(42)訴訟の事例1;トマト含有飲料特許

カゴメは、伊藤園の特許第5189667号「トマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法」の無効審判を起こしたが不成功、そこで知財高裁に無効審判の取消をもとめ上告し、勝訴。しかし、伊藤園が上告したため、決着はついていない。

(追記)報道によれば、最高裁も知財高裁の判決を支持し、カゴメの勝訴が確定したとの

ことである。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180629-00000134-asahi-soci

特許権を巡る攻防が最終的に訴訟にまで至った事例として、伊藤園の特許第5189667号「トマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法」を取り上げる。

伊藤園は食品企業の中では際立って判定請求の件数が多く、本特許の抗争相手であるカゴメ株式会社との間でも判定請求の事例がある。

さらに、カゴメとは無効審判の場での争いもいくつかあり、とうとう訴訟にまで至った感がある。

特許第5189667号「トマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法」は、平成23年4月20日に出願され、約1年後の平成24年6月に早期審査請求された。

本特許出願の公開は平成24年11月15日であるが、公開日からわずか1カ月半後の平成24年12月27日には特許査定されていた。

出願された内容は、以下のようであった

(特開2012-223141公報、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H24223141/730A596C65E69579450F22AF2AB3CDDF)。

【請求項1】

糖度が7.0~13.0であり、

糖酸比が19.0~30.0であることを特徴とする、トマト含有飲料。

(請求項2以下、省略)

一方、特許査定された内容は、以下のようで、請求項1は、上記請求項1に,

グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の要件が追加された。

(特許第5189667号公報、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5189667/43DFB4C128EC731EBED2425A63203DFC)。

【請求項1】

糖度が7.0~13.0であり、

糖酸比が19.0~30.0であり、

グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が、0.25~0.60重量%であることを特徴とする、トマト含有飲料。

(請求項2以下、省略)

本発明を使用することにより、「主原料となるトマト以外の野菜汁や果汁を配合しなくても、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且つトマトの酸味が抑制された、新規なトマト含有飲料」を製造できると明細書に書かれている。

特許査定の約2年後(平成27年1月9日)に、カゴメは本特許の無効審判を請求した。

無効審判請求に対して、伊藤園は平成28年1月5日に訂正請求したが、特許庁は訂正を認めた上で、カゴメの請求を退けた(審決日平成28年5月19日)。

訂正後の特許請求の範囲は、以下のとおりであった。

【請求項1】

糖度が9.4~10.0であり,

糖酸比が19.0~30.0であり,

グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が,0.36~0.42重量%であることを特徴とする,トマト含有飲料。

(請求項2以下、省略)

糖度及びグルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計の数値範囲が狭められている。

カゴメは、この審決の取消を求めて、平成28年6月24日に知的財産高等裁判所(知財高裁)に上告した。

平成29年6月8日に判決が言渡されたが、「特許庁が無効2015-800008号事件について平成28年5月19日にした審決を取り消す。」というもので、カゴメが勝訴した

(平成28年(行ケ)第10147号 審決取消請求事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/825/086825_hanrei.pdf)。

知財高裁は、

「サポート要件」(特許法36条6項1号)に違反、すなわち、

「本件出願日当時の技術常識を考慮しても,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,糖度,糖酸比及びグルタミン酸等含有量が本件発明の数値範囲にあることにより,濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたという風味が得られることが裏付けられていることを当業者が理解できるとはいえない」(実験的に十分に裏付けられているとは言えない)から、

特許は無効であり、特許庁の判断は誤りであるとした。

新聞記事には、「カゴメ」「勝訴」の文字が躍ったが、伊藤園は平成29年6月22日に上告しており、決着はまだついていない。

(追記)報道によれば、最高裁も知財高裁の判決を支持し、カゴメの勝訴が確定したとの

ことである。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180629-00000134-asahi-soci

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(引用文献)

特開2012-223141公報

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H24223141/730A596C65E69579450F22AF2AB3CDDF

特許第5189667号公報

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5189667/43DFB4C128EC731EBED2425A63203DFC

平成28年(行ケ)第10147号 審決取消請求事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/825/086825_hanrei.pdf

特許・実用新案審査基準 第 II 部 第2章第2節 サポート要件

第2節 サポート要件(特許法第36条第6項第 1 号)

https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/02_0202.pdf

カゴメ、伊藤園に勝訴 トマト飲料の特許無効訴訟「苦味や渋味が風味に影響」 知財高裁

http://www.sankei.com/affairs/news/170609/afr1706090007-n1.html

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