(56)特許を巡る争いの事例;アントシアニン含有アルコール飲料特許

(56)特許を巡る争いの事例;アントシアニン含有アルコール飲料特許

 合同酒精株式会社の特許第6076531号「飲料またはアルコール飲料」は、アントシアニン色素の赤色保持方法に関し、商品に使用されている技術と思われる。異議申立されたが、酸度と糖質の濃度範囲の限定、含有成分、吸光度とアルコール度数の数値限定の追加の訂正を行うことで、権利維持された。

合同酒精株式会社の特許第6076531号「飲料またはアルコール飲料」を取り上げる。

本特許の特許請求の範囲は、以下の通りである

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6076531/E9AD8E9D67DD33361956D79C530D4304

【請求項1】

酸度が0より大きく、1.0以下であり、

糖質が0.1(w/v)%以上3.0(w/v)%以下であり、

アントシアニンを含有することを特徴とする飲料。

(【請求項2】以下は省略)

アントシアニンは、「ブドウ、紫トウモロコシ、ベリー、ハイビスカス、紫サボテン、赤キャベツ、ムラサキイモ、紫蘇」などに含まれる赤色色素である。

発明の背景として、「アントシアニンの鮮明な赤色を抽出するには酸が必要であることから、赤色を呈するアントシアニンを飲料や食品に含有させる場合、糖類を添加することによって、酸味を感じにくくすることが通常である」が、「近年の健康志向の高まりから、食品や飲料中の糖類の使用を極力抑えることが望まれている。」と明細書中に書かれている。

そして、本特許の目的は、「アントシアニンの赤色を保持しつつ、甘味を抑えながらも酸味をほとんど感じない、食用として好ましい飲料を提供すること」と書かれている。

公開時の特許請求の範囲は以下の通りである(特開2017-195783、

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H29195783/198ADF829BBE9F468515859465DFD8F1)。

【請求項1】

酸度が0より大きく、1.0以下であり、

糖質が3.0(w/v)%以下であり、

アントシアニンを含有することを特徴とする飲料。

(【請求項2】以下、省略)

糖質の濃度範囲を公開時の「3.0(w/v)%以下」から「0.1(w/v)%以上3.0(w/v)%以下」に狭めることによって、特許査定されている。

本特許は、出願後すぐに早期審査請求されている。

また、商品発表後の出願だったため(https://www.oenon.jp/news/2016/0414-1.html)、「新規性喪失の例外」(特許法第30条第2項)の適用を受けている。

なお、特許公報発行(平成29年2月8日)であるが、直後(平29.2.14)に「刊行物等提出書」 が提出されている。

特許公報発行日半年後に、2件の異議申立された(いずれも個人名、2017-700768 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/TA/JPJZH29700768/D8AE9D2B70EC60A59A4DC584A45CB052)。

審理の結果、

特許第6076531号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。

特許第6076531号の請求項1、3、5ないし8、10ないし13に係る特許を維持する。

特許第6076531号の請求項2、4、9に係る特許についての特許異議の申⽴てを却下する。」と結論された。

本特許は審理の過程で、以下のように訂正された。

【請求項1】

酸度が0.3以上0.8以下であり、

糖質が0.3(w/v)%以上2.0(w/v)%以下であり、

510nmにおける吸光度が0.1以上であり、

フィチン酸、アントシアニン及びアルコールを含有することを特徴とするアルコール度数15%〜30%の飲料。

(請求項2、4、9は削除、請求項3、5〜8、10〜13は省略)。

請求項1は、酸度と糖質の濃度範囲が狭められ、新たに含有成分、吸光度とアルコール度数の数値限定が追加されている。

取消理由として、特許法第36条第6項第2号(明確性要件)、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、および特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)が検討された。

特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号については、いずれも理由がなく、違反はないものと判断された。

また、特許法第29条第1項第3号、第2項については、異議申立人の提出した引用例1(特開2015-8711号公報)とを対比して、少なくとも以下の点で相違するとした。

<相違点1>引⽤発明は、510nmにおける吸光度が不明である点。

<相違点2>引用発明は、フィチン酸について特定していない点。

<相違点3>アルコールを含有しない点。

しかし、「引⽤例1に記載された発明であるとはいえず、また、引⽤例1に記載された発明及び引⽤例2(国際公開01/48091号)に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、その特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、⼜は第2項の規定に違反してされたものであるともいえない」として、新規性、進歩性を認める判断がなされた。

(参考文献)

明確性要件 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/iken/pdf/kaitei_mokuji_150708/02-02-03.pdf

実施可能要件 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/shinsa/pdf/kisaiyouken_honbun.pdf

サポート要件 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/02_0202.pdf

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