(11)特許力 ~特許の「非金銭的」価値~

特許権の価値評価方法として、特許出願者の権利化意欲と他社への影響度に基づいて評価する「パテントスコア」(特許スコア)という考え方があり、資産価値とは異なる形で、特許力の評価に利用されている。

特許の価値評価として、「パテントスコア」という考え方がある。特定の特許について、特許庁での特許審査過程や特許後での各種イベント、発明技術の広がりなどをパラメータ化し、それらをもとにスコアリングしたもので、金銭に換算した資産価値評価とは異なる評価指標である。

パラメータは、主に、以下の3つの観点から選択されている。

  • 当該特許に対する特許出願者の権利化意欲
  • 他社の注目度
  • 特許技術としての認知度

1の「権利化意欲」は、特許の出願および審査の過程で出願人がどれだけ意欲的であったかを、具体的には発明者の人数、早期審査の有無、外国出願の有無などを数値化する。また、権利化された後の特許権の維持状況など、どれだけコストをかけているかも考慮される。

2の「注目度」は、特許庁の審査過程において他社がどれだけ関心を示し、また権利化の阻止や権利の無効のアクションをとったかが評価される。

具体的には、審査経過情報の閲覧請求回数、情報提供数、異議申立や無効審判の請求回数が指標となる。審査情報は公開されており、気になる特許については審査状況を知るために特許庁の審査情報を閲覧することになるが、閲覧すると閲覧記録が残る。したがって、閲覧回数は、当該特許を他社がどの程度気にしているのかの指標となる。また、情報提供は審査過程で行え得る唯一の権利化阻止手段であるし、異議申立や無効審判は特許査定を受けた後に特許の無効を主張する手段であるので、これらの回数は、当該特許を他社がどの程度邪魔な特許として考えているかの指標となる。

3の「特許技術としての認知度」の指標は、「被引用文献数」、他の特許の出願時や審査の過程で(もちろん後続特許になるが)、当該特許が引用された回数である。

後続特許出願において、権利化するためには、関連性が高く、重要度の高い特許は引用し、引用された先行特許との相違や優位性を主張する必要がある。引用される(被引用)の回数が多いということは、関連性高い特許ということができる。また、引用していなくても、審査の過程で、審査官から引用される特許は、関連性が高く、重要な先行技術であると審査官が認識した特許ということになる。

「パテントスコア」は特許自体の強さや影響度に基づく指標であり、競争武器としての強さを表している面があり、「特許力」と言ってよいかもしれない。

代表事例には、パテントリザルト社の「パテントスコア」や特許取得されているYKS手法がある。前者は、毎年、登録特許の個別スコアをもとに企業別年間総スコアランキングを発表しており、2017年3月末までの1年間では1位 三菱電機、2位 パナソニック、3位 キヤノンと発表している。後者では、YK値(特許価値評価指標;独占排他性の数値化)とYK3値(特許投資度指標;特許に対する注目度)を考案している。

「パテントスコア」の利用方法として、競合分析(技術面での優劣・自社特許の他社牽制力)、特許の重要度の判定がある。スコアで順位付けすることにより重要特許を特定し、調査対象の優先順位付けや、自社特許の棚卸(権利維持すべきかどうかの判断目安)がある。

ただし、留意すべき点もある。

一つは、パラメータに会計学的な要素はなく、パテントスコアが高いからと言っても必ずしも「資産」価値が高いとは限らないということである。

もう一つは、情報提供をはじめとする権利化阻止や無効化のアクション、及び被引用文献数は、いずれも特許出願からある程度時間経過しないと表に出てこないパラメータである。したがって、出願後、それほど時間経過していない特許出願については、適切に評価できているか判断することが難しい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(引用文献)

特許評価手法 http://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/training/2_01.pdf

パテントスコアとは? https://www.patentresult.co.jp/about-patentscore.html

特許資産規模ランキング2017 https://www.patentresult.co.jp/news/2017/11/all.html

工藤一郎国際特許事務所・価値評価 http://www.kudopatent.com/works/valuation/index.html

特許第5273840号「特許力算出装置及び特許力算出装置の動作方法」

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5273840/B6D212D361430F50511CACC5761278CC

平成20年度産業技術調査「技術評価による資金調達円滑化調査研究」結果概要

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11223892/www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/pdf/sammary_g_hyoka.pdf

特許スコア情報の活用

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/h28_minkan_jouhou_kinou/04.pdf

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・