【16】「先行」技術とは? ~資料の公開日の証明~

「先行技術」として、1.広く配布された刊行物(頒布された刊行物)、

2.電気回線(インターネット等)を通じて公衆に利用可能となった情報、

3.講演等を介して知られた公に明らかにされた情報(公然知られた発明)、

4.商業実施されているなど公に実施されている技術(公然実施をされた発明)、

の4つがあるが、それらの公開日の証明が重要になることがある。

審査基準の「第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」には、

「審査官は、新規性及び進歩性の判断をするに当たり、請求項に係る発明の認定と、引用発明の認定とを行い、次いで、両者の対比を行う。

対比の結果、相違点がなければ、審査官は、請求項に係る発明が新規性を有していないと判断し(第1節)、相違点がある場合には、進歩性の判断を行う(第2節)。」

そして、「審査官は、先行技術を示す証拠に基づき、引用発明を認定する。」として、「先行技術を示す証拠」が具体的に説明されているhttp://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0203.pdf)。

「先行技術」としては、具体的には、

1.広く配布された刊行物(頒布された刊行物)、

2.電気回線(インターネット等)を通じて公衆に利用可能となった情報、

3.講演等を介して知られた公に明らかにされた情報(公然知られた発明)、

4.商業実施されているなど公に実施されている技術(公然実施をされた発明)、

の4つになる。

刊行物としては、特許文献、科学技術文献、書籍、新聞記事、雑誌記事、学会要旨集などがある。刊行物の例として、図書館に寄贈された大学の卒業論文がある。「頒布された刊行物」とは、不特定の物が見得る状態におかれた、頒布により公開することを目的として複製された文書等と定義されている。卒論が図書館に寄贈され、閲覧できる状態で保管されていれば、先行技術となり得る。

通常は特許文献のみを対象として検索を行う「出願前調査」と比較して、調査範囲は広くなり、特許文献調査の知識や調査テクニックだけでは不十分となる場合が多い。

ここで問題となるのが、「先行」の定義である。

特許文献や書籍・新聞記事の場合は問題になることはない。

ちなみに、重版又は再版の刊行物の場合、初版の発行時期が記載されているときは、記載されている初版の発行時期が、推定頒布時期になる。

刊行物の頒布時期(情報公開時期)は、以下のように推定することになっている。

     発行時期の記載  推定される頒布時期
1.発行の年月日まで記載されているとき その年月日の終了時
2.発行の年月が記載されているとき その年月の末日の終了時
3.発行の年のみが記載されているとき その年の末日の終了時

海外の科学文献や、日本語の文献でも「紀要」や「報告」の類の文献では、紙面に記載があるのは、「年」あるいは「年月」までで、発行日まで記載されていない場合も多い。

「2.発行の年月が記載されているとき」または「3.発行の年のみが記載されているとき」に該当する。

たとえば、発行年月日の記載が「2018年12月」であると、推定頒布時期は「2018年12月31日」となる。

もし、無効化したい特許の出願日が「2018年12月28日」であった場合、引用発明の実際の頒布時期が、12月28日より前であることを示せれば、無効資料となる可能性が出てくる。

頒布時期の推定については、「刊行物に記載されている発行時期以外に、適当な手掛かりがある場合は、審査官は、その手掛かりから推定又は認定される頒布時期を、その刊行物の頒布時期と推定することができる」ことになっている。

上記した場合のように「2.発行の年月が記載されているとき」、または「3.発行の年のみが記載されているとき」は、「月日」まで記載されている証拠を捜すことが重要になる。

そうした場合には、J-Stage(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja/)などの検索サイトや雑誌の発行元のウエブサイトで、発行日や公開日の記載がないか調べてみる。

また、「外国刊行物で国内受入れの時期が判明しているとき 」は、「その受入れの時期から、発行国から国内受入れまでに要する通常の期間さかのぼった時期」を推定頒布時期となる。

国立国会図書館(http://www.ndl.go.jp/)などの図書館では、雑誌の受入日をおもて表紙などにスタンプで刻印しているので、例えば、海外の雑誌や書籍の日本で閲覧可能となった日の補強証拠として、表紙の複写物を利用することもある。

「2.電気回線(インターネット等)を通じて公衆に利用可能となった情報」の場合には、以前は、公的な機関のウエブページなど信頼性の高いサイトの情報しか証拠として採用されにくかったが、最近は、一般的なサイトでも採用されるようになっている。

ただし、情報が随時更新されて古い情報を見られない場合もあり、そうした場合には、“Internet Archive” (https://archive.org/)のwaybackmachineで検索する手がある。

「4.商業実施されているなど公に実施されている技術(公然実施をされた発明)」の場合には、実施時期の証拠として、商品発売元の新製品ニュースリリースやその商品関連記事、商品カタログが考えられる。

カタログの場合、頒布時期が記載されていない場合には、「当該他の刊行物の発行時期から推定されるその刊行物の頒布時期」となっており、推定の根拠となり得る資料を準備したい。

食品の場合、各社のカタログを集めたサイトがある(http://www.food-catalogue.com/)。

また、AMAZONなどで販売されていれば、その取扱日を証拠として使うことや、JANコードなど商品固有の認識番号が付与されている場合はそれをもとに調べることも考えられる。