【15】無効資料調査の検索は出願前調査と基本的に同じだが、特有なことがある。

「無効資料調査」が「出願前」の先行技術文献調査として比較して、特有なのは2点。

一つは、既に先行技術調査が行われた特許についての先行技術調査であり、一般的な先行技術文献調査では、通常は特許無効性を示せる文献を見つけることは困難である。

もう一つは、イ号商品やイ号技術の特許侵害を回避するための調査であり、全請求項に対する先行技術調査である必要はなく、イ号商品やイ号技術が抵触する可能性のある請求項に限定した調査で十分なことである。

「無効資料調査」といっても、出願日までに刊行あるいは公開された先行技術調査である点では、出願前に行う先行技術調査や審査過程において特許庁が外部機関に委託しておこなう検索と基本的に同じである。

新規性や進歩性の審査基準を理解した上で、特許分類や検索キーワードを用いて検索することは同じで、検索の考え方や検索テクニックも同じである。例えば、「先行技術文献調査実務[第四版]」(http://www.inpit.go.jp/jinzai/kensyu/kyozai/cjitumu.html)には、詳細に説明されている。

「無効資料調査」が「出願前」の先行技術文献調査として比較して、特有な点があるとすれば、2点であると思われる。

一つは、既に先行技術調査が行われた特許についての先行技術調査であり、一般的な先行技術文献調査では、通常は特許無効を証明する文献を見つけることは困難である。

したがって、審査経過や審判経過を熟知した上で、「潰すための新たな仮説」を構築した上で検索を行い、検索結果を基に「無効であることを論理的に示せる」能力が要求される。

そして、経験的には、1回の検索で目的とする文献を見つけることは容易ではなく、検索結果を見てうまく行かなければ、仮説の構築と調査、調査結果の検証を繰り返し行うことになる。

もう一つは、イ号商品やイ号技術の特許侵害を回避するための調査であり、全請求項に対する先行技術調査である必要はなく、イ号商品やイ号技術が抵触する可能性のある請求項に限定した先行技術調査で十分なことである。

ただし、目的とした資料が見つからなければ、調査に許容される期間と対費用効果を考えながら、どの時点で調査を終了するかの判断が重要になってくる。

無効資料の調査において気をつけたいのが、無効資料が「先行」技術が記載されたものであることの確認である。出願前先行技術文献調査でも同じではあるが、「先行」の定義のきちんとした理解が必要である。

「先行技術」とは、以下のように定義されている

(第 III 部 第 2 章 第 3 節 新規性・進歩性の審査の進め方 第 3 節 新規性・進歩性の審査の進め方 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0203.pdf)。

「3.1 先行技術

先行技術は、本願の出願時より前に、日本国内又は外国において、3.1.1から3.1.4までのいずれかに該当したものである。本願の出願時より前か否かの判断は、時、分、秒まで考慮してなされる。外国で公知になった場合については、日本時間に換算した時刻で比較してその判断がなされる。」

ここで、「出願時より前」に注意する必要がある。

優先権主張されている出願については、「出願日」ではなく、「優先日」を基準日として検索しておく必要がある。

以下に、「国内優先権」について説明する。

特許法第41条には、「国内優先権」制度について、

「既に出願した自己の特許出願又は実用新案登録出願(以下この章において「先の出願」という。)の発明を含めて包括的な発明としてまとめた内容を、優先権を主張して特許出願(以下この章において「後の出願」という。)をする場合には、その包括的な特許出願に係る発明のうち、先の出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下この章において「当初明細書等」という。)に記載されている発明について、新規性、進歩性等の判断に関し、出願の時を先の出願の時とするという優先的な取扱いを認めるものである。」との説明がある。

そして、「国内優先権の主張の効果」として、「国内優先権の主張を伴う後の出願に係る発明のうち、その国内優先権の主張の基礎とされた先の出願の当初明細書等に記載されている発明については、以下の(i)から(vi)までの実体審査に係る規定の適用に当たり、当該後の出願が当該先の出願の時にされたものとみなされる」となっている(http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun_bm/05_0200bm.pdf)。

国内優先権の主張を伴う後の出願ができる期間(優先期間)は、原則として、先の出願の日から 1 年である。

たとえば、先の出願から1年後に優先権主張のなされた出願は、出願日よりも1年前に出願されたものとしてみなされることになる。

審査基準には、「国内優先権の主張の基礎となる先の出願の出願日と後の出願の出願日との間に拒絶理由の根拠となり得る先行技術等を発見した場合のみ、優先権の主張の効果が認められるか否かについて判断すれば足りる。

国内優先権の主張の効果が認められるか否かにより、新規性、進歩性等の判断が変わるのは、先の出願の出願日と後の出願の出願日との間に拒絶理由で引用する可能性のある先行技術等が発見された場合に限られるからである。」と説明されている。

出願日を基準として調査をすると、例えば、出願日よりも1ヵ月前に発行された先行技術文献は漏れてしまうことになる。

なお、優先権主張しても、優先権が認められない場合がある。

具体的には、

「後の出願の明細書、特許請求の範囲及び図面が先の出願について補正されたものであると仮定した場合において、その補正がされたことにより、後の出願の請求項に係る発明が、「先の出願の当初明細書等」との関係において、新規事項の追加されたものとなる場合には、国内優先権の主張の効果が認められない。すなわち、当該補正が、請求項に係る発明に、「先の出願の当初明細書等に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入するものであった場合には、優先権の主張の効果が認められない」点も理解しておく必要がある。

もう一つ留意したいのは、「拡大先願」(出願時未公開の出願)である

(第 III 部 第 3 章 拡大先願 第 3 章 拡大先願(特許法第 29 条の 2)

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun_bm/03_0300bm.pdf)。

ただし、まったく同一の発明が出願されている場合は稀であると思われるし、仮に同一発明の出願が見つかったとしても、補正することによって先行発明を回避できる可能性は残されており、直ちに無効にできるということにはならない。