特許を巡る争い<1>日本製粉・挽き肉入りソース特許

日本製粉株式会社の特許第6040741号「挽肉入りソースの製造方法」は、ボロネーゼソースなどの製造方法に関し、挽肉焼成調理時の挽肉の厚さとオーブンの温度を数値限定した特許。異議申立され、日本製粉は訂正したが、進歩性欠如及び記載不備の理由で取り消された。

日本製粉株式会社の特許第6040741号「挽肉入りソースの製造方法」を取り上げる。

日本製粉は、「オーマイ」ブランドでパスタとパスタソースを展開している

https://www.nippn.co.jp/products/index.html)。

特許第6040741号「挽肉入りソースの製造方法」の特許請求の範囲は、以下の通りである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6040741/F3FF5B882247D8E112FF11C5CD5C9791)。

【請求項1】

挽肉入りソースの製造方法であって、

(1)厚さ1~3cmのシート状にした挽肉をコンベアーオーブンで

品温が70℃~105℃になるまで焼成する工程、

を含むことを特徴とする方法。

(【請求項2】以下、省略)

本発明の「挽肉入りソース」は、「オーブンで焼成した挽肉を使ったボロネーゼソース等」と書かれている。

食品工場でレトルト食品などの製造するにおいて、

「大量調理する場合、

挽肉をニーダーでソテーすると水分が蒸発しないため茹でた状態に近くなり、

メイラード反応による好ましい香りを付与することができず、

最終製品に肉特有の臭みが残ってしまうことがあった」。

しかし、「挽肉をオーブンで焼成する場合に、

品温が70℃~105℃になるまで加熱することにより」、

「食品工場などにおける大量調理においても、肉特有の臭みが消えて肉の好ましい香りが

付与されたボロネーゼソースなどの挽肉入りソース、

及びそれを用いた冷凍食品やレトルト食品を製造することができる」と書かれている。

本特許の公開公報の特許請求の範囲は、以下の通りである(特開2014-113076、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H26113076/999C4326F72EAF19DBC87E8C5DBAE252)。

【請求項1】

挽肉入りソースの製造方法であって、

(1)挽肉をオーブンで品温が70℃~105℃になるまで焼成する工程、

を含むことを特徴とする方法。

(【請求項2】以下、省略)

挽肉を「厚さ1~3cmのシート状」に限定し、さらに、オーブンを「コンベアーオーブン」に限定することで、特許査定されている。

登録公報発行日からほぼ半年後一個人名で異議申立された(異議2017-700558)。

審理の結論は、以下の通りであった。

特許第6040741号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された

訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。

特許第6040741号の請求項1-9に係る特許を取り消す。

日本製粉は、審理の過程で、以下のように特許請求の範囲を訂正した。

【請求項1】

挽肉入りソースの製造方法であって、

(1)厚さ1~2cmのシート状にした挽肉を

コンベアーオーブン(マイクロ波加熱装置を除く)で

品温が70℃~105℃になるまで焼成する工程、を含むことを特徴とする方法。

(【請求項2】以下、省略)

挽肉の厚さを「1~2cm」と数値範囲を狭くし、コンベアーオーブンとして、「マイクロ波加熱装置を除く」と限定した。

しかし、審判官は、進歩性の欠如、および実施可能要件・サポート要件・明確性要件を満たしていないと判断した。

進歩性の有無は、甲第2号証(杉村昌宏,本場のミートソーススパゲティ・ボロネーゼ,All About暮らし[online],2002年5月30日,インターネット )との対比によって判断された。なお、甲第2号証は、審査時の拒絶理由書に引用された文献である。

甲第2号証には、「シート状にした挽肉を焼成する工程、を含む」挽肉入りソースの製造方法が記載されているが、本発明とは、以下の3点で相違するとした。

1.シート状挽肉の厚さの記載がなく不明である点

2.焼成する工程をフライパンか中華鍋で行っている点

3.品温の記載がなく不明である点

しかし、これらの相違点は、周知技術に基づいて容易に想いつくことであって、

本発明を用いることによって得られる効果も予測される範囲内のものにすぎず、

格別顕著なものとは言えないという理由で、進歩性欠如と判断した。

また、実施可能要件・サポート要件・明確性要件について、以下のように判断された。

1.シート状にした挽肉の「品温が70℃~105℃になるまで焼成する」ことについて、

測定する部位によって品温が異なることは技術常識である。

しかし、請求項や明細書には「品温」の測定方法について何ら説明はなく、

挽肉のどこの部位の温度を特定しているのか判然とせず、不明確であり、本件発明の実施を

することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。

2.「厚さ1~2cmのシート状の挽肉」と特定されているが、

具体的に確認したものは実施例の厚さ2cmの例のみで、

厚さ1cmにおいても本発明の効果が得られることをサポートする記載はない。

3.したがって、実施可能要件・サポート要件・明確性要件を満たしていない。

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(参考文献)

実施可能要件 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/shinsa/pdf/kisaiyouken_honbun.pdf

サポート要件 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/02_0202.pdf

明確性要件  http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/iken/pdf/kaitei_mokuji_150708/02-02-03.pdf

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