「実施例においも確認されていない。また、実施例以外の記載を踏まえても、発明の詳細な説明には、当該課題を解決できると認識できるような記載はなく、また、技術常識に照らして当該課題を解決できることが理解されるともいえない。」として、サポート要件を充足していない結論した。

(1)「バッチ間、製造工程にて使用されるタンク等の容器内における組成物の箇所間においても、安定して⼀定の性質を示し」ていること、

(2)「ソース、たれ、ドレッシングを使用する前の、容器を振ることによる攪拌を不要とすることにより、これらの飲食品の使用性を向上させること」

審理において、ポッカサッポロフード&ビバレッジは、ゲル化剤の濃度やその他の成分の濃度が実施例に記載されたものでなくても良いと主張した。

しかし、審判官は、特許明細書には、配合により粘度が大きく変化することが書かれているから、配合が安定性にも影響する可能性があり、仮に、特許明細書に記載された各実施例のものが課題を解決できるとしても、配合を変更した場合にも課題を解決できるとは限らないとして、主張を認めなかった。

(参考)

明確性要件 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0203bm.pdf

サポート要件 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0202.pdf