(45)特許を巡る争いの事例;ニンジン含有飲料特許

カゴメ株式会社の特許第5914743号は、ニンジン含有飲料の呈味向上方法に関する発明で、早期審査で特許査定になった。伊藤園は異議申立てしたが、カゴメは権利範囲を狭める対応をし、その結果、特許庁は取り消すべき理由がないとして申立ては却下され、権利は維持された。関連特許第5918892号に対しても伊藤園は異議申立てしたが、権利維持された。

カゴメ株式会社の特許第5914743号「ニンジン含有飲料の基本味向上方法、ニンジン含有飲料及びその製造方法、並びに、ニンジン微細物」を取り上げる。

なお、関連特許として特許第5918892号「ニンジンパルプの風味低減方法及びニンジンパルプの製造方法」があるが、特許第5914743号と特許第5918892号は、いずれも株式会社伊藤園から異議申立てされた。

特許第5914743号は、平成28年4月8日に登録された特許で(特許公報発行日;平成28年5月11日)、権利範囲(特許請求の範囲)は以下のようであった。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5914743/7806C071287C6DBB9547E0C1D5C5F700)。

【請求項1】

ニンジン含有飲料の旨味の持続性の向上方法であって、

それを構成するのは、少なくとも、調整であり、ここで調整されるのは、

ニンジン微細物の粒度又はニンジン微細物の調合量であり、それによって、

ニンジン含有飲料の[A]遠心沈殿量(%)、[B]累積50%粒子径(D50)(μm)、

及び、[C]累積90%粒子径(D90)(μm)が満たす関係は、

[A]≧16、かつ、

[B]≦-37.9[A]+1404.5、かつ、

[B]≧268.4、かつ、

[C]≦-91.7[A]+3300.0、かつ、

[C]≧550.3であり、

[A]遠心沈殿量(%)の測定時の遠心処理条件は、1,600×gで10分間である。

(請求項2以下、省略)

一方、本特許の出願時の請求項は以下のようであった。(特開2017-93348

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPA_H29093348/C034C1D601A046A6319EEB15CCC855FA)。

【請求項1】

ニンジン含有飲料の基本味向上方法であって、

その構成は、次の工程であって、調整されるのは、ニンジン含有飲料の

[A]遠心沈殿量(%)、[B]累積50%粒子径(D50)(μm)、及び、

[C]累積90%粒子径(D90)(μm)であり、

それによって向上されるのは、旨味の持続性である、

こと。

(請求項2以下、省略)

本特許は、出願直後に早期審査制度を利用して審査請求された。

2回の拒絶理由通知があったが、

[A]遠心沈殿量(%)、[B]累積50%粒子径(D50)(μm)、及び、

[C]累積90%粒子径(D90)(μm)に、数値範囲の限定を加えること、

および

もともとは、「ニンジン含有飲料における甘味の確保及び旨味の持続性を両立すること」を

課題としていたが、「旨味の持続性」の向上のみを目的とすることによって、

平成28年3月22日に特許査定となり、平成28年5月11日に特許公報が発行された。

特許公報発行後約3カ月の平成28年8月10日、伊藤園が異議申立てした。

結論は、以下で、伊藤園の申立は却下された(特許決定公報 異議2016-700722

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JP14H28700722/D69F9333B8FC96DF49BA22F5F4F49663)。

「特許第5914743号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2、3〕、4、〔5、6〕、7、〔8、9〕について訂正することを認める。

特許第5914743号の請求項2、3、5、6、8、9に係る特許を維持する。

特許第5914743号の請求項1、4、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。」

上記の「訂正後の請求範囲」は、特許公報に記載された請求項1を削除し、

【請求項2】

ニンジン含有飲料(ニンジン以外の野菜又は果実を含有する飲料を除く。以下、同じ。)の

旨味の持続性の向上方法であって、

それを構成するのは、少なくとも、調整であり、ここで調整されるのは、

ニンジン微細物の粒度又はニンジン微細物の調合量であり、

それによって、ニンジン含有飲料の

[A]遠心沈殿量(%)、[B]累積50%粒子径(D50)(μm)、及び、

[C]累積90%粒子径(D90)(μm)が満たす関係は、

[A]≧16、かつ、

[B]≦-37.9[A]+1404.5、かつ、

[B]≧268.4、かつ、

[C]≦-91.7[A]+3300.0、かつ、

[C]≧550.3であり、更に、

[B]≦86.0[A]-1444.5、かつ、

[C]≦211.1[A]-3663.4であり、

[A]遠心沈殿量(%)の測定時の遠心処理条件は、1,600×gで10分間である。

(請求項3以下は省略)

と訂正した。

特許査定された特許請求の範囲と比較し、「ニンジン含有飲料」を

「ニンジン以外の野菜又は果実を含有する飲料を除く」と定義している。

数値範囲も狭め、さらに数値限定で限定される事項も追加されている。

審理において、「実施可能要件」と「サポート要件」が争点となったが、

いずれも取り消すべき理由がないとして申立ては却下され、

カゴメの権利は維持された。

なお、カゴメ株式会社の関連特許第5918892号

「ニンジンパルプの風味低減方法及びニンジンパルプの製造方法」

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_5918892/39B4A2E45BB1E0D9D576922BAEBCBAC4

に対しても伊藤園は異議申立てしたが、申立ては却下され、権利維持された

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JP14H28700723/D69F9333B8FC96DF40474DC4AAF9D365)。

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(参考文献)

サポート要件 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/02_0202.pdf 

実施可能要件 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/shinsa/pdf/kisaiyouken_honbun.pdf

明確性要件 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11218880/www.jpo.go.jp/iken/pdf/kaitei_mokuji_150708/02-02-03.pdf

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