(58)特許を巡る争いの事例;花王 ビアテイスト飲料特許

(58)特許を巡る争いの事例;花王 ビアテイスト飲料特許

花王の特許第5998263号は、コクとキレが改善されたアルコール1%未満のビアテイスト飲料に関する。個人名で異議申立され、花王は含有成分量などを限定するなどの訂正を行ったが、実験データの裏付けが十分でないとして、取り消された。

花王の特許第5998263号「ビアテイスト飲料特許」を取り上げる。

特許第5998263号の特許請求の範囲は、以下の通りである。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5998263/396B5E6C02E3CA52872918479E4E85A7)。

【請求項1】
(A)プロリン、
(B)デヒドロアスコルビン酸 0.000005~0.14質量%、及び
(J)ナトリウムイオン 0.001~0.5質量%
を含有し、
成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)] が0.001~1000であり、
pHが2~5であり、かつ
エタノール含有量が1質量%未満である、ビアテイスト飲料。

(【請求項2】以下は省略)

ビアテイスト飲料は、「エタノール含有量が1質量%未満に抑えられた」ビ―ル風味の飲料で、本特許は、コクやキレの良好なビアテイスト飲料を提供を、発明の課題としている。

プロリンは、アミノ酸の一種で、甘味を呈する(https://kotobank.jp/word/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%83%B3-128203)、コクを改善する効果、

デヒドロアスコルビン酸は、アスコルビン酸(ビタミンC)が酸化されてできる化合物で(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%92%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%AB%E3%83%93%E3%83%B3%E9%85%B8)、ビアテイスト飲料のコクやキレを改善する効果があると記載されている。

公開時の特許請求の範囲は、以下のようであった (特開2017-18085
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H29018085/C034C1D601A046A6D27D35524EEAD411)。

【請求項1】
(A)プロリン、及び
(B)デヒドロアスコルビン酸
を含有し、
成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)] 0.001~1000であり、
pHが2~5であり、かつ
エタノール含有量が1質量%未満である、ビアテイスト飲料。

(【請求項2】以下、省略)

デヒドロアスコルビン酸の含有量と対プロリン含有比とを数値限定して特許査定されている。

本特許は、早期審査制度を利用しており、平成28年8月2日に特許査定され、9月28日に特許公報が発行されているが、公開公報の発行日は、平成29年1月26日と特許公報発行後である。

特許公報発行日にほぼ半年後(平成29年3月24日)に一個人名で異議申立された( 2017-700299 ) 。

結論は、

特許第5998263号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
特許第5998263号の請求項1~13に係る特許を取り消す。」

というものであった。

花王は、特許請求の範囲を以下のように訂正した。

【請求項1】
(A)プロリン        0.00001~0.00032質量%、
(B)デヒドロアスコルビン酸 0.00001~0.01質量%、及び
(J)ナトリウムイオン    0.001~0.5質量%
を含有し、
成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)] が0.032~95.2であり、
pHが3~4であり、かつ
エタノール含有量が1質量%未満である、
麦芽エキスを配合してなる金属缶容器詰非発酵ビアテイスト飲料。
(【請求項2】以下は省略)。

プロリン、デヒドロアスコルビン酸、及びナトリウムイオンの含有量や含有比などの限定を加えた。

しかし、審判官は、特許請求の範囲に記載された、

「プロリンの濃度、デヒドロアスコルビン酸の濃度、及び、飲料のpHの範囲が、

実施例に記載されたものに比べて広く、実施例で確認されていない範囲について、

本件発明の課題を解決できるとは認識できないから、

発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らし、

当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。」と判断し、

サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)で取り消しとなった。

(参考文献) サポート要件 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/02_0202.pdf

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